第2話 頼りない我がクラスの男子

「それってどういう意味だ。新」


「げ!!嘉津!!」


新の肩にずっしりと圧し掛かるように、腕を回してきたのは、同じクラスの、仲人なこうど嘉津。こいつ茉白にノートを見せてくれるよう、頼み込んだ男子の1人だ。


「仕方ねぇだろう…。お前、頭悪いじゃん」


「お前が言うな!!俺は、『理数数学I』、31点だ。ギリ、赤点にはならなかった!お前とは違う!!」


「2点違うだけだろうが!!」


「ふっ…。不毛な言い合いだな。お前ら」


「「武吉たけよし!?」」


「諸君!!俺は、36点だ!!このクラスのどの男子より優れているのだよ!!」


日髙ひだか武吉。こいつは、じゃんけんで負けて、風紀委員になった。それが故(?)何故だか、威張っている。しかし、こいつもまた、馬鹿でしかない。


「武吉、お前、山本にそのセリフ言えるか?」


“山本”とは、水無月茉白とクラス委員を務める、山本凌駕やまもとりょうがのことである。凌駕は、茉白と付き合っている…と言う噂がある。…ほど、クラス…イヤ、学年でも成績はトップクラスだ。なおいうならば、“お顔”も、まんざらではない。


「あぁ…せめて、山本がノート見してくれたらなぁ…」


「それも無理だな」


「だよな…」


山本は、『不正を一切許さん!!』というポリシーのもと、学校生活を送る生徒である。性格だけで言うなら、茉白よりややこしい。





過ぎたある日の出来事。


「山本!!一生の頼みがある!!俺に、漢文の訳し方をレクチャーしてくれ!!」


この時も、頼みに行ったのは、新だった。


「篠はた、何故、君にそんなレクチャーをしなくてはならないかを、漢文で示してくれ。そうすれば、教えてやる」


「イヤ…山本、俺は篠だ」


「そうか。すまん。篠原。どうだ。出来るか」


(出来るなら頼んでない…)


「や…レ点も、一二点もないのに、どうやって訳すんだ」


「それを、漢文で示せと言っている」


「…」


山本は、茉白より面倒くさい。その時、新はそう実感した。


「何でもない。山本、クラス委員、頑張ってくれ」


「あぁ。君に応援されるとは意外だ」


「ついでに、水無月のことも応援してるよ」


「!!!!!な!!!!!ななななな!!!!何を言っている!!!!篠畑!!!!俺があの無愛想女に惚れる訳がないだろう!!!ふざけたことを言う暇があったら、漢文で今日の日直の日記を書いたらどうだ!!!」


(…くくく…本当にこいつは解りやすい。水無月は気付いてないのか?)


ノートを見せてくれない仕返しに、山本をからかっておいた。クラス全員が知っている。山本は茉白のことがすきだ。だから、クラス委員を決める時、女子がじゃんけんで茉白が負けて、クラス委員に決まった瞬間、山本は、こう言い出した。


「君たち、クラス委員は、優秀な人材がするべき…だとは思わないか。そこで、一つ、君たちに提案がある。入試でこのクラストップで入った男子がその役目を担うと言うのはどうだろうか」


「「「「「…………」」」」」


その時、クラスの男子全員が気付いたことは、言わずもがなだ。まぁ、どうにも冷めた空気で、男子連中はこういうしかなかった。


「山本、クラス委員には、お前が向いてると思う。お前がやってくれ」


「ふむ。そこまで言われてやらないのは男が廃るな。では、このクラスで一番優秀な俺がクラス委員を務めよう」


「「「「「…………」」」」」


からっからの空気だけが、そこに漂っていた。





このクラスの男子は、本当にしょうもない。

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