初のダンジョン探索
——やっぱ高火力は正義だ。
再び街の外に出て、俺は強く思う。
コトが重く歪んだサウンドを掻き鳴らす度、敵が面白いようにみるみるポリゴンへと四散していく。
ギターが雷をイメージして作られたからか、MPを籠めた音撃だと周囲に紫電が迸り、電気の奔流に飲まれたモンスターは一瞬で黒焦げになっていった。
さっきは俺が護衛に回ってHPの削れた敵に止めを刺すか、吹っ飛ばしで音撃ダメージを与える時間を作るかしていたが、今じゃその必要もなく敵が瞬殺されていた。
けど、それもそのはず。
コトが購入した変形ギターは、装備するのにDEXを150要求してくるモンスターウェポンだからだ。
武器専用としての武器は演奏向きの武器よりも安く作られているにも関わらず、十万ガルと高値だったのにはそういう理由があった。
俺と同じパラメーター振りをしているのであれば、コトの現在のDEXは155。
ギリギリ装備可能な水準に達している。
ここに来て何気に、ゲーム開始初日にジャイスラから生き延びたことで得たボーナスポイントが活きていた。
その間、やることの無い俺は、ただその光景をぼーっと眺めていただけだった。
「……にしても、マジでキャリーされまくってんな、俺」
「まあアタシが本気を出せばザッとこんなものだよ! ふふん、特別に崇めてもよいぞよ?」
「調子に乗んな」
「ん”に”ゃ”っ!?」
指先でコトの額を小突けば、
「もー、軽い冗談じゃん! ジョークを流せない奴はモテないぞっ!」
「はいはい、そうですか」
適当に流しながらフィールドを進んでいくうちに目的地に辿り着く。
地面が巨大なかまくらのように隆起し、大きく開いた入り口の奥は地下に続いているように見える。
「——これがダンジョン、か」
「みたいだね。よーし、ここでレアアイテムとか強モンスターの素材を手に入れてお金たくさん稼ぐぞー!」
早速、中に入ってみることにする。
ダンジョン内は想像以上に広く、通路であっても余程の長柄武器でなければ振り回しても問題ないくらいのスペースが確保されていた。
「ふーん、意外と視界は良好なんだな」
外と比べれば多少薄暗くはあるが、それでも灯りが必要なレベルかというとそうではない。
多分、ゲーム的配慮だろう。
いちいち灯りを持ちながら戦闘とかしてたらやってらんないしな。
「そういや、ここってどんなダンジョンだったっけ?」
「確か、水のダンジョンとかってガロちゃんが言ってた気がする」
「あー、通りでじめっぽいわけか」
敵襲に備えつつ、周囲に視線を配る。
地面や壁にはチラホラと苔が生えていて、足元の土もどこかしっとりとしている。
水溜りや泥が出来ていないのは、まだ水源がそんなに近くにないからだろう。
「ところで、どこまで探索する?」
「勿論、ボス撃破まで一択でしょ!」
「……マジで言ってる? ここ普通に格上のダンジョンだぞ」
雑魚を蹴散らすのならともかく、ボスに挑むとなると話は変わってくる。
「大丈夫大丈夫、アタシとケイならなんとかなるって! 強力な武器も手に入れた訳だしさ!」
「何気に楽観的っつーか妙に調子に乗る時あるよな、お前。はあ……ったく、その謎の自信はどっから湧いてくんだよ……」
普通に事故る可能性の方が高いだろ。
俺らどっちも器用極振りの地雷ビルドなんだし。
でもまあ、極振りしたからこそ強武器を装備することができたんだけど、武器性能を過信するのは危険ではある。
(——仕方ねえか)
「……了解。ひとまずボスフロアの前までは行ってみるか。けど、道中で勝ち目がないと判断したら戦わずに引き返すからな」
「うん! さっすが、ケイ。話が分かるねー!」
「言ったところで聞かないしな」
説得に時間を費やすより、手綱を握って付き合った方が手っ取り早い。
そういう訳で、探索を進めていると物陰から毒々しい紫色のスライム二匹と泥人形のモンスターが飛び出してきた。
「——コト!」
「任せて!」
俺が前に躍り出ると同時に、コトがMPを全開にぶち込んでリフを走らせる。
パワーコード五連符を主体としたフレーズ。
最後に後半四つで音階が上がる三和音の八分と一音で締めると、周囲に莫大な電撃が迸った。
フィールドにいる敵であれば、これだけでポリゴンになって消滅していたが、残念ながら今回はそうではないようだ。
身体が泥で構築されているからか、泥人形には全くと言っていいほどダメージが通っていなさそうだった。
加えて、電撃の大部分を泥人形が受け止めたせいで、近くのスライム二匹もまだピンピンとした様子で生き残っていた。
「チッ……相性最悪か!!」
身体の一部が焦げている辺り、完全に無効化されてるってわけではなさそうだが、大した攻撃にはなっていない。
あいつは、俺が直接ぶちのめす必要がありそうだな。
地面を蹴り、泥人形の元へと肉薄する。
後方ではコトが魔復の旋律を演奏し始めている。
途中、紫スライムが俺の前に立ちはだかると、ガバッと口を大きく開いた。
——毒液か!!
刹那、吐き出された毒液の塊を身を翻して回避する。
初見の攻撃でちょっとだけ焦ったが、ジャイスラの広範囲への溶解液撒き散らし比べればこんなのお可愛いものだ。
紫スライムは一旦無視。
二匹の間を突っ切って、俺は泥人形の懐に潜り込む。
「ハッ!!」
そして、MPを全部ぶち込んで渾身の一撃を叩き込む。
発動させたスキルは強烈な吹っ飛ばし性能のある渾身一打ではない。
スキルツリーを睨み続けた末に習得した新技——
対象を麻痺……とまではいかないが、僅かな間硬直させるスキルだ。
渾身一打と同様、バチが泥人形を捉えた瞬間、和太鼓のような音がダンジョン内に響き渡る。
なんで泥を叩いてそんな音がするのかは気にしないことにする。
それから気になる追加効果はというと——成功だ。
バチを叩きつけられた泥人形は、小刻みに震えながらその場で動かなくなった。
確認した直後、俺は泥人形の陰に隠れる。
背後で紫スライムが二発目の毒液を飛ばしてきていた。
泥人形を盾にして凌ぎ、またスライムが動き出すより先に二本のバチによる乱打を泥人形に浴びせる。
低いSTRではあるが、武器の性能で火力は増強されているから多少のダメージは与えられるはず。
硬直が効いている間、がむしゃらに滅多打ちにし、紫スライムが俺に再度攻撃しようとした時、魔復の旋律を奏で終えたコトが通常の音撃を飛ばし始めた。
突然のダメージに紫スライム二匹と硬直が解けたばかりの泥人形の動きが止まる。
その隙に俺は僅かに回復したMPを消費してもう一度、泥人形に震衝痺打を放つ。
からの僅かに生まれた硬直時間でバチの連続攻撃を叩き込み、更に追い討ちをかけていく。
それから再度泥人形の硬直が解けた瞬間、コトはさっきMPを籠めた時に奏でた時と同じリフを走らせた。
一発目よりは小規模ではあるが、強烈な電撃が放たれる。
泥人形という盾を失った紫スライムは、紫電に飲まれると同時に蒸発し、俺は泥人形を盾にすることによって
このゲーム、FFがあったかどうかうろ覚えだから意味のない行為だったかもだが、リスク回避するに越したことはない。
そして、最後に渾身一打でぶっ飛ばして壁に叩きつけると、泥人形はようやくポリゴンへと散っていくのだった。
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