第24話 恋と言う代物
「なぁ、ここ、解んない」
「え?どこ?」
「ここの公式」
「あー…これは…」
図書室で、新と茉白が勉強を続けている。新は、一気に火が付いた。100位以内に入らなければ、告白することすらできなくなる。1か月、こんなにみっちり側にいて、デートだって催して、精一杯男気出した、つもりだった。でも、それも10以内に入らなければ、何も残らない。泡と消えるのだから。
「あ、後、この㏖濃度の求め方、もう一度教えて」
「うん、いいよ。だから、これはね」
茉白は、その一生懸命さに、少し違和感を覚えていた。それでも、自分との約束を守ろうと懸命に頑張ってくれているのだと思うと、嬉しいのは隠せない。だからって、この嬉しさが、何なのか、どうしても、茉白の中で答えはでないのだ。
(くっそー…むじぃ…。でも、負けてたまっかよ!!)
頭を抱えて、ひたすら問題を解いてゆく新。その姿は、1か月前からは想像も出来ない。只の茉白の復讐に過ぎなかったこの勉強会が、今、新にとっては、掛け替えのない茉白と一緒に…それも、ふたりきりでいられる貴重で、充実した時間だ。それを失くす上、茉白のテスト結果と、判断によっては、山本と茉白が付き合うかも知れない。
「ずぇったいヤダ!!」
「は!?いきなり何?」
「え…あ、わり…」
茉白が目をぱちくりして新たを見つめた。その瞳に映る自分は、後3日で茉白の中からいなくなるかも知れない。そう思ったら、今の言葉がつい、大声で出てしまった。
無情にも、下校を知らせるチャイムが学校中に響き渡った。
「じゃあ、今日はこれでお終いね」
「や!!ダメだ!!」
「はぁ!?」
「水無月!!お前、どうせ時間あるだろう?」
「…なにそのどうせって…」
「何も言わなくていい。お前に彼氏がいない知っている」
「…貴方もね…。で、それと何が関係あって、何がダメなの?」
「ファミレスで、続きの勉強会だ!!行くぞ!!紅茶くらいはご馳走するから!!」
「…篠原くん…。なんか、そんな一生懸命になられると、教えない訳に行かないね。うん。じゃあ、付き合ってあげる」
「ほんとか!?よし!!じゃあ、行くぞ!!」
「はいはい…」
少し、テンション高め過ぎる新に、茉白は変に思ったが、何だか、やっぱり、嬉しくもあったのだ。
*****
「へー…。ここまで一人で解けるようになったんだね。篠原くん」
「え!マジ!?溶けてる!?」
「ううん。びちゃびちゃにはなってないわ…。問題が理解できてる、って言ってるの」
「…もう俺の頭を読むな、と言ったろう…」
「ごめんなさい。もう癖なの」
ふたりは、気が付いたら、ファミレスで、3時間も勉強していた。
「あ、やばい。これ以上遅くなると、お母さんたちが心配するから。そろそろ帰らないと。明日の分は、大体理解できてると思うよ。だから、自信もって、頑張って!!篠原くん!!じゃあ、紅茶、ご馳走様」
そう言うと、慌ただしく、茉白はファミレスを出て行った。
「あー…マジ…負けたらどうすっかなー…。でも…水無月頭いいし…。水無月が勝てば…」
そう口にポロッと出した瞬間、新は思った。
(イヤ…。それじゃ、格好悪いよな…。俺が、100位以内に入って、水無月を奪うのが、一番格好いい!!…はず…。でも、水無月はどうなんだろうな…。俺のこと…只の馬鹿としか思ってないだろうしな…)
前向きと、後ろ向きの思考が、行ったり来たりする。
これが、いわゆる、恋と言う、代物なのだろう…。
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