第53話 夜が明けたら

僕らは体を寄せ合い、いつの間にか眠っていた。

花火を最後まで見たかは覚えていない。


夢を見た。

と言っても、どんな夢だったかは全く覚えていない。ただ、夢の中でも、ずっと那澄の体温を感じていた気がする。

目を開けると、ちょうど朝日が顔を出し始めたところで、オレンジ色の空がゆっくりと広がっていた。乾いた空にスズメの鳴き声を聞きながら、僕は寝ぼけ眼をこする。

横から、微かな寝息が聞こえてくる。那澄はパーカーのフードをかぶり、僕の肩に寄りかかって眠っていた。


ふと、昨夜から繋ぎっぱなしの右手に視線を向けたとき、思考が一瞬止まる。

僕の手をしっかりと握る、細くて白い指、小さな手。

少しの間、それが何だかわからなかった。

その手から確かに那澄のぬくもりを感じ、まさかと思う。

那澄の手が、見える。

僕は、大きく息を吐いて横を向く。

何も知らずにすやすやと眠る那澄を数秒見つめてから、フードに手を伸ばした。緊張して、鼓動が強まる。

どうか。

願いながらフードの頂点部分を指でつまんだ僕は、ゆっくりと後ろに下ろした。





目を覚ました那澄が僕の顔を見て、

「おはよう......なんで笑ってるの?」

と寝ぼけた声で言う。

僕は彼女の瞳を真っすぐに見て、

「おはよう、那澄」

と返す。

那澄は不思議そうに僕を見つめた後、何かに気づいた様子で自分の手のひらに視線を向けた。

目を見開いた那澄が、再度、僕を見る。

「え、立紀君、私......!」

「うん」

僕は笑みをこぼしながら、頷く。

那澄は一杯に笑顔を浮かべたあと、勢いよく僕に抱きついた。

少しよろけながら、その勢いで半回転する。

那澄は笑いながら、泣いていた。

きっと、止めようのない涙だった。

溢れ出る涙のぜんぶが、空にはじけて溶けていく。

透き通った世界に、朝が広がっていく。


僕は那澄を強く抱きしめる。

もう大丈夫。

この先、何があっても僕たちは生きていける。





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透明なお隣さん うもー @suumo-umo

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