みかんの日

 抱えていた箱を、隣の家の玄関の前に一度降ろして、ベルを鳴らす。

「ごめんくださーい」

 ドアが開いて、太郎が出てくる。

「やあ花子、どうしたの。上がっていく?」

 相変わらずの上から目線だ。物理フィジカルで。

「そんなんじゃないから」

 開いたドアに箱を押し込んだ。

「はい、みかんのお裾分け。それじゃ」

「って単位、箱かよ!」

「うちにはあと二箱あるんだけど?」

 四国の親類がみかん畑をやってるらしくて、毎年みかんを送ってくるのだけど、今年は豊作すぎたらしくて、普段の倍以上送って来たのだ。それで、『隣に持って行って』という話。

「要らないと言っても置いてくけど」

「要ります要ります! 一房一房味わって食べるよ。花子のみかんだし」

「別にわたしのみかんって訳じゃないんだけど」

「それでも花子のうちからのみかんだし、大事にしないと。一房百万円くらいの積もりで」

 残されるよりはいいけど、正直、ちょっとどうかと思うので釘を刺した。

「ゆっくり食べてるとカビるよ?」

「マジで?」

「マジで。箱ごとダメになる」

 太郎のがっかりした顔。

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