第14話 盗賊

 捕縛した二人は、ボサボサの頭に無精髭で、所々破れた服を着ている、みすぼらしい男だった。


 一人は体格は良く、力だけはありそうだったが、相当怯えていた。

 もう一人は小男で、すでに涙目になっていた。


 丈夫な紐で林の奥の大きな木に括り付けられ、もう身動きすることもできない。

 先ほどの煙玉による咳が治まってきたところで、ハヤトと虎次郎による拷問が始まろうとしていた。

 舞が、ひどいことはしないようにと言おうとしたが、それを察した竜之進に止められた。

 手加減されると思われては、拷問の意味がないからだ。


「……さて、もう分かっていると思うが、お前達二人には知っていること、ここにいた目的なんかを洗いざらいしゃべってもらう。なお、察しているとは思うが、俺たちは城から派遣された、藩主様直属の役人だ。もう既にお前達のことはほとんど知っている。だから、今から問うのはその確認だ。当然、ウソはすぐ分かる。そのたびに指を一本ずつへし折る」


 虎次郎がある程度、真実を交えて話す。

 ハヤトと少し離れた場所で事前に取り決めていたセリフで、この男達の事など全く知らないのだが、そのようにハッタリをかけていた。

 竜之進、桃も、経験上それを察知したが、舞だけは一瞬、自分だけ何も知らなかったのか、と意外に思った。

 しかしハヤトに、男達に見えないように睨まれて、そういうことかと察した。


「ではまず、単純に問う。ここで何している?」


 小次郎のその問いかけに、二人は顔を見合わせて、


「お、俺たちはただ、漁に出て、シケに遭ってこの島に流れ着いて……」


 小男がそういうのを聞いて、 


「よし、ハヤト、二人の右手小指を折れ」


 と虎次郎が命じた。


「なっ……おれはまだ何もしゃべってないじゃないかっ!」


「連帯責任だ、けれどまあ順序として、まずそっちの小さい奴の小指から折れ」


「ま、待ってくれっ! 正直に言う、言うっ! 俺たちは本当に漁師だ、けど、盗賊の奴らに脅されて、無理矢理船を操らされてここに連れてこられたんだ!」


 小男が必死に話す。


「……ふむ、盗賊っていうところだけは、俺たちが知っているネタと同じだな。だが、キサマが前から仲間じゃなかったって言う証拠はないしな……」


「ほ、本当ですってっ!」


「ならば、なぜ俺たちの船を壊した?」


「壊したのは、そっちのでかい奴ですっ!」


「なっ……新三郎、てめえ……」


 小男があっさりバラしたことに、大男が睨み付ける。

 ドスッ、っと言う音とともに、虎次郎の膝蹴りが大男の鳩尾みぞおちに入り、うめき声が漏れた。

 舞が顔を背ける。

 しかし、桃がそれをたしなめる。


「少なくとも、相手は躊躇ちゅうちょなく船を壊す悪者です。私たちが生きて帰れなくなっても構わない、そう思って行動できる悪人。相手に舐められてはいけません」


 とはいうものの、桃も初めての実戦のようで、声が少し震えていた。

 しかし、当の悪人二人はそれとは比べものにならないぐらいに震えており、女子二人の様子になど構う余裕もなかったのだが。


「……では、今度はお前に聞く。どうして俺たちの船を壊した?」


「……お、お頭……俺たちを無理矢理盗賊に引き込んだ奴の命令で、仕方なかったんだ……誰も生きて帰すなって言われて……そうしないと、俺たちが殺される……」


 大男が苦しそうに話す。


「そうか……なら、心配するな。俺たちが盗賊達を全員、成敗してやる。そうすればお前達の命は助かる。お前達二人は無理矢理命令されているんだろう? だから、正直に、ありのまま話せ」


 虎次郎が凄みをきかせてそうたたみかけた。

 ハヤトは、この人はこういうのに慣れているんだな、と思った。

 そしてそれを冷静に見つめる竜之進の目は、少しだけ二人を哀れんでいるように見えた。


 その後、尋問は順調に進み、残りの盗賊はあと六人居ること、自分たちは見回りが役目の下っ端であること、他の者たちは皆、手練れで恐ろしいこと、単純にこの島がねぐらとして適当だったので使っているだけであること、等々……。


「あの極悪人たちから助けてくれ」


 と懇願するように喋り続けた。


「……なるほどな、お前らも無理矢理盗賊に入れられた可哀想な奴らって訳だな……まあ、正直に話しているみたいだし、これまで言ったことが全部間違いなければ命は助けてやってもいいだろう。ただ、あと一つ教えろ。この島全体に響くような、あのうめき声の正体はなんだ?」


 虎次郎の問いに、またしても二人は顔を見合わせて言い淀んだ。


「よし、指を折れっ!」


「ま、待った! あれは、ただガキが洞窟の奥でわめいて、それが響いてあんな妙なうめき声みたいに聞こえるだけだ」


 大男が必死に弁明する。


「……ガキ? お前たちがさらった子供のことか?」


「あんた……それも知っていたか……」


 小男が驚いたようにそう口にした。

 もちろん、そんなことを虎次郎が知るはずもなく、ただカマをかけただけだ。

 それにまんまと引っかかったのだが……その小男の一言に、舞も桃も目を見開いて驚き、そして事の重大さに気づいた。

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