第11話 茉白にもう貸がない

「水無月ぃぃぃぃぃ―――!!!」


後ろからの声に、茉白は少々驚きながら振り返った。


「…篠原くん…廊下は声が響くの。そんな大きな声で…」


「64!!」


「九九ですか?8×8ね」


「馬鹿か!!お前は!!」


むっ!!


「篠原くんにだけはいわれたくないのだけど…」


「再追試!!64点だった!!」


「……えぇ!!??」


一瞬、なにかの聞き間違えか、自分の耳がおかしくなったのか、もう新がとち狂ったのか…、それしか思い浮かばなかった。


「そ、それ、本当?私に遠慮しなくても、本当の点数言っていいんだよ?」


「…お前、本当に人を馬鹿にするのがすきだな…。人が本当に頑張ったのに…」


「じゃあ、本当に64点だったの!?」


「うん!!!ありがとな!!水無月!!」


新は、もうきらっきらに微笑んだ。…どうしたことだろう…?何やら、茉白の胸が痛い。その痛みに、茉白は急に恥ずかしくなり、無言になった。


「…?どうしたよ、水無月。64点でも馬鹿にするのか?…イヤ、お前に比べたら馬鹿だけど…」


「…ひっ、日髙くんは!?」


とりあえず、もう1人のを心配して見せた。


「あぁ!!あいつは48点!!でも、喜んでた。サッカー部の西野(顧問)に結構脅されてたらしいから、ホッとしてたよ」


「そ、そう…。良かった…」


「?なんか、元気ねぇな。水無月」


「そんなことないよ。じゃあ、私はもうお役御免ね。今度の小テスト、いい点とれると良いね」


「は?小テスト?んなのあったっけ…」


「…古文の小テストが、来週の月曜にあると、担任から今日お知らせがあったけど…?」


「なっ!なんといういんぼう!!」


「陰謀すら漢字で書けないなら、古文の赤点は必至ね。お気の毒様」


「ふふふ…」


「なによ。壊れた?」


「お気の毒なのは…、お前、水無月茉白だ!!」


「!!??」


茉白は嫌な予感しかしなかった。


「俺、結構いい提案したし、そのおかげで、山本からの追跡から逃れらただろう!!」


「追跡…。とてつもなく言葉選びを間違っているように思えるんだけど…。その上、恩着せがましいことを言うのはやめて欲しい。もう、十分、貴方には貸は返したよ。日髙くんの分まで。それも解らない?お馬鹿さん」


「むむ…。そ、それは…えっと、なんて言うか、それでも…」


「私の言い返す能力が、貴方に負けるとは思えないし、現実、もう貴方に貸はないはずよ!じゃあ、頑張って」


「水無月ぃ…」


絶望する新を置いて、ツカツカ…と美術室に茉白は向かって行ってしまった。




「嘉津!!お前に頼みがある!!」


「うむ!無理だ!!」


「何がだ!?まだ何も言ってない!!」


「俺は化学は得意だったから、もちろん、赤点を取ろうはずがなかった!!しかーし!!…水無月に言ったら怒られそうだけど、“全問正解者”とは違い、おれは文系が恐ろしく不得意だ!!」


「じゃ、じゃあ、武吉!!」


『……』


「済まない。武吉。お前には得意分野なんてなかったな」


新と嘉津は、武吉の肩を抱いた。


「ぬわにを言うか!!新!!得意分野が無いのはお前も同じだろう!!俺に可哀そうみたいな顔をすんな!!」


「だよねぇ~…」


「「「…」」」



3人の考えてることは同じ。どうやって、茉白の『解答』ノートを見せてもらえるか…。

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