狭い世間

 連絡を取り合うことが出来るよう、ファングとフレンド登録をしてから約一時間後のこと。

 昼食を済ませてから再びオリヴァの世界に戻ってきた俺とコトは、ファングに指定された座標へと向かっていた。


「まさか、また王都に来ることになるとはねー」

「確かにな。さっきのは無駄足だったか……?」

「そうでもないんじゃない? だってあの時、ここの大広場に立ち寄ってみたからこそファングとは会えたわけなんだし」

「……それもそうか」


 マップ片手に話しながら歩いているうちに、ファングに支持されていた場所へと辿り着く。

 ショーウィンドウがある店の前には、ファングが立っていた。


「よう、二人とも。待ってたぜ」

「悪いな、面倒かけちまって」

「何、気になる必要はねえさ。ま、とりあえず中に入ろうぜ」


 親指で店を指してから、ファングは店の扉を開ける。

 続いて扉を潜ると、中は現実のアパレルショップみたく様々な衣服が並んでいた。


「アクア、連れてきたぞー!」


 ファングが声を掛けた先にいるのは、アンニュイな雰囲気漂う深い青色の髪をした女性プレイヤーだった。


「へえ、この二人が噂の……」

「ああ、ケイガとおコトだ」

「初めまして、おコトって言います!」

「ケイガです。どうも」


 軽く頭を下げると、アクアと呼ばれた女性プレイヤーはカウンターを立ち、こちらに近づいてくる。


「ふーん……初期装備に月下真煌の腕輪、ね。……なるほど、本当に白碧を倒したんだ」


 言って、一頻り俺らの格好を眺めてから、


「……自己紹介、遅れた。私はアクア。ここの店の店主をしてる」

「アクアは俺の知ってる中で相当凄腕の生産職だぜ。……つっても、服系の防具専門だけどな」


 服系専門……餓狼丸と似たようなものか。

 あっちは楽器店って付いてるけど、音楽士専門の武器屋みたいなもんだしな。


 ——というか、噂ってなんだ?


「相当じゃなくて、一番。それで……私は、何を作ればいいの?」

「二人に見合った防具を作ってくれ!」

「……注文が雑過ぎ。もっと具体的に言って」


 はあ、とため息。

 うん、俺もアクアと同意見だ。


「特にこれといった要望はないですけど、これくらいの予算で作れるものであればなんでも……」

「三万ガル、か。……となると、これぐらいの性能になる」


 アクアはカタログ用のウィンドウを呼び出し、俺に見せてくる。

 これ、と指差した先にある防具一式の防御力を確認するが、


「……これって、どれくらいのレベルを想定してるんですか?」

「大体20レベル前半くらい」

「となると……今のレベルよりちょっと低いくらいか……」


 だとしても初期装備と比べればかなり防御力は高くなるし、無理に予算を上げてまでレベル相応の防具を買う必要はないか。


「俺はこれでいいけど、コトはどうする?」

「ん〜……」


 コトは喉を唸らせながら、暫くカタログと睨めっこをする。

 だが、いつまで経ってもピンと来るものがないようで、


「悩む〜! 決めらんないよー!」

「なら、とりあえずアクアさんのオススメにしておくか」


 直感で決められないとなると、多分一時間経ってもこの状態が続くだろう。


 コトは少しだけ不服そうな表情を浮かべるも、自分でも決断できそうにないことを自覚してるからか、きゅっと口を結んでいた。


「そんな顔すんな。欲しい物が見つかったらまた買いに来ればいい。その時はもっと使える予算を増やしてさ」

「……はーい」

「……話は決まった?」

「はい。これでお願いします」

「分かった」


 アクアはこくりと頷くと、カウンターの奥へと歩いて行く。

 そこで少し待ってて、と背中を向けたまま言い残して。


「あ……行っちゃった」

「アクアは結構マイペースっつーか独特な世界観を持ってるからな。ま、言われた通り待つとしようぜ」


 言いながらファングは店内に陳列してある商品を手に取った。

 それから少しして、コトがファングに訊ねる。


「——そういえば、ファングってなんてクランに所属してるの? 会った時、クランがどうのこうのって言ったよね」

「……ん、俺か? ビッグフォースってクランだよ。というか、俺がクラマス。お前らのことはそこにいるメタルカって奴から聞いたんだ」

「また、クラマスか……」

「また? 他にもどっかのクラマスと会ってたのか?」

「まあな。ファーストロックのラルカってプレイヤーにな」


 途端、ファングは思い切り吹き出しながら目を大きく見開いた。


「アッハッハ! マジか、アイツ……! もう二人に会ってたのかよ!?」

「え……ファング、ラルカさんと知り合いなの!?」

「ああ、異大陸で何度か顔を合わせたことがある」


 異大陸……確か、ゲームの本筋に関わる場所の名前だったな。

 クロカゲを連れている時点で予想はついていたが、トップ層の一人だったか。


「そうだっのか。それにしても……狭いな、世間」


 まさか一日に二人も上澄みプレイヤーと会うことになるとは。

 裏で何か働いているんじゃないか、と勘繰りたくなった。

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