底辺の暮らし



 翌日。今日こそ何か収穫を…!とニコラは腹をさすりながら歩く。残飯でも構わない、食べ物が至急必要だ。



「あ!!そこの少年!」


 どこかの少年が呼ばれている。自分には関係ないな…とニコラはすたすた歩く。


「ま、待ちなさい!」


 少年よ、待ってあげなさい。とか思いながら残飯に想いを馳せる。


「この…!止まりなさいっ!!」

「!?」


 ぐいっと後ろに肩を引かれて、細いニコラは倒れてしまった。


「あ。全く…ほら」


 あ?あ。で済ませる気か。そもそもあなたが乱暴をしなければ、自分は転ばなかったんだが?

 そう恨みを込めて、差し出された手を振り払う。相手は…


 昨日見掛けた騎士の1人だった。まだ若く、中々整った顔立ちだ。

 成る程、騎士の大多数は貴族出身だ。貴族ならば、たとえ自分が悪くても謝罪なんぞしない。相手が自分より上の立場だったら、もちろん別だが。


 騎士は叩かれた手を呆然と見ている。ニコラは無視して立ち上がり、背を向けて歩き出す。


「待…!なんだその態度は!?」


 いらいらいら。そりゃこっちのセリフだ、失礼な騎士だな。

 ニコラは自分より弱い者には優しいが、強い者には厳しい。というより…優しくする必要を見出せないだけだが。



「オレ、忙しい」

「…?お前、外国人か?」

「そう」

「…随分と痩せているが、食事はしているのか」

「ない。取り行く」

「どこへ」

「その辺。ゴミ箱」


 騎士は目を丸くした。次いで悲しげに目を伏せる。その反応に、ニコラは一層いら立つ。

 最下層の人間がどんな暮らしをしているか、想像したこともないのだろう。

 まさか願うだけで、パンが空中から現れるとでも?井戸に温かいスープが入っているとでも?


「じゃま」

「な…っ!」


 これ以上構っている暇はない。とん とん と瓦礫を身軽に跳び、2階の屋根から騎士を見下ろした。



「助ける、ない。帰れ。同情、いらない」


 それだけ告げて、姿を消した。



「……助ける気がないなら、とっとと帰れ。同情なんかいらない…か?」



 騎士はしばらくその場で立ち尽くした。





 数日後。

 今日はカビているが、大きなパンが手に入った。カビ部分を削げば食べれるだろう。


「ゆっくり、食べる」

「「「やったあ!」」」


 小さい女の子3人は大喜び。4歳のマチカ、5歳のスピカ、9歳のエリカである。彼女達は名前が無いというので、ニコラが名付けた。

 ガチガチに硬いので、水でふやかしながら食べる。


「にーちゃんもほら、食べて」


 11歳の男の子、アールがニコラを促す。そうしないとニコラは、自分の分も誰かに分けてしまうのだ。

 今まさに「お腹いっぱいだから、みんなで食べなさい」と言う寸前だったりする。


「…うん」


 アールに監視されながら、みんなで仲良く完食。

 にーちゃんありがとう!と眩しい笑顔を見せた。


 その笑顔こそが…ニコラの原動力になる。



「(こないだ会った騎士は…こんな生活、夢にも思わないんだろうな。自分だって…数年前だったら…)」


 あの騎士の日常がなら。

 自分達は…ゴミ箱の中で暮らしているも同然。


 人間って不公平だなあ。だけどそれを嘆く暇も、憤る元気もニコラには無かった。



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