第16話 2人で勉強会にこだわっているのは何故なんだ

放課後の図書室に、2人はいた。


「どうしたの?篠原くん」


「……」


「篠原くん?」


「……」


「篠原新!!」


「は!はい!!」


「ちょっと、この英文の訳し方聞いてた?」


「あ…いや…、ごめん。ちょっと頭がこんがらがってて…」


「あぁ…これ、関係代名詞ね、ちょっと慣れるまでは、訳しずらいかな?でも、whatもwhenもwhoも同じ関係代名詞なんだよ。ここでだいじなのが…」


「なぁ、水無月」


「ん?どっか解らないところあった?」


「いや、すべてわからないが」


「……」


茉白は口を引きつらせた。


「なんで、俺にそんなにこだわる?武吉と、嘉津に言われてよく考えたんだけど、俺のこと100位以内にして、一体何になる?」


「何って。復讐だけど?」


「復習…」


「それは、勉強をもう1度勉強し返すこと」


「…だから、なんでそんなに俺の頭を読むんだ…」


「貴方の考えてることくらい…と言うか、把握してる漢字は大体頭に入ってるからよ。篠原くん」


「じゃあ、復讐って、俺が山本とデートさせたこと…だよな…」


「当たり前でしょ?あれはさすがに怒り心頭した」


「怒り浸透…そうか…やっぱか…」


「浸って透明になっていってどうするの…、いわば逆よ」


「…しんとうって…どんな漢字なんだ。それすらわからん」


「心に頭だよ!」


「そうか…。で、それじゃあ、100位にならなかったら、もう俺は離さないんだな?」


「離さないじゃない。おしゃべりしないの!!なんで、貴方から離れちゃいけないことになるの!」


「…う~ん…分らん…」


「何が?」


「俺に怒ってるなら、最初から無視すれば良いだけじゃないのか?」


「それじゃ、復讐にならない。貴方をもっと困らせたいの。貴方が一番困るのはなに?」


「勉強」


「そう。だから、私は精一杯の恨みを込めてあなたに勉強をさせると言う復讐を選択したの」


「あぁあ!!そういうことかぁ!!なるほどなぁ!!そんなにお前俺のこと嫌いだったんだ!!」


「……そうね」


この男は…もうどうしようもない。でも、茉白も茉白でどうしよもない。2人は2人して、自分の気持ちに気付いていない。


…と、思いませんか?




*****


「倫理は、丸暗記が一番手っ取り早いの。兎に角、教科書を読みまくりなさい!」


「丸暗記!?だってこんな分厚いけど…」


「でも、倫理は、特別難しい問題は出ない。点数を稼ぐには、最も効果的よ」


「そうなのぉ?まるあんきぃ?しんどぉーい…」


「男が簡単にへにょっとした声出さない!!」


図書室には、幸い、2人しかいなかったから、茉白は心置きなく。新を叱ることが出来た。しかし、叱られる新はたまったもんじゃない。



でも、なのに、どうしてか、訳が分からないが、図書室に向かうまでの足取りがなんだか、サッカーをしている時のように軽い。勉強も、してみると、色々興味が湧いてくるものだ。すると、何となく、問題を解くのが快感に変わる。こんな気持ちを、茉白は味わいたくて、勉強しているのかな?と、新は思った。



「おう!水無月!!今日もよろしくな!!」


「…!?」


「なんだよ。人の顔じろじろ見やがって…」


「だって、これから、貴方が一番不得意の『理数数学Ⅱ』の課題を解くのに…」


「だからだよ!これわっかんねーと、100位は無理だろ?」


「そう…ね」


茉白は正直、驚いている。勉強をあんなに拒んでいた新が、足取りも軽く階段を上がってくるのが、図書室まで聴こえて来ていた。





「頑張るか。篠原くん」


「おう!!」


そして、茉白は初めて、新たに微笑んだ。


新は、その笑顔を見て、なにか、この勉強会にこだわっている自分のことが、また解らなくなる。…のに、なんでだか、嬉しいのだ。

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