第10話 2人の笑み

「あら。その絵、躍動感が凄いわね。水無月さん」


「牧先生。ありがとうございます」


「それは、誰かモデルがいるの?」


「あ、いえ。とくには」


「そう。でも、色もいいわね。水無月さんの繊細さがとても出てる」


「そうですか?私は、牧先生の先日のデフォルメの風刺画、とても面白かったです」


「ふふふ…そう?ありがとう。じゃあ、頑張って」


「はい!」


牧先生は、茉白の憧れの先生だった。いつも優しく、入学して、初めての美術の授業で、丁寧に、デッサンから、色彩のバランスなどを、茉白に、教えてくれたのだ。その影響で、茉白は美術部に入った。




―1時間後―


「あら!水無月さん、まだいたの?」


「あ…す、すみません!!つい夢中になって…」


茉白が美術室を見渡すと、そこにはもう部員の姿は1人もなかった。


「頑張りすぎちゃだめよ?今日はもう帰った方が良いわ」


「あ!!!」


「え!!!???」


茉白の声に、牧先生も驚いた。


「な、なにかあったの?」


恐る恐る、茉白に聞いた。


「すみません!!約束を忘れていました!!失礼します!!」


そう言うと、茉白は、慌ててカンバスだの筆だのを片付け、美術室から出た。



*****



「ごめん!!篠原くん、日髙くん!!」


「「おせーな―…」」


と男のくせに、甘ったるいイチゴパフェをモグモグ食べながら、待ち時間を満喫していた模様の2人。茉白の心から、一気に申し訳ない…と言う気持ちが消えた。


「じゃ、始めるよ」


3人は、真面目に勉強しだした。茉白も、自分自身が勉強する分にはなんの支障もなかったが、人に教えると言うのは、別なのだ…ということを痛感していた。教師と言う仕事が、どれだけ大変であるかも、その魅力にも気付き始めていた。


「あ、解った!!こうか?」


「そう!!その公式を覚えれば、後は応用だから」


「え!?新、わかっちゃったの!!??」


武吉が、急に焦りだす。


「大丈夫。日髙くんもこの前よりいい!!」


「…なんか面倒くさがってるような褒め方だな…」


「そ…そう?でも、再追試まであと2日あるから、2人とも、なんとか頑張ろう!!」


「「お、おう。頼む!」」



*****



「始め!!」


各クラスから集まった、13名が、再追試に挑み始めた。


(あ、解る!!)


新は思った。


(う~ん…ここは確かあの公式を…)


日髙も闘っている。



60分後。チャイムが鳴った。


「「「「ふぅ」」」」


13人は皆、同時に、溜息を吐く。


「じゃあ、明日返却するから、放課後、職員室に取りにくるように」


「はーい」


社会担当の北条ほうじょう先生が、この日の追試の監視役だった。その号令で、生徒達は教室を去って行った。


残ったのは、新と武吉。


「「…」」


2人は、見つめ合う。そして、放った言葉は…。


「「やったな!!」」


自信満々で、明日、返却されるテストを、今すぐにでももらいたい気分の2人なのだった。

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