DEX極振りの継続

 泥人形以外の敵は放電音撃で蹴散らしながら探索を進めていく。

 ダンジョンは何回層かに分かれているらしく、この水のダンジョン(仮名)も例外ではなかった。


 フロアの一番奥に辿り着くと、人二人並んで入れるくらいに開いた穴を発見し、穴の中にある螺旋状に続く階段を降りた先にあったのは、さっきと似たような風景だった。


「はあ……さっきの繰り返しか。ま、ダンジョンって言うくらいだし、当然か」

「だね。それじゃあ、二層目も張り切ってゴー!」


 つっても、やることは一層目と一緒なんだけど。


 襲ってくるモンスターを電撃で返り討ちにし、奥を目指して歩いていく。

 一層目では見かけなかったモンスターも出現するようになってはいたが、電撃が通ったのであっさり撃破することが出来ていた。


 ……やっぱ強すぎんだろ、そのギター。


 俺はモンスターが瞬殺されていく様子を隣で眺めているだけだった。

 一応、泥人形を相手にした時だけは速攻で駆逐しておいた。


 そんなこんなであっさりと第二層も突破し、第三層に足を踏み入れるとさっきの土と苔の洞窟から一転、景色がガラリと変わった。


「わあっ、綺麗……!」

「……鍾乳洞か」


 白い岩肌からつららのように垂れ下がったり、筍みたく成長した堆積物が至る所にある。

 床や壁には水が流れていて、大きな水溜りもあちこちに出来ている。


 しかも何故か洞窟の隙間から月光が差し込んでいて、光に当てられた水は青く反射し、そのおかげで青と白の幻想的な光景が広がっていた。


「凄いよ、観光地みたい! あ、そうだ! 記念に写真撮ろうっと。確かスクリーンショット出来たはずだよね」


 ぴょんぴょんとはしゃぎながらコトは、メニューを操作し始める。


「おい、観光しに来たんじゃねえんだぞ」

「分かってるって。でも、こんな綺麗な景色、撮らなきゃ勿体無いでしょ!」

「……ったく、あんま遠くには行くなよ」


 まあ、ここらで少し休憩を挟んでおくか。

 街を出てからここまでずっと歩きっぱなしだったし。


 適当な場所に腰を降ろし、ステータス画面を開く。

 出てくる敵の大半が——いや、全部か——俺らより格上だったおかげで、第二層までの短い道中でがっつりレベルが上がっていた。


「レベル20……今までの苦労は一体なんだったんだ」


 ついでに所持金も千五百ガルにまで増えている。

 半分は餓狼丸の元へ行ってるから、実質三千ガルは稼いだ事になる。


 それと倒したモンスターの素材は全部売り払う予定だから、これにプラスαで所持金を増やせるはずだ。


「このペースで稼げるなら借金を返す目処も立ちそうだな」


 最初、契約の誓約書を交わした時はどうなることかと思ったが、どうやら杞憂で済みそうだ。


「……と、そうだ。今のうちにステータスを強化したりしとくか」


 戦闘の殆どをコトがあっという間に片付けてたから、わざわざパラメーターポイントを振り分ける必要が無かったけど、やらなくていいってわけじゃないし。


(けど、どう割り振ったもんか……)


 今のところDEX極振りにしているわけだが、真面目にボス攻略をするとなると、まず得策ではないことは断言できる。

 それよりも他のパラメーターにポイントを割いてビルドした方が安定度は確実に増すはずだ。


 そもそもコトと違って、俺にはDEX極振りする恩恵があんまないんだよな。

 太鼓撥だと、どんなに高性能な武器だとしても装備するのに馬鹿みたいに高いDEXを要求されることもないし。


 だったら、物理系のポイントにある程度回した方が——、


「ケイ、何やってんの?」

「パラメーター配分どうするか考えてた。つーか、撮影はもういいのか?」

「うん、撮りたい写真はあらかた撮り終えたから! あとはケイと一緒に自撮りするだけだね」

「うげ、めんど……」

「はいそこ、露骨に嫌な顔しない!」


 だって自撮りとかあんま好きじゃねえし。

 そんなキラキラ陽キャのすることであって、俺みたいなタイプは飯の写真とか味気ない写真をアップするのが性に合っている。


「そんなことより、ちょっとコトに確認したいことあんだけど」

「ん、何ー?」

「DEX極振りいつまで続けるつもりだ?」


 最初は演奏をしやすくするなるかもって理由でそうしたってだけで、実際に演奏してみた結果、リアルとそんなに遜色ないレベルで叩けている。

 であればこれ以上、割り振る必要性はないはずだ。


「え、何。もしかして極振り止めちゃうの!?」

「普通に考えて、そっちの方が合理的だろ」

「まあ、そりゃそうだけどさ……。でも、そっかー。止めちゃうんだー」


 含みを持たせたような言い回しで、コトはわざとらしく呟く。


「アタシはこれからも続けるつもりだったんだけどなー。けど、ケイはロマンを捨てて、つまんない現実路線に走っちゃうんだー。そっかそっかー」

「おい、俺がそんな安い挑発に乗ると思ってんのか?」

「別に〜。ケイがお堅い性格なのは知ってるし〜」


 こいつ、分かって言ってやがるな……。


 確かに自分でもつまらない性格だとは自認している。

 けど、愚直に安牌を切ると思われるのは気に入らねえっつーか単純にムカつく。


 コトの掌で踊らされてるのは自覚しつつ、俺は大きく一つため息を溢す。


「はあ……分かったよ。そんなに言うんなら俺もDEX極振り続けてやるよ。だから俺より先にDEX極振り止めんじゃねえぞ」

「もちろん! そう言うケイも先に折れないでよね!」

「ああ」


 くだらない意地を胸に、溜まっていた50ポイント全部、DEXにぶち込んでみせた。

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