貴方、馬鹿ですね?

第1話 リケジョと呼ぶなと言う女

水無月みなづき、俺にノート見せてくれ!!」


「は?なんで?」


「俺、『理数数学I』で、すでに赤点とってんの」


「知ってる。それで?」


「水無月、めっちゃリケジョじゃん?」


「そう言うの、やめて欲しいんだけど」


「え?なんで?」


「貴方、馬鹿でしょ」


「はぁ!?なんちゅー言い方を…!!」


「篠原くん。私は、リケジョじゃないよ。私の得意とする科目は、確かに理系が多い。でも、決して文系と呼ばれる分野でも劣っているわけじゃない」


「あ…それでいいから…ノー」


あらたが、また、ノートの催促をしようとした時。


「私は、現代文、古文、漢文、公民、世界史、日本史、地理、現代社会、倫理、政治、経済…そのどれにおいても、好成績を残してる。解る?私は、決して、『リケジョ』ではないの」


「…………あ、そ…ですか…」


並びたてられた、科目の数にさえ、新はついていけていない。それでも、茉白ましろは続ける。


「それに、リケジョと言うのは、まるで、女性が理系には向いていないような言葉。失礼極まりないよ。解る?篠原くん」


「解った!!俺が悪かった!!全問正解者様!!俺にノートを…!!」


「貴方、馬鹿ですか?」


「…」


新は、口をポカーンと空け、げんなりした。


「何をもってして、私を『全問正解者』などと呼べるの?私でも、全問正解はさすがに無理。だって、人には、必ず欠点も得手不得手も向き不向きもあるの。私が、リケジョと呼ばないで、と言ったのは、別に私が完全無欠だから、と言う理由じゃない」


「そう…か…。じゃあ、これでどうだ!」


新が、くわっ!と、口を開く。


「入試トップで入った、水無月茉白様!俺に、ノートを見せてくれ!!」


「…貴方、本当に馬鹿ですね?」


「…」


新に、もう下手に出ている我慢は出来なかった。


「水無月!!俺は馬鹿だけど!!人を馬鹿にするやつはもっと馬鹿だぞ!!」


「…そうね。でも、私は貴方を馬鹿にしたつもりはないよ」


「な!だって!お前、何度も何度も俺のこと『馬鹿でしょ』とか『馬鹿ですか?』とか『馬鹿ですね?』とかさんざん言ったじゃんよぉ!!!」


新は叫んだ。ここは、普通の教室の中なのに。自分の馬鹿さをクラス中にアピールしているようなものだ。


「…篠原くん。私は、確かにそう言った。でも、それは馬鹿にしたんじゃない。貴方が本当に馬鹿だから、そう言ったの。この違いも解らない?」


「…水無月…、お前…モテないだろ…」


「篠原くん、人は、それを『馬鹿にする』と言うの」



茉白はさらっとそう言い放つと、


「じゃあ、私、美術部の牧先生に提出しなきゃいけない宿題を、今日まで忘れていたから、今から渡しに行かなくちゃ。ノートは、仲の良い男友達に見せてもらいなさい」


茉白はさっさとスケッチブックを手に取ると、教室から出て行った。





「…男友達…そいつらが…役に立つんなら、とっくにそうしてるっつーの…」

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