第15話 洞窟

 虎次郎はその後、どこの子供を攫ったのか、男か女か、何歳ぐらいなのかを、脅しをかけながら問いただした。

 二人から得られた答えは、七、八歳ぐらいの男の子で、貧しい物売りの一人息子なのだという。


「そんなはずはないだろう、俺たちが知っている話と違う!」


 と激しくたたみかけたのだが、


「俺たちも、なんであんな貧乏人のガキを攫ったのか、検討もつかねえ……これ以上は、俺たちは何も知らない……」


 と、二人とも涙目になりながら懇願するように言ってきた。

 口裏を合わせるそぶりもなく、事前に拷問されたときの準備をしていたとも考えられず、本当の事を話しているとしか思えない。


 今まで、他にどんな悪事を働いてきたのかも問うたが、本当に最近無理矢理盗賊に引き込まれた、地元ではガラが悪く、村八分にされていた漁民のようで、それ以上の情報は得られそうもなかった。


 取り急ぎ、その二人を林の奥の木にくくりつけたまま、猿ぐつわをして騒げないようにして放置した。


「俺たちが盗賊を成敗したら解放しに来てやるよ。お前たちの話した内容がウソで、俺たちが返り討ちに遭ったらそのときはこのまま野垂れ死ぬ。そういう定めだったと思って諦めな」


 虎次郎の言葉に、二人はウーウー呻いていたが、


「解放して騒がれでもしたら厄介だ。子供の命がかかっている以上、奴らはああしておくしかない」


 というハヤトに、桃も、そして舞も、同情を感じつつも仕方がないと考えるしかなかった。

 とはいうものの、


「さすがにあのまま長時間放っておくのは可哀想です……子供の事も心配ですし、早くなんとかしたいので、今回はできる限り仙術を使います」


 と、舞が切り出した。


「仙術……ああ、また例のやつを使うのだな」


 皆、一度体験しているので、ドローンを活用することは理解した。

 しかしそれが、遥か上空、島の全景が見渡せるほどの高度にまで到達し、AIである式部が令和時代の航空写真と重ね合わせ、現在位置と、盗賊たちがねぐらとしている洞窟の位置、そこまでの距離を正確に算出する様には、流石に全員唖然としていた。


 また、洞窟の内部までは分からないものの、その入り口に見張りらしき男がいることも、映像の拡大表示で示された。


「……これはもう、仙術どころか神の領域だな……三百年後には、誰もがこんな御業を使えるようになっているのか?」


 竜之進が、半ば呆れたように問うた。


「いえ、それなりに使用には規制や制限がありますし、費用も必要ですが……条件さえ揃えれば、父や私でなくても使えます。あ、練習すれば竜様や虎次郎様も使えますよ」


「……いや、興味はあるが、今はいい。それより、これからどうするか、だな……」


 上空には相変わらず厚い雲がかかっており、正確な太陽の位置はつかめないが、昼を過ぎていることは確かだ。


「そろそろ未の刻に差し掛かっていますね……」


 腕時計も兼ねる「時空の腕輪」で時刻を確認した舞がそう告げる。


「……何か食べておくか。空腹だと力も出ぬし、頭も回らぬ」


 竜之進がそう話すと、虎次郎が荷物の中から羊羹のようなものを取り出す。


「俺たちはこれで十分だ」


「では、私たちも……」


 舞が、そう言って桃とハヤトに手渡す。

 黄色い箱の栄養補助食品、「ケロリーメルト」だ。

 当然、竜之進と虎次郎の二人がそれに興味を示し、舞に分けてもらい、そして旨さに驚いたのだった。


 攫われているという子供の事が心配で、食事を最短で済ませ、ドローンの映像と式部の案内を頼りに、半刻ほど(約一時間)で洞窟の近くまでたどり着いた。 


 洞窟内部は、令和の時代には崩落していて明らかではない。

 なんとか中の様子を探りたいが、入り口には見張りが立っている。

 暇そうではあるが、洞窟入り口の周囲十数メートルは木々も切り倒され、草も刈られて見渡しが良くなっており、見つからずに潜入することは不可能だ。


 先ほど舞が飛ばしたドローンも、小型とはいえ、男性の掌ぐらいのサイズはある。

 そんなものを進入させれば、運良く見張りの隙を狙って入り込ませたとしても、内部で目立ってすぐに見つかってしまうだろう。


 二百メートルほど離れた林の中に身を潜め、思案していた一行だったが、舞だけは違っていた。


「あの……一応、偵察用の小型の『どろーん』もあるのです……性能も飛ばせる距離もさっき使ったのよりは大分劣りますが、見つかりにくいと思いますので……」


 舞が取り出したそれは、カナブンほどの大きさしかない、黒く塗られた超小型ドローンだった。

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