第一部 閑話
閑話 『エンジョゲーム』(1)
「あのこんなものを買ってきたので一緒にやってみませんか?」
放課後、いつものように展望台に来ていた俺へ遅れてきた華凛がそんな提案をしてきた。
彼女の手に握られているのはなにやらポップなパッケージに『パーティミニゲーム四〇〜道具を使わない真剣勝負〜』と書かれたトランプほどのサイズのテーブルカードゲームだった。
「どうしたんだ? これ」
「昨日、調べていたら出てきたので、さっき買ってきました。これでビデオゲームの時とは反対に楓さんに勝って見せます」
そう言って俺へ真剣な眼差しを向けてくる華凛。俺と華凛が友達になった日に初めてゲームをしてから数回、接待なしの真剣勝負を何回かしているが華凛はずっと負け続けて、一勝七敗という結果になっている。
というのもまず彼女がゲーム機器にいまだに慣れていないことな原因で、今回これを買ってきたのは、多分負けず嫌いな華凛からの挑戦状なのだろう。
その勝負乗ったと了承をし、まずはルールの確認と、パッケージ裏に書かれた説明を読む。
中には40枚分の道具なしでできるあらゆる勝負形式のゲームの名前が書かれたカードが入っている。そのカードを交互に引き合い、勝負をして勝ったら一枚貰え、三枚カードを集めた人が勝利というものだ。
細かいルールも先攻、後攻等ある場合はカードを引いた人に選択権がある。などくらいで基本誰でもできそうなゲームである。
「とりあえずどんなゲームがあるか中を確認しますか? 実はルールだけ見て中身を確認せずにいたので、どんな勝負内容があるのか見ていないんです」
「うーん、できないやつは別として、中身見ずにやった方が面白くないか?」
「確かに、それもそうですね。では早速適当にシャッフルしてやってみましょうか」
そうして彼女とのゲームが始まったわけだが俺はこのあとすぐ、ちゃんと中身を確認しておけばよかったと後悔することになった。
早速とカードを引いた華凛が、内容を見てなんともいえない微妙な表情をした。
内容はわからないが、字面から嫌な予感がしている。とかいう感じだろうか?
一体なにを引いたんだと、彼女からカードを見せて貰えば、
『愛してるよゲーム』
うん!? ……マジかよ最悪だ。
「華凛引き直ししようぜ」
「楓さんはこのゲームをご存知なのですか?」
「あっ、ああ、今はできそうにないゲームだから引き直そうぜ」
「何か誤魔化そうとしてますね。……もしかして楓さんが苦手なゲームとかですか? 負けそうだからって逃げるのはなしですよ、大人しくルールを教えてください」
負けず嫌いが発動し、詰め寄ってくる華凛。うん、やるゲームがこれでなければその姿も大変可愛らしく、胸を穿たれながらも見ていだだろうがこれはダメだ。
説明するのもめっちゃ恥ずい。
だけどそういうわけにもいかないと彼女へ説明を始めた。
「いゃ、えっとな。互いに見つめあってあ、『愛してる』よって言い合って照れたり顔を逸らしたりした方の負けってゲーム……だよ」
「あっ、あーっ。そうなんですね……っいいかも」
「ん? 何か言ったか?」
ちょっと冷静でないせいで最後の言葉を聞き逃してしまった。
「決まってしまったものは決まったものですし、やりましょう」
「さてはえーっと、このゲームは順番があるので楓さんがいう側からでお願いしますね」
悪女の微笑みを浮かべ、俺の言葉など余裕と言った表情を浮かべながら、しっかり彼女の心の武装であるエリザ、しかも完璧な空気感を放つ1番役になりきっているモードになっていた。こいつ、負けず嫌いすぎるだろ。
「はー、もう始めていいのか」
「いつでもいいわよ」
柔らかく眼前の彼女微笑む。あぁ、もうこの時点でだいぶドキドキするよ。やばい、華凛の長いまつ毛とか、瞳の色とかがよく見える。うん、やばい恥ずかしい。でも、これ待ったら方が余計にヤバそうだと、意を決して口を開く。
「あっーー愛してるよ、華凛」
「うっ、うぅ……あっあぃしてますよかぇ、かえでさん」
俺の言葉で最強武装エリザの仮面が崩れ落ち、ヘロヘロな声で撃ち返してきた。
やばいかわいいどうしよう、かわいい。
ザコかわいい。
今すぐ告白したくなるくらいにかわいい。あーだめだめだーめだ。
舌を噛んで必死に感情を抑えつつも悪癖を利用して思ったまま口を開く
「愛してる華凛っ! ーーぐはっ」
叫ぶように吐き捨てるように言って、そして俺は崩れ地面に突っ伏した。
俺が口を開いた直後からもう一発来るのかと顔を真っ赤にした華凛がプルプル震えていたから。もうだめだ。俺は華凛の可愛さに敗退した。
というか好きな子とこれするってもう俺の負けなんだよ。
◯◯◯
危なかった。なんとか楓さんから一勝を取れました。本当に危なかったです。やっぱり、先んじて本気でエリザになりきっていて良かったです。でなければ多分鼻血でも出して貧血で倒れてましたね私。というか危うく私も愛してる! なんて柄にもなく浮かれて叫びそうになりました。なんでしょうこのゲーム。本当にダメだけど、ダメだけどいい。幸せです。
まさか付き合ってもいない好きな人から愛してるなんて言われるとは。
あぁ……心が暴走してしまいそうだ。
私はこのゲームを買った時の彼に勝ちたいという気持ちを忘れ完全に浮かれていた。
だって仕方ないじゃないですか!
誰だって絶対こうなります。
と、誰でもない心の中で一人ノリツッコミのようなことをしてしまった。ともかくこのゲームを引かせてくれた神様ありがとうございます。
「まずは私の一勝ですね。さあ三本先取ということで、次は楓さんの番ですよ」
早かそうな顔を再装備した、エリザで引き締めて勝ち取った札を握り、彼へ次の勝負を促す。早くしないとエリザの耐久値が無くなりそうである。
「わかったよ。ちょだと待っててくれ」
そんな私と同じように恥ずかしさから未だに復帰できていない楓さん。彼は少し息を整えてから思い切って札を引き、そして表情が歪んだ。
どうしたのだろうと思うまま、目の前に札を出され、多分私も楓さんと同じような表情になった。
眼前に浮かぶカードに書かれていたのは
『大好きだよゲーム』
ルールとかわからないけど、わかる。
神様、恨みますよ。感謝しましたけどおかわりは無理です。
「じゃあ華凛が言う側で始めてくれ」
あー、もう、もう。パクパクと心臓がうるさい。
「ら、らいすきれす」
あー、だめかんだ。
あぁ、もうだめと私は恥ずかしさから展望台から走り去っていた。
その時走り去った自分を讃えたい。
だって多分。楓さんからこの状態で打ち返されていたら私……多分泣いてたから。
でも、聞きたかったかも。
恐れられている悪役女優様は俺だけに可愛い素顔を見せる 最可愛 狐哀 @saikawa_kosai
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