第29話 日曜日も仕事。
朝は真弓さんが用意してくれた朝食を美味しくいただき、仕事の真矢ちゃんと出かけ、みなとみらい駅で分かれる。
日曜日の仕事は割と暇になる。
何故ならば、銀行がやっていないから経理としてはやりとり先が減るのだ。
それに一部の業者も休みだ。
逆に増えるのは、賃借人からの連絡だ。
今日なんかは逆に忙しいぐらい、クレームの電話がかかってきて対応に追われている。
もう一人の物件管理している娘なんて、お客さんに強く言われすぎて泣いてしまっているので、僕が上司役として対応した。
そもそも上司は、僕も彼女も社長な訳なのだが、こればかりは仕方ない。
社長に言った所で、自分が出ると後がなくなると言ったりするし、そもそも今日は付き合いのゴルフでいないのだ。
本当にどうしようもなく、しかたない話であり、胃が痛くなるばかりだ。
「ふう……」
午前はクレームで終わり、午後に入る前に昼飯の休憩に入る。
お弁当を作って貰えて来たので、今日の食事はオフィス内でだ。
「あれ、先輩、弁当何て珍しいっすね」
「ホントだ」
隣に二人座る。
一人は、入社三年目でエースの男子。
一人は、二年目で管理物件担当の女子だ。つまり、先ほど、お客さんに詰められていた女の子である。
「噂の同棲している人からのお弁当っすか?」
「その通りだ。
それはさておき、っす、って言葉使いは社長にも怒られてるだろ」
「数値出してるので許されました」
ニシシと笑うので質が悪い、営業という奴はこういう所がある。
数値を出せば、法に反しない限りは正義なのだ。
「それはおめでとう、で来季の報奨金は?」
「もう狙えますんで、計算の時は宜しくお願いしやす」
報奨金システムは、バックオフィスには無い。
実のところ、賞与すらないので、額面十二か月分が年収になる。あわせて四百万後半なのでまぁ、普通と言えば普通なのだが、営業が報奨金込みで年収一千万を越したりしているのを観ると寂しく思う。
せめて賞与ぐらいは、欲しいものではあるが、社長がくれないし、就業規則にも決まっていないモノは仕方ないのである。
「せめてバックオフィスにも賞与欲しいですよねー」
「それは確かに。
営業の稼ぎが足りないからだぞ?」
会社への不満を冗談で上手くかわす。
「えー、そんなことないっすよ。
俺はちゃんとやってるんで。
とはいえ、営業も辛いっすよ? マジで」
「そりゃそうだ」
お客様の為……ではなく数値の為なら、休み返上で働くのが古い形の不動産営業というモノである。大手、例えば、上場企業のオープンなんちゃらとかも、残業で問題を起こしている。
業界全体が仕組みとして効率化してないのもあれば、新しくしようとしてないのもある。
「てか、今回、上手く言ってるんすか?」
「目的語が無い、やりなおし。
仕事か?
付き合いの女性の話か?」
「女性の話っす。
いきなり横浜の山手に引っ越しとか驚いちゃいましたよ」
「うん、旨くいってるな。
何というか可愛いし、料理も出来るし、何で僕なんかが出会えたんだろって感じだ。
それに娘さんも可憐だしな」
とはいえ、流石に娘からも求婚されているとは言えない。
「バツイチ選ぶとか、変わり者だとは思いますけど?」
「そんなこと言ってると、いつかセクハラで訴えられるから注意しとけよ?
バツイチとか、女性の話はデリケートなんだ」
「そうよそうよ」
「はーいっす」
そんなこんなで昼間の休憩が終わり、続きに入る。
追加クレーム三件。
時期が悪いというのもある。
季節の変わり目と言うモノは兎も角、モノが壊れやすい。
特に、昨今のコロナにより、給湯器関係が故障すると他の空いてる現場から持ってきたり、なんとかやりくりしている所だ。
「はぁああああ~……」
クレームを受けた女の子が大きなため息をつきながら、涙ぐんでるのが判る。
なので、さすがにフォローを入れる。
「まぁ、しょうがないさ、こういう日もある。
僕のほうも一件あったし、母数に対しての件数はあってる」
僕が約五十戸、彼女が約七十戸。会社の抱えている物件の総数は約百二十戸程度。賃貸業者としては小規模だし、賃貸の管理は二百戸で一人分である。
三分の一で倒れられては困るのだ。
「とはいえとはいえ、つらいですよー。
怒声ばっかしで」
「それは仕方ないと割り切りしかない。
基本的にクレームは聞き手に回ってあげて、相手のして欲しい事を聞き出すのが仕事だからね?
精神修行を兼ねてる部分はある」
「なんでも出来る先輩だから、そういえるんですよー!」
大きな声で反論されてしまい、周りの注目を集めてしまう。
「あ、すみません……なんか、最近、疲れてて、帰ってもクレームのことを思い返したりして……」
「いやいいさ、社長にも相談してみたらどうだ?
営業に回してくれとか、他のバックオフィス作業、例えば僕のやっている総務作業なんかに転換してくれとか」
「社長がそれを聞くと思いますかぁ?
早く、先輩の五〇件を引き継げと言われてるのに」
社長の顔が浮かび、
「ムリだな、でもいうだけは言わないと。
僕だって仕事が多すぎるって毎四半期言ってるからね」
「よく、あの社長に言えますね……」
「さすがに僕が壊れたら、会社がどうにかなるのは明白だからね。
社長も聞いてはくれるのさ」
増えたためしはあっても、減ったためしは無いけどねと心の中で付け加える。
事実だがさすがにこんなことを言って、絶望させたくない。
そんな、日曜の業務日だった。
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