第12話 エピローグ…春の朝

 三月の晴れた朝、私と山井君は小さな乗用車に荷物を積み込んでサマンサの前にいた。山井君はお父さんから譲り受けたお気に入りの革ジャンを得意そうに見せてくれる。私は早苗からのピンクのスカーフを襟に巻いて…

「これで荷物全部なの?」

 早苗の声は心無しか低め、今にも降ってきそうな雨をこらえて善ちゃんにしがみついていた。

「大きいのは荷物で送るの。だから…これだけでいいの」

「しかし、北海道まで車で行くかよ」

 善ちゃんがあきれた声で言った。

「だって夢だったのよ。そのためにサマンサで来る日も来る日もバイトしてたんだから」

 北海道には自分の車で颯爽と帰ろうと思っていた。凱旋の一人旅。単純だけどしがみついてた私の夢。何としても叶えたかった。人生最初の出発に似つかわしい夢だと自画自賛してたから。脅かしてやりたかったんだ。こんなに成長して帰ってきたっよ〜って。

 でも、最後は情けないほどのどんでん返し、入試の追い込みで余裕の無い私は、自動車学校に行く暇もなくて、三年計画の壮大な夢もこれまでかと愕然とした。

 私、誕生日二月だから。どうしたって間に合わない。そしたら、山井君がすでに免許持ってますってピカピカの免許を見せてくれた。四月生まれの彼は既に余裕で自動車学校にも通い一発で免許も仕留めていた。

 サマンサでコツコツ働いたバイトのお金で中古車を買って、運転は山井君に任せて、ひとまずの夢はかないそう……

 でも、旅立ちは別れなんだ。ずっと一緒にいた早苗とも今日でひとまずのお別れ。腐れ縁の善ちゃんとも。

 そして、おじさん、おばさんとも…

「元気でやるのよ。いつかこんな日が来るって覚悟してたんだから。メソメソすることないわ」

「おばさんまた来るから、きっと」

 私はもう胸が詰まってる。

「晴子、元気でな〜ツアーで行くよ!北海道ってとこへさ」

 と、ギターを掻き鳴らす真似をする。

「早苗~」

「電話するよ。善ちゃんののろけ聞いてくれる人、晴子しかいないし」

 そうだ私たちにはすぐに繋がる物がある。そして、あの日以来早苗は正真正銘の元気印になって元々強かったのに今や善ちゃんの愛を一身に受けて、最強のマネージャーになったんだ。

 私達は、予定どうりサマンサから旅立つ。また良い子バイトに見つけるって、早苗がいるからいいって、おばさんたら。少しは悲しめよ。

「泣くなよ晴子、お前には俺がいるんだからな」

「うん」

 山井君に言われて子供のように泣きじゃくるのは止めた。でも、涙は後から、後からあふれて来る。

「さあ、行くぞ」

「うん」

 晴れ渡った空。大きな雲が湧いて私達の夢がもっともっと膨らんでいきそうな予感が満ち満ちている。みんなに手を降ると車は静かに動き始めた。

 父さんの町へ、そして、そして、私達の未来へと……

                                END


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