思えば初めての

 ジョブ、使用武器、ステータス、戦術。

 全部事細かにってわけではないが、白碧の青龍蝦撃破までの流れをざっくばらんに話し終えれば、ラルカは面白おかしく笑い飛ばしてみせた。


「あはは、何それ! DEX極振りでボスを倒しちゃったの!? 君たち、本当に変わってるのね」

「……返す言葉もないっす」

「あ、決して馬鹿にしてるとかじゃないから、そこは勘違いしないで欲しいでね。寧ろ、それで勝てる君たちの強さに感心していたところよ」


 言って、ラルカはうんうんと頷いてみせる。

 表情や声の感じからしてリップサービスではなさそうだ。


「そっかあ……運用できるだけのプレイヤースキルが大前提な部分はあるけど、レベル20のデュオプレイでも装備とステ振り次第であいつの装甲も突破できちゃうものなのね」

「ぶっちゃけ諸々の相性が抜群に良かったのと、致命的な弱点を抱えてくれてたのがデカかっただけっすよ」


 奴にまともなダメージを与えることができたのは、広範囲かつ指向性を持たせることのできるコトの電撃音撃と、物理耐性を貫通する内部破壊効果を持つ一の型【破桜】があったおかげだ。

 加えて現実のシャコと一緒で目をやられると戦意喪失して動かなくなるって仕様が無かったら、どっかで事故って負けてた可能性の方が高い。


「というか、弱点さえ分かってたら楽勝の部類に入る気がするんすけど」

「それはまあ、そうなんだけど……分かっていてもやれる事とやれない事ってあるじゃない?」


 苦笑して、


「ちなみに聞くけど、OROの他に何かVRゲーの経験はあったりする?」

「MMOはこれが初ですけど、前に二人でモンスレをやり込んではいました。もう三ヶ月くらい前の話っすけど」

「……なるほど、モンスレね。どれくらいやり込んでたのかしら?」

「裏ボスノーダメ撃破できるくらいっすかね。つっても、もう一度同じことをやれと言われても無理っすけど」


 気が遠くなるくらいの膨大な数のリトライを繰り返した末の達成だから、出来ることならもう二度とやりたくない。

 けどそのおかげで、ジャイスラとか白碧の青龍蝦の攻撃を躱せるくらいの回避力が身についた訳なんだけど。


「……そういう事だったか。二人が強い理由にも納得がいったわ。それなら尚、都合良しっていったところね」


 呟いてからラルカは、俺らをじっと見つめた。


「ねえ、単刀直入に訊くけど……二人とも、クランに興味はない?」

「クラン……ですか」

「うん、君達の話を聞いてたら俄然興味が湧いてきちゃった。良かったら私のクランに入ってみたりしない? 二人だけでやるより攻略もグッと楽になると思うわよ」

「攻略……」


 確かにラルカの言う通り、俺とコトの二人だけでやるよりも、どこかのクランに所属した方がずっとゲーム進行がしやすくなるだろう。

 金策もそうだし、大陸間を渡るダンジョン攻略に関してもそうだ。


「それに私のクラン、強いってことでそれなりに有名なのよ。だから君達にとっても悪くない話だと思うんだけど……どうかな?」

「……コト、どうする?」


 隣に視線をやれば、コトは困惑した笑みを浮かべている。

 さっきよりは大分緊張が解けているようだった。


「誘ってくれるのは、とても嬉しいしありがたいけど……あれ、だよね」

「だよなあ」


 有名クランとなれば尚更だ。


「……何か問題でもあるのかしら?」

「まあ、なんつーか……俺らの問題ではあるんですけど、全く興味無いんですよ。ゲーム攻略」

「え、そうなの?」

「はい。そもそも俺らがオリヴァを始めたのって、全部の街で路上ライブしようぜってコトが言い出したからですし。ダンジョンに潜ってるのは、今後を見据えたレベリングと単に武器代を稼ぐ為でしかないんすよ」


 こんなスタンスの俺らがガチ勢達の中に混ざるのは、流石に申し訳ない。

 あとクランに入って、個人のことより攻略優先しろとかDEX極振り止めろ、みたいな感じに俺らのプレイ方針を無理に曲げられるようなことになれば、俺もコトも多分速攻でクランを抜けるだろう。


 俺の説明を受けてラルカは、虚を突かれたような顔でポカンとしていたが、


「そっかー。なら、しょうがないわね。今回は素直に諦めるとするわ」


 今回は、って……え、また来るつもりなのか。


 戸惑っていると、


「その代わり……君達、私とフレンドになってくれない?」

「「……え?」」


 俺とコトの声が重なる。


「だってこのまま別れるとか勿体無いじゃない。それに君達に興味があるのは本当のことだから。クランの勧誘はダメでも、私個人としては君達とお近づきになりたいもの。ね、良いわよね?」

「は、はい……大丈夫です! 是非、お願いします!」

「俺もそれなら問題ないです」

「ふふ、交渉成立。じゃあ、早速フレンド登録しちゃいましょうか」


 パンと手を叩いて、ラルカはメニューを開き、手早くウィンドウを操作する。

 少しして、俺とコトそれぞれ目の前にポップアップが表示される。


[ラルカさんからフレンド申請が届いています]


 そういや、何気にコト以外の奴とフレンドになるの初めてだな。

 ファン二人もカナデも全部コトだけがフレンド登録してたし、餓狼丸とは店主と客の関係でしかないからフレンド登録するって考えも無かったし。


 ちょっとだけ不思議な気分になりながら、俺はフレンド申請を承諾するのだった。

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