第13話
王宮に戻ってきたファルトはすぐに会いたくない人物に出会った。
後ろから肩を掴まれ振り向くと真っ赤な髪が目に入る。こんな燃える炎のような真っ赤な髪の人物は王宮で一人しか見たことがない。
「ファルト、どうだった?」
ヴィザはファルトの所属しているグループのリーダーであり、グループ内の仕事の進捗状況なども把握している。当然ファルトの仕事の状況も把握するのが彼の仕事だ。今回の仕事の進め方についてもスケジュールを提出しているため、ヴィザは今日がドミエの魔女への依頼日だと知っている。
「依頼は引き受けて貰えました」
簡単にそれだけ答えて逃れようとしたが、肩に乗っていた手がそれを許さない。
「そんなことは当然だろ」
その表情は完全に楽しむことしか考えていないような笑みでファルトは逃げたくて仕方なかったが、出会った時点で手遅れだとも思った。
「何を聞きたいんですか」
「そんなの決まってるだろ、ドミエの魔女殿のことだよ」
そうだとは思ったが、一体何を言えというのか。ファルトが眉を寄せて答えられずにいると、ヴィザの方が不思議そうな顔を返してきた。
「フレーベルの同期なんじゃないのか?」
ぎょっとしてヴィザの方を向くと、逆に驚かれた。
「ん?なんだ?違うのか?年齢や時期的にそうだと思ったんだが。だからあの仕事を選んだんじゃないのか?」
不思議そうな顔をするヴィザになんとなく罰が悪くなった。答えられないでいると、ヴィザはポンポンと肩を叩くと、「無理するなよ」と手を振って去っていった。
よく話掛けてくる先輩ではあるが、こちらが答えにくそうにしていたりするとだいたいそれ以上深追いはしない。さっと引いてくれるのはありがたい。
ファルトは少しだけため息をつくと、明後日のための準備を始めた。
***
彼女は予定通り王宮に現れた。ドミエの魔女としての姿を隠さない形で。
当然その姿は王宮内でとても目立つ。彼女をジロジロとこれ見よがしに見てくる他の士官たちが気になる。ドミエの魔女であるからと見ている者もいれば、明らかに彼女の容姿に惹かれている者もいた。
王宮内は開けた場所が多く基本的に隠れて移動するような事はできない造りになっている。彼女を他の士官の視線から避けることは難しい。
「マルメディには転移石を使っていく。ただ、王宮内ではどこでも移動系の魔法道具が使えるわけではないから、使える場所までいく」
部屋を案内し終わるとすぐにマルメディへ向かうするために転移部屋へ向かった。王宮は魔法や魔法道具の制限がされており、自由に使える場所は限られている。転移石という魔法道具を使うには、その場所まで行かなければ使うことができない。しかし転移石さえ使えれば、本来何日もかかるマルメディへの移動も一瞬だ。
空いている部屋を選んで中に入ると、ファルトは大した説明もせず右手に転移石を乗せランカに差し出した。転移石の使い方は学校でも学ぶため、説明は不要だと思ったのだ。しかも今回はファルトが使用する。
手を差し出されたほうのランカも、特に躊躇う様子を見せる事なくファルトの手に自分の右手を重ねた。触れられた白い手にドキリとしつつ、それを誤魔化すようにファルトは転移石に魔力を込めた。
手に乗せた転移石は赤く輝き始め二人を赤い魔力が包み込む。その時にランカの表情が歪むのが見えて、ファルトは聞き忘れたことがあることに気がついたが、すでに魔法は発動し終わっており手遅れだった。
景色が一瞬で変わり、それと同時に目の前の彼女が倒れそうになる姿が映りファルトは焦ってランカの右腕を掴んだ。
「大丈夫か?!」
口ではそう言ったが大丈夫ではないことは明らかだ。ファルトは自分の不注意に自分を殴りたい気分になった。
「転移石、久しぶりすぎて」
青い顔で言ったランカにファルトは謝る事以外できなかった。
「すまない、配慮に欠けていた」
士官になると転移石をこれでもかというぐらい多様するようになった。学校でも使用方法は習うが数回しか使わないため、全員と言っていいほど目眩や頭痛などを訴える生徒がいるほどだ。
転移先の部屋には椅子があったため、ランカをそこに移動させる。ここは転移用の部屋のため、もしかしたら同じように気分が悪くなった人用に置いてあるのかもしれない。
「すまない、先に聞けばよかった」
ファルトは椅子に座ったランカに対して膝を折り、もう一度謝罪する。少し考えればわかることなのに、そんなことすら頭が回っていない自分が不甲斐ない。
「私も大丈夫かなと思って手を置いてしまったので、すみません」
協力者に謝罪させてしまっていることがありえないとファルトは感じた。自分の考えのなさに、彼女に気を遣わせるなどありえない。
「転移石を使わないと時間がかかるのはわかってるし」
まだ体調が戻っていないだろうにそんなことを言ってくる。ファルトは自分の表情が自然に厳しいものになるのがわかった。
ちゃんと切り替えろ。仕事もまともにできないようなやつが何を望むんだ。
ファルトは少しだけ目を閉じて自分を心の中で叱咤した。
「だいぶ楽になったから案内して」
少し時間が経つとランカはそう言って立ち上がった。無理をしている気がしたが、相手も引き下がってくれそうになかったため、ファルトはそれを受け入れた。
しかしその後も問題は続く。
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