復活編

 金山店長が目覚めると、そこはとある総合病院の病室だった。


「え? え? 金山さん?! 先生、大変です、金山さんが!!」


 近くにいた看護師さんが絶叫するや否や、病室を出て行った。かと思えば医師とともに戻ってくる。何かとんでもないことが起きたらしい、と金山はのんきにもそう思ったらしい。


 もちろん看護師さんが驚いた理由は金山が目を覚ましたことだった。トラックに跳ね飛ばされてから一ヶ月もの間、彼はずっと意識不明の重体だったのだ。


「……つまりあれは全部夢だったというわけか」


 何とも不思議な夢を見たものだ、と金山はのんきにそう思った。


 診察、検査、回復、リハビリ――そして、退院。


「金山さんですか?」


 会計を済ませて、病院を出ようとしたところで品の良い中年に呼び止められた。


「そうですが、あなたは?」


和山わやまと申します。娘を救ってくれて、本当にありがとうございました」


「娘さんを? ぼくが?」


「あなたが交通事項に遭ったのは、わたしの娘を庇ってのことだったそうです。覚えていないんですか?」


「それがまったく」

 

「そうでしたか……いずれにしてもありがとうございます。何より、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 金山は覚えてないことでぺこぺこされても何だかむずがゆいだなと、のんきにそう思った。


「それで、娘さんは元気なんですか?」


 品の良い中年がさっと顔を強ばらせた。


「和山さん?」


「……退院したばかりのあなたに心労をかけるのも良くないのかもしれませんが、実は二週間ほど前から行方がわからなくなっているのです。部屋には『命の恩人を助けにいってくる』というわけのわからない書き置きだけが残されていまして」


「和山さん、不躾なことを聞きますが、娘さんのお名前は?」


有智佳うちかです。あの子も貴方には大変感謝をしていました……」


 有智佳ウティカ和山ワサン――ウティカさんは、自分を助けるために異世界に来た? 何故? どうやって?


 理由は明らかだ。命の恩人を助けるだなんて、そんなくだらない理由で、彼女は異世界を訪れたのだ。


 手段はわからない。でも、あの優秀だけどちょっとアンバランスなところがある彼女なら、きっと、どうやってか異世界を訪れる方法を見つけたことだろう。


 金山は思う。自分には救われる価値なんてない。救う価値があるとしたら、それは彼女の命の方なのだと。


「和山さん、これはぼくの勝手な想像なんですが……有智佳さんはまぁまぁ強情な性格だったのでは?」


「そうですね。一度こうと決めると、親の私が何を言ってもなかなか聞いてはくれない性格でした」


「そして、いい加減なことを言わない」


「ええ、ええ。そうですが、それが何か……」


 それならば望みはある、と金山は本気で思う。


 別れ際、彼女は自らのことを『魔王ウティカ』と言った。彼女が自ら魔王を称したならば、きっとそれは真実なのだろう。


 であれば、復活するってのもアリなはずだ。古来から


 やり方はわからない。見当もつかない。金山は彼女と違って意志が弱くいい加減で、何より平凡な男だった。それでも、今度は自分が彼女を探しだし、助ける番なのだ。それだけは、わかっていた。

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