第18話 今度はそう言うんじゃなくて
「今日は、古文を教える」
「…はい…」
「元気がないね」
「ないよ、そりゃ…。俺、関連断面氏より苦手だもん!!」
「それは誰でどんなことを成しえた人なの?」
「は?水無月がこの前教えてくれた、英語のことじゃん」
「うん。大体わかってて聞き返したけど、本当にそのことで、とても残念よ」
茉白はこれから教える古文にとてつもない不安を覚えた。
*****
「じゃあ、まず枕草子から」
「マクラノソウシ?」
「貴方はとうとう漢字変換も出来なくなったのね…。清少納言って聞いたことない?」
「う~ん…あった気も…しないでも…」
「あ・る・の!!」
「え~!!でも、俺の古文では初登場の人物だぜ~?」
「兎に角!!枕草子の原文を、現代文に訳すことから始めるから」
「…はい…」
新は情けない返事をした。
「『春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。』はい。訳して」
「『春に、曙と言う力士がいて、柔らかい白い山がすこし明るくて、むらさきの雲が細く鯉のぼりのようになびいてる』!!どうだ!!完璧!!」
「………どこがどうしたら、完璧なの?」
「だって、そうだろ!?訳しまくってるじゃん!!日本語じゃん!!」
「古文も日本語よ」
「え?そうなの?中国の言葉じゃないの?」
これは、かなりの前途多難だと、気が重くなる茉白。それから、茉白は徹底的に枕草子を教え込んだ。
「むずいよー!!こんなの訳せねぇよー!!意味不明だよー!!」
今日は、えらくこの男は面倒を言う。古文は、本当に苦手なのだろう。それでも、茉白は懸命に、根気強く教え続けた。そして…、
「『ふっ、冬は早朝。雪が積もっているのはもちろん、靄が真っ白に降ってるのもそうじゃなくても、凍てついた寒い朝、炎で急いでおこして、炭を部屋から部屋へ持って歩くのも、なんとも冬の朝みたいだ。昼になってだんだん寒さがあったかくなってくると炭も白い灰がかぶっちゃって抜けた感じ』!!どうだぁ!!参ったか!!」
「…色々直す点は多々あるけど、最初よりましか…。でも、これで本当に100位以内入れるの?」
何だか、茉白は心配しているように見える。
「なんで水無月はそんなに俺にこだわるんだよ」
「こだわってるんじゃない!あくまでも復讐よ!」
「あ、そうだった」
「まったく。最初の趣旨を忘れないで」
「種は花を咲かせたか?」
「…一体何の話をしていると仮定すれば、いきなり花が咲くの?でも、全く訳せてないわけでもないから、本当に、本当に、最初と比べれば、ましになったかな?」
「だろう!?俺もそう思う!!」
「そんなに自信を持たないで。決して出来てはないんだから」
「なぁ!明日の土曜日に、映画でもどうだ!?」
「な!なんで!?なんで篠原くんと私が…って…また山本くんにお膳立てされるように頼まれでもしたの?」
茉白が急に不機嫌になる。
「んなんじねーよ。俺の、お礼だ!!俺、高校入って、部活ばっかで、まぁ、そ
れはそれで楽しかったし、今も楽しいけど、勉強、俺、嫌いだけど、結構すきかも!!」
新の満面の笑顔が、茉白には異様に眩しかった。
「じゃあ…篠原くんのおごりなら…」
「えぇぇえーーーー!?」
せっかくの雰囲気を台無しにするケチなおとこ、新だった。
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