第26話

「姉上。約束した日より早いですが……これが何だか分かりますか?」

「それは……2年生が2学期の最後に受ける模試!」


 期末も終わって通常授業より早く解放される期間のことだった。

 晴香がアタシに見せたのは、他学年であれば持っていないであろうはずの模試だった。その問題冊子は主要教科が全て揃っていた。

 つい先日行われた模試。当然だが今回は真面目に対策して、本気で解いた。


「勝負の内容は考えましたが思い付かなかったのです。そこで私は先生に頼みました……力試ししたいから上級生用の模試を貰えないか、と」


 手に入れた経緯を明かす晴香。それは建前で、本音はアタシとの勝負でその問題を解く腹づもりなのだ。

 しかしよく先生も渡そうと思ったな。まぁ成績優秀で品行方正な人柄の晴香が、きちんと頼み込めば先生も渋ったりはしない、のか?

 アタシは出来の良い生徒じゃなかったから分からない。


「でもそれってさ、採点できたとして結果が出るのは来年じゃない?」

「そうですよ。解いたら解答も貰えるそうですけど、採点の判断は先生方に任せることにしました」


 アタシの疑問にも即答してくる晴香。

 ここら辺もきちんと手を回しているのは良いとして、勝負の結果が分かるのは1ヶ月先になってしまった。

 年内には決着を付けたかったアタシには誤算だった。だけど内容を相手に任せると言った以上、晴香が選んだことに関して否を唱える資格はないだろう。

 それに勝負の内容もなんだかんだアタシたちらしい。


「というわけで帰ったら早速解きますね。姉上に見ていただけるとパフォーマンスが上がるので、是非試験監督してもらえませんか?」

「そんなお願いは人生で初めて聞いた」


 晴香らしいお願いに苦笑しつつ、アタシは引き受けた。

 晴香のことだから試験時間をフルに使わないだろうし、それなら監督する時間も大したことにはならないはずだ。

 それに、本気の晴香を見てみたいという想いもあった。


 晴香は手抜きをするような子じゃなかったけど、もしそんな晴香が本気を出したらどうなるんだろう。

 いわば興味本位であり、それを目の当たりにすることは怖くもある。

 彼我の差をこれでもかというほど突き付けられるに違いないから。

 それでも、アタシには避けようのないことだった。


「じゃあ今から始めますね!」

「いいよ、一応時間になったら教える」


 寮に帰ったアタシと晴香。

 晴香は宣言した通り、模擬試験の問題を開いて机に向かった。

 着替えも後回しにして用紙と向き合う晴香から、アタシは目が離せなかった。

 晴香の真剣な眼差しが皆からの好感度を高めているのだろう。アピールではなくて、その態度には裏も表もないことを見ている者も感じ取れるのだ。


「解き終わりました!」


 お昼に帰宅して、夕方になった頃。

 晴香がシャーペンを置いた。どうやら爆速で解いた模様。

 さしもの晴香もそれなりに時間がかかったように見えて、流石に7科目もあればそれくらいはかかる。

 本番なら2日に分けて行われるテストで、模試では1日に圧縮されるとはいえ、それも朝から日が暮れるまで拘束されるのが普通だ。

 それを考慮すると、晴香が今回かかった時間は早すぎる。

 あとは先生に結果を返してもらうだけだ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る