隠しフロアに潜む白碧の青龍蝦
全長およそ十五メートルオーバー。
鮮やかな碧の体色を持ち、全身を覆う甲殻には鍾乳石であろう白い岩が付着している。
先端が棍棒みたく膨らんだ前脚。
扇形に広がる刃物みたいに鋭い尻尾。
まさに全身が凶器の生物——それがシャコだ。
目の前のコイツが現実のシャコと同じ生態を持ってる、というわけではないのだろうが(そもそも本物は海棲だし)、基本的な行動はシャコをベースに作られていると考えるべきか。
となると、一番に警戒しなきゃならないのは……前脚から繰り出されるパンチだろうな。
シャコのパンチは拳銃にも匹敵するって、どっかで聞いたことがある。
本来の大きさでそれなのに十五メートル級の超大型となれば、その威力はとてつもないことになるはず。
正面から戦うのは危険だ。
回り込んで攻撃を仕掛けるのが正解か——、
思った時、巨大シャコがグイッと上体を持ち上げた。
——まずい!!
「伏せろ!!」
コトの肩をガッと掴んで前に倒れ込む。
直後、頭上を何かが恐るべき速さで通過し、後方で爆発音を轟かせる。
振り返ると、奥にあった壁に大きな穴が生まれていた。
「あ、ありがとう……!」
「どういたしまして。それはそうと、やべえなあのパンチ……!!」
空気弾的なやつを飛ばしてきやがったよな。
しかも被弾すれば即お陀仏レベルの。
あれじゃ、軽く掠っただけでも死ぬ可能性は十分にあり得るぞ。
「真っ正面には立つなよ。俺は側面から攻撃を仕掛けるから、コトはサポート頼む」
「……うん、任せて!」
コトにいつもの笑顔が戻る。
どうやら切り替えは済んだみたいだな。
「よし、それじゃあ行くぞ」
「ラジャ!!」
巨大シャコが二撃目のパンチを放つ予備動作に入ると同時に、俺とコトは二方向に散開する。
直前までいた場所をさっきの空気弾であろう白いエフェクトの塊が通り過ぎるのを横目に、巨大シャコの側面に回り込む。
(まずはさっきのお返しをしねえとな——!)
背面の甲殻を狙って、震衝痺打を叩き込む。
MPを全て注ぎ込んだ一撃——しかし、カーン、と高い音が響くだけで巨大シャコはピクリとも反応を示さない。
チッ……効果なしか!
こうなることを予想できていなかったわけではないが、せめてちょっとくらいは効いて欲しかった。
まあSTRとMPを何一つ強化してないから、当然と言えば当然か。
落ち込んでる暇はない。
すぐに巨大シャコの動きに警戒しつつ、素の殴りを打ち込んでいく。
並行して、歪んだアルペジオが地底湖に響く。
このフレーズは魔復の旋律だ。
HPバーの真下に栄養ドリンク風のアイコンが表示されるや否や、すぐに違うメロディーが流れてくる。
メロコア風な疾走感のあるフレーズを掻き鳴らし、続け様に思わず頭を振りたくなるような重々しくも破壊力のあるリフを刻む。
瞬間、HPバーの真下で新たに羽が生えた靴と赤いエフェクトを纏った剣のアイコンが追加された。
それぞれAGIとSTRのバフスキルだ。
一点特化のスキルを習得した俺とは対照的に、コトはバフ系のスキルを多く習得していた。
更にチョーキングとタッピングを効かせたテクニカルなフレーズが響くと、レティクルのようなアイコンが追加される。
これはDEXを上昇させるスキルだった。
四種のバフが盛られたことで一気に攻勢を仕掛ける。
つっても、劇的な変化が訪れたわけではない。
甲殻に張り付いた岩石がちょっとだけ砕けやすくなったり、バチを打ち込んだ際に鳴り響く音が大きくなったくらいだ。
多分、物理的なダメージは殆ど通ってないと言って良いだろう。
——でも、これでいい。
コトがギターを演奏して戦っているように、そもそも音楽士は
ギターが自身の弦を掻き鳴らすことで攻撃を生み出すのであれば、自身で音を奏でることのないバチという武器は何で攻撃を生み出すのか。
答えはきっと、
今までは物理的な衝撃を吸収してしまうジャイスラだったり、そもそもタコ殴りにすれば勝てる雑魚敵相手ばかりだったから真価を発揮することはなかったが、コイツのような硬い外殻を持ち、叩けば良い音がなる敵であれば話は変わってくる。
実際、甲殻に打撃を打ち込む度、その箇所から波紋のようなエフェクトが発生していた。
ただそれでも、武器性能の差で火力はコトには及ばない。
証拠に巨大シャコは、ずっと張り付いて殴り続けている俺よりも、遠くから音撃を飛ばしているコトにヘイトを向けていた。
上体を左右に動かしながら照準をコトに合わせ、短い間隔で空気弾を飛ばし続けている。
だがコトは、予備動作から攻撃のタイミングと軌道を先読みして立ち位置をずらすことで巨大シャコの攻撃をやり過ごしている。
そして、空気弾を回避した後は、お返しと言わんばかりに強烈な放電音撃を巨大シャコに浴びせていた。
「俺も負けてらんねえな……!」
正直言って、今のところコトにキャリーされてる感は否めない。
火力は上回られ、バフを盛ってくれて、おまけにヘイトまで取ってくれてる。
これじゃ俺の立つ瀬がない。
(そろそろあれを使ってみるか……)
MPが全快したのを確認し、バチにMPを込めようとして——、
「……あ」
ふと、巨大シャコと目があった。
眼柄に突出した複眼がぐるりと俺を捉えた瞬間、横から身体を両断しかねない鋭さのある尻尾が飛んできた。
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