第17話 茉白の悦び

「じゃあ、今日はこのくらいにしようか」


「おう!今日もサンキュな」


「…」


「なんだよ」


やけに険しい顔をする茉白に、こっちこそ、と言いたげに、新が言う。


「だって、勉強を押し付けられて、毎日毎日文句と弱音しか吐かないのに、サンキュなんて言うから、何事かと思うよ…」


「まったく、必礼極まりないおんなだな。俺は俺なりに頑張っていると言うのに」


「失礼ね。必然にお礼をしてどうするの?まぁ、功を奏して、私へのお礼にはなっている言葉かも知れないけど」


「…だから…もう、俺の頭を読むのはやめてくれ」


「だって、仕方ないでしょ。私は間違いを正さないのが性に合わないの」


「そうか…それは猫記だな」


「貴方は、猫の記録を残してどうするの?」


「はぁ!?今のは間違ってんの!?」


「だれでも、やまいの病気を想像すると思うけど」


「そ、そうか…確か、〇マゾンでそんな様な本を売っていたのに…。あれは嘘か…」


「嘘じゃない。貴方、馬鹿なの?完全に漢字の意味を間違えてるだけ」


茉白はやっぱり、溜息を吐くのだ。


「明日までに、今日教えた公式を憶えて来て。明日は私の作った模擬試験をやってもらうから」


「…和紙事件?」


「…模擬試験。貴方、馬鹿でしょ?和紙でどんな事件が起こるの?」


「そんないちいち難しいこと言うなよぉ―――!!」


「言ってない。一切難しいことは言ってない」


明日の模試が、思いやられる茉白だった。



*****



「はい!これ、20分で解いて」


「えぇーーー!!こんなにぃーーー!?」


「文句言わない!!」


「…はい…」


「はい!始め!」


茉白の号令で茉白特製の模擬試験が開始された。


「なぁ、ここ、どうやって解くの?」


「それ聞いたら試験の意味ないでしょ」


「…だな…」


渋々と、紙と格闘する新。ぶつくさぶつくさ言っている。その中には、明らかに、茉白の悪口が混ざっていたが、茉白は注意することも、怒ることもない。真剣に、20分を見守る。


そして、20分後―


「終わり!!」


「ふげ―――!!」


新は、号令に素早く反応すると、背伸びをした。


「どうだ!!俺の祭典!!」


「祭りじゃない…。今から採点するから、待ってて」


しばらく沈黙が生まれる。茉白は赤ペンで、〇と×を次々と振り分ける。


その手が止まった。すると、茉白はギラッと、新を睨んだ。


「…やっぱ…赤点…だった?」


恐る恐る新は両手の人差し指をつつき合わせた。


「39点!!赤点ではないよ!!理数数学Ⅱでこれなら、本番も大丈夫かも!!この模試、結構難しく作ったから!!」


「マジか―――――――!!!」


新は、雄叫びを上げた。


「ちゃんと、やればできるんじゃない。問題は古文ね」


「え?」


「あなたの漢字の能力は、群を抜いてる。かなりの鍛錬が必要よ!」


茉白の顔が、打って変わって険しくなる。


「練炭か…」


「…練炭は一酸化中毒を起こして、死ぬのよ?貴方、死にたいの?」


もう、茉白も突っ込むのが疲れて来た。しかし、新が予想以上に頑張っている。それが、茉白はなんだか嬉しかった。

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