第三三話 『エピローグ:私にとっての』

『〈悪役女優〉神無月華凜。学業優先により活動休止』


 適当に流し読みをしていたネットニュースの見出しを見て、私は固まった。

 は? どういうこと? 華凜が? 


「あの神無月華凜がどうして?」


 心の中だけに留めておきたかった言葉が、知らず知らずに口からこぼれ出ていた。

 でも、仕方ないだろう。

 一番芸能界から離れない、しがみついてでも生き残る。存在し続けると思っていた存在の、活動休止なのだから。

 休むにしたって学業優先なんて信じられない。事故か、病気か、事務所側から止められるような内容であれば納得だが、彼女から進んで休むなんて、そんなことはない。この記事は絶対に嘘だ。


 常に高圧的で傲慢なキャラを演じる役者。

 役柄と同じ気高く孤高で、圧倒的なまでのセンスと技量をもった、魂までその職業に染まった本物の演者。


 そんな彼女がなぜ? わからない。理解できない。

 わからないけれど記事を見る限り活動休止は事務所側が出した正真正銘の真実のようだ。

 休止の文字がひどく心を騒がせる。

 私の知る華凜は常に演技・芝居について考えているような人だった。役を落とし込み自分自身にするような人だった。その大人でも出来ないような芸とうを呼吸のように、魚が海を泳ぐように、当たり前にやってのける人だった。

 だから、もし彼女が演技を辞める時が来るとすればそれこそ命に障る時だろうと思っていた。

 でも、そうじゃない。もしかしたら、何か心境の変化があって役者から距離をとって、そのまま辞めてしまおうと考えているのかもしれない。


 かわいらしく、夢を語る姿が羨ましかった。

 私には語れる夢も、なにも無かったから。


「華凜なんでよ……約束忘れちゃったの?」


 彼女との約束があったから私は今日までやってこられた。

 悲しくてしょうがない。空しくてしょうがない。ヒリヒリと、胸に痛みがたまる。

 今日この後仕事があるけれど、うまく行く気がしない。

 待ち受け写真を眺め、ため息をこぼす。


「そうだ、なんかあったなら私が解決できるかな??」


 スケジュール帳を開き、撮影都合と照らし合わせて考える。どうすれば彼女の力になれるだろうか。

 どうすれば、彼女を役者に戻せるだろうか。

 




_________________

《あとがき&お知らせ》

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

これにて『恐れられている悪役女優様は俺だけに可愛い素顔を見せる』

第一部完結になります。

一ヶ月の投稿期間、お付き合いいただけた方々誠に感謝申し上げます。


ここまで読んでくださった皆様大好きでございます。

よろしければ★★★評価やレビューコメントなどしていただけたら嬉しい限りです。

すでに、評価していただいている方は感無量、感涙の限りです。

た、大変ありがとうございます!

_________________

ここからはお知らせになります。


本日から二、三週間程お休みをいただきまして、その後二部の投稿を開始しようと思っています。

おやすみの間も、二日に一本くらいのペースで短い閑話を投稿する予定でいます。

閑話第一話目は本日の午後に投稿予定です。


一部の終わりまで楽しんでくれた方々、是非二部の方でもお付き合いいただければと思います。

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