ここをファイナルに
グラシアの大広場を東に進むと、王都に続く大門がある。
大門は常に開かれていて、プレイヤーであればいつでも通る事ができるらしい。
——
でもまあ、それは大半のプレイヤーには関係の無い話だ。
兵士NPCの検問を素通りし、王都の中へ入っていく。
「おおっ、雰囲気が変わったね。なんていうか、豪華で綺麗になりましたよーって感じ?」
街並みを見回しながらコトが感嘆の声を上げる。
言わんとする事は分からんでもない。
建物に使われる石材も、道を舗装する石畳もグラシアのと比べて明らかに良質な物が使われているのが見て取れる。
あと使う石の色が灰色メインだったのが、白系統の色に変わったことも関係しているのかもしれない。
色彩センスとかある訳じゃないから、あくまで俺の勘でしかないんだけど。
「そういえば、大広場ってどれくらい広いんだろうね」
「さあな。万単位の人数を収容できるだろうから、少なくともデカめのコンサート会場ぐらいはありそうだけど」
答えつつ耳を傾けると、俺らと同じように道行くプレイヤー同士の会話の話題は、大半が夜星きららのことで持ち切りとなっている。
それどころかNPC同士の会話ですら歌姫のワードが出始めている始末だった。
(凄いな、歌姫効果……)
夜星きららの影響力の高さに感心しつつ歩いていると、ついに大広場に到着する。
「なるほど……確かにこれなら——」
目の前に広がるのは、グラシアにあったものよりもずっと広いスペースだった。
陸上競技場のように横に長く、スタンド座席を作ることができれば五、六万人は収容できるかもしれない。
広場の端では、ステージらしき高台の建設が始まっていた。
「こうして見るとマジでやるんだなって実感させられるな」
「ねー。この中でライブできたら気持ちいいんだろうなあ」
「……そうだな」
もし満員の大歓声の中、自分達の演奏で観客達を沸き上がらせることができたらと想像すると、興奮で鳥肌が立ってくる。
俺たちもいつか本当に——、
「——よし、決めた! 草原の国の最後の路上ライブはここでやる!」
「……えらく唐突だな」
「だってここなら広いし、一番プレイヤーの数も多そうじゃん」
「まあ、その通りだけど。……これからやる最強歌姫のライブと比べるとお可愛い規模にはなりそうだな」
「そこ、夢のないこと言わない! 大事なのは、お客さんの数じゃなくてその場にいる人をどれだけ感動させられるかだよ!」
コトが腰に手を当て、ぷりぷりと唇を尖らせた時だ。
「そうそう。彼女の言う通りだよ、少年。大事なのはここだよ」
透き通るような声の女性プレイヤーが、自身の胸をトンと叩きながら言った。
「……えっと、どちら様?」
「通りすがりの美少女プレイヤー……って、言ったところかな」
「いや、顔隠した状態で言われても分からんのだけど……」
女性プレイヤーの顔は、深く被った濃紺のフードによって隠されている。
というか、よく自分で美少女と言うことができるな。
「そこは心の眼で分かってくれたまえよ。フードを被っているのは、あたしのあまりの美貌にキミたちはあっと驚いてしまうのを防ぐためなのだから」
「それ、自分で言ってて恥ずかしくならないんすか……」
おいそこ、顔を逸らすな。
それじゃあ、自分で恥ずかしいこと言ってますって自覚あるんじゃねえか。
「まあまあ、そんなことより今、路上ライブって聞こえた気がするんだけど」
「ああ、それなんですけど、俺らゲーム内の街を周りながら路上ライブしてるんす。つっても、まだ二つの街でしかやってないんすけど。それで今、この国最後の路上ライブをここでやろうって決めたところなんですよ」
「ふ〜ん、なるほどね〜。なんだか面白そうなことしてるじゃないか」
謎の女性プレイヤーは、にまにまと唇を釣り上げる。
小馬鹿にしてる訳ではないんだろうが、ちょっとだけむっとしそうになる。
とはいえ、数秒もしないうちにその感情はどこかに立ち消える程度のものだ。
「ふんふん、いいじゃないか! ところで映像とかはないのかい?」
「一応は。前の路上ライブで観てくれてた人が撮影したのはあります。コト、この人にその時のやつを見せてくれないか?」
「へっ!? う、うん……!」
いきなり話を振られて狼狽えながらも、コトはKKのSNSアカウントを開き、投稿した動画を女性プレイヤーに見せる。
女性プレイヤーは、終始無言のままどこか真剣そうに動画を眺めていた。
口を開いたのは、映像が終わってから十数秒ほど経って、
「——この曲は、キミらのオリジナルかい?」
「ええ、まあ。ドラムのパートだけは俺が考えてますけど、基本はコトが作曲しています」
「なるほど。……うん、いい曲じゃないか! 歌詞があったら歌いたいくらいだよ」
「あ、ありがとうございます……!」
マイクがないからインストになってるだけで、ちゃんと歌詞あるんだけど。
「——さてと、良いものも見れたし、あたしはそろそろ戻ろうかな。じゃあね、二人とも! もし、また会う事があれば、その時はあたしの素顔を見せてあげるね!」
「あ、ああ……」
「じゃあ、待ったねー!」
最後に大きく手を振りながら、謎の女性プレイヤーは嵐のように去って行った。
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