第10話 魔力回復薬作り

「さて……」


 ユリウスと例の場所で別れ、買って来たものをシルヴィエは書斎のテーブルに並べた。


「何をするつもりなんです?」


 エリンがその様子を見てどこかワクワクした様子で近寄ってくる。


「魔力回復薬を作る」

「いまさらそんなものを?」

魔力吸引マジックドレインで大人にまで戻ると分かった。だからだよ」

「でも魔力回復薬で回復する魔力なんて大したことないじゃないですか」


 そういうエリンに、シルヴィエはNOと指を突きつけた。


「ああ。だから高濃度……いや超高濃度の魔力回復薬を作ってみようかと」

「だからこの量……ですか」

「そういうことだ」


 店にあったありったけの薬草に魔力触媒。これだけあれば本来は普通レベルの魔力回復薬を二十本ほど作れるだろう。

 さらに、シルヴィエ独自の製法ならばその効果はさらに高まる。

 今回はそれに改良を加え、限界まで効果を高めるのを目標にするつもりだ。


「そちらの魔石は? いい魔石ですね。高かったでしょう」

「こっちは保険だ。ロッドにつける。小さい体だと魔力量とコントロールが落ちる。もしもの時に力を発揮できないでは聖女の名が泣くからな」

「わかりました。その加工はあたしにお任せください」

「ああ、頼むよ」


 ロッドの加工をエリンに任せ、シルヴィエは超魔力回復薬の製作に入った。

 

 キッチンの横にしつらえた魔法薬研究の為のスペース。

 そこの一番大きな寸胴鍋に薬草を入れ、水で煮だしていく。

 それを何回も繰り返し、魔力触媒を加えてシルヴィエ特製の魔法陣を経て魔力を流し、さらにそれを蒸留して濃縮していく……。


「うわー……これは強烈だねぇ」


 そして出来上がったどろりとした茶色い液体の匂いを嗅いだシルヴィエは顔をしかめた。

 恐る恐る一口舐めてみる。


「びえっ……ごほごほ! ひどい味だ」


 激しい臭気とひどい苦みがシルヴィエの口内を襲った。


「大丈夫ですかぁ?」


 あまりの味に悲鳴をあげたシルヴィエの様子を、エリンが覗きにきた。


「ああ……濃縮は上手くいったんだけどね……これを飲み込むのはキツいわ」

「うーん、それなら飴がけとかにしたらどうですかね。甘いので包んで小さくしてゴクンってしたら苦くないかも」

「そりゃいい考えだ」


 こうして糖衣錠にした超濃縮魔法回復薬が出来上がった。


「効き目はどうだろうね」

「飲んでみます?」

「ああ」


 ぱくりとシルヴィエは臆する事無くそれを飲み込んだ。


「……」

「どうです?」

「魔力が増えてる感覚はする。見た目はどうだい?」

「ううーん、それは変わらないです」


 そうか、とシルヴィエはがっかりした。

 あの命を賭けるほどの魔力放出を購える程の威力はこの魔法薬にはないようだ。


「せいぜい大人の姿になるくらいかね」

「そうですねぇ……」


 それならば外出の度にエリンに負担をかけないですむ。

 まったくの無駄では無かった、とシルヴィエは自分に言い聞かせた。


「ロッドはどうだい」

「こんな感じです」


 エリンはロッドを見せてきた。金の針金で器用にロッドの先に魔石をはめ込んである。


「こういうことを頼むのならエリンだね」

「ありがとうございます」


 久し振りにシルヴィエから褒められて、エリンは嬉しそうににやにやと笑った。


『あるじー、へんなにおいがしますよー』


 充満する薬草の匂いに、クーロだけが不満げにウロウロと家中を歩き回っている。


「ごめん、ごめん。換気するから」


 こうして慌ただしい休日の一日は終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る