第25話
「晴香。私と勝負して」
期末試験を終えたアタシは晴香に宣戦布告した。
小芭瑠さんに宣言した通り、文句なしの総合1位を取ってみせた。
放課後も休み時間もひたすらに、それこそ幼い頃のように机に向かい続けたのが功を奏したのだろう。
お母さんも電話のスピーカー越しに喜んでくれていることが分かった。
そして遂に私は宣戦布告した。
「勝負、ですか」
「そう、勝負」
晴香はあまり気乗りしない様子だった。
身内とはいえ藪から棒に内容不明の勝負を持ちかけられたら、気乗りする方がおかしいだろうけど。
「アタシは挑戦する側だから、勝負内容は晴香に決めてもらいたい」
どの分野でどう勝負するのか、判断は晴香に託した。
アタシが自分なりに納得したいだけで勝手に決めてしまうのはどうかと思うし、何より自分に都合のいい土俵で争うのは意味を成さない。
相手の土俵で戦ってこそ勝負を持ちかける意義があるのだ。
「姉上と争うなんて、私には考えられません!どうして勝負など!」
「アタシ、逃げ続けてきたことをようやく自覚できてさ……そういうのを斬り払って晴香と向き合いたいんだよ」
「しかし……」
受け入れられるはずがないと、両の眼で強く語る晴香。
しかしここで受け入れてもらわなければアタシが一生満足できない。
「晴香」
「姉上!?」
少々身勝手なのは承知で、アタシは次の一手に打って出た。
晴香の手を両手で包み込み、顔を鼻先が掠めるほどに近付ける。
赤面する晴香のペースを奪うように畳みかけた。
「アタシのことを慕ってくれるなら、なおのことお願いされて欲しいな」
「あ……姉上がそこまで、言うのであれば」
半ば言わせた感が強くあるものの、これで言質は取れた。
さて、賽は投げられた。どういう勝負になるかは晴香が決めること。向こうが敢えてこちらの得意分野で攻めてくるも良し、苦手分野でも挑戦する意義はあるのだから、つまりどっちでもいい。
晴香が決めた土俵であるという事実が最重要なのだから。
「いつ勝負、するんですか?」
悩ましげな顔の晴香に尋ねられる。
時期も時期なので、あまり先延ばしにしたくはない。アタシも晴香も部活に入っていないから、その辺の融通は利きやすいのだが。
「じゃあクリスマスイブにしようか。その日は午前で学校も終わるし、多少居残りする分には目を瞑ってくれるでしょ」
アタシは12月24日を指定した。終業式で掃除当番やらなんやらが影響せず、おおよそ終わる時刻が把握しやすいという点で最適だと思う。
「分かりました。それまでに内容は考えておきます」
晴香も意を決したようで、クリスマスイブに勝負することが正式に決まったのだった。
「勝ったら何かあるんですか?」
「ん~。なくはないかも?でもプレゼント的なものは考えてない」
今聞かれても困る質問だった。
アタシが勝てばアタシ自身への贈り物になるし、負けてもとりあえず想いを伝えることは決まってるし……あれ、それって晴香へのプレゼントになるか?
「まぁ当日のお楽しみってことで!」
確証がないので誤魔化すことにした。
けど勝っても負けても清々しい気持ちにはさせてあげたい。
自分だけじゃなくて、晴香も。
簡単なことだ。晴香に勝って、アタシから晴香に言い寄ってあげれば済む。
これはますます勝たないといけないなと、密かに思うのだった。
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