本作品は、主人公の国見タケルの体験した不思議な出来事の数々を、彼の純粋で正直な眼差しを通して、生き生きと描き出した物語である。
幼い心に刻まれた恐怖と驚きが、読者の心をも捉えて離さない。
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彼の地図に刻まれる『怪』の印は、日常の裏に潜む非日常の影を浮かび上がらせる。
人柱となった娘の亡霊、工事現場に現れた亡き棟梁の幽霊、そこはかとない恐怖が町のあちこちに散りばめられている。
しかし、本作が単なる怪談に終わらないのは、タケルの瑞々しい感受性と仲間たちとの温かな絆があるからだ。
恐怖を通して深められる友情、幼い正義感などまさに、タケルの成長物語である。
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タケルと仲間たちが『怪』と向き合い乗り越える姿に、読者も勇気をもらえる傑作ホラーである。
地面から伸びる二本の手を金槌で打つおじいさんと出会ったことをきっかけに、小学生の主人公は自身が住んでいるN市の不思議で不気味なことが起こる場所を記す地図を作ることにしました。
調べていくうちに不思議なことが起こる場所の印が地図上に増えてゆき……。
光景を想像するとゾッとするような描写が巧みにされているので、ホラーとして秀逸です。
また小学生の視点から、非常に読みやすい文章で綴られているので、読者も容易くN市の町中へと訪れることができます。
一歩町中に足を踏み入れると、次々に起こる怪異で飽きることもありません。
不気味なN市を巡る地図作成、主人公共にやってみたいという怖いもの知らずの方は、是非どうぞ!
……とんでもない物を読んだ。
俄にホラー・怪談のジャンルが盛り上がるカクヨムに、またひとつ傑作が。
とてもとても秀逸な怪談エンタメ連作短編小説です。
根っからのホラー好きはもちろん、普段ホラーを読まない方、ライトノベルファンにもぜひ手に取っていただきたい逸品です。
恐怖とエンタメ感の配合比率が絶妙。なので、ホラーが苦手な方でもきっと楽しめるはずです。
主人公は小学5年生のタケル。この「小学5年生」という設定がきっと絶妙なのです。だって、小学生を痛々しい目に合わせられないじゃないですか。凄惨な結末を迎えさせるわけにいかないじゃないですか。
なので安心感を持って読み進めることができるのです。道中のスリルを味わいながらオチまで一気に読み進めて、お化け屋敷の出口を抜けたように「ほっ」と一息つけるのです。
小学生ならではの活動の数々に懐かしさを感じることもできます。特に僕は、タケルとヒロイン的ポジションの舞原の関係性が「青春一歩手前」感にあふれていて大好きでした。そういった方面からも楽しめますよ!
『町の地図には、恐怖がいっぱい』は、ホラーとエンタメの融合を極めており、これまでにない新鮮な読み味を提供してくれます。
出てくる怪異のバリエーションが豊富で飽きが来ず、一話完結の短編形式も手軽に楽しめます。
ぜひ一度、この不思議な世界に足を踏み入れてみてください!!
小学生のタケルは夏休みの自由研究で町の地図を作ることに。ただの地図ではない、町の中で不思議な場所を見つけたら『怪』の文字を書き入れる特別な地図だ。しかし、最初は軽い気持ちで始めたのに異常なことが出て来るわ出て来るわ……。
ホラーと子供の相性はすこぶる良い。子供というのは物理的にも社会的にも弱いものだ。だからこそ脅威に出会ったダメージは大人以上に強烈だし、見た物をそのまま語る子供視点のホラーには何とも言えない淡々とした怖さがある。
そんな小学生が主人公の本作では、タケルが出会う怪奇現象のバリエーションがとにかく豊富!地面を金づちで叩き続ける不気味な老人の話から、友人が見た奇妙な夢の話に、危ない大人に襲われそうになる話など、毎回タイプの違う恐怖でこっちを追いこんでくる。読み終わってもやもやする話から、オチに捻りが効いている話、ちょっとほっこりする話など、読後感も多彩なのが素晴らしい。
タケルの地図はまだ完成されておらず、次の話で完結とのことだが、この物語はどのような結末を迎えるのか……器用な作者だけになかなかオチの予想がつかず、是非最後まで見守っていきたい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)