9 日本人形

 ひとり兵庫まで戻って来た私は、母の住まいに帰る前に、燃えてしまった実家を見に行くことにした。

 特に用があったわけではない。ただ、かごめさんの日記帳を読んでいたのはあの家で――たとえ燃えて無くなっていても、読んだときの記憶があの場所と強く結びついていたからだろう。だからこそ、かごめさんについて多くのことを知った今、あらためてこの目で見ておきたいと思っていた。

 全てが終わった今となっては、実家でひとり、怪異が起こるかもしれない――と、不安と焦燥を覚えながら日記帳を読んでいた日々が、何だか感慨深く思えてくる。もちろん、かごめさんの家で新たに回収した日記帳についても――今度はゆっくりと――読み進める気でいた。それは今も鞄の中にあるが、ノートも十冊以上となると、やはりそれなりにずしりと重い。

 焼け跡をしばしの間ぼうっと眺めていたが、そのうち何となく人心地がついた気になって、私はそこから背を向けた。かごめさんの家ではいろいろなことがあったから、やはり自分でも気づかぬうちに気を張っていたのだろう。とはいえ、こちらでもそれなりにいろいろなことがあったわけだが――それでも故郷の空気には特別な感情を抱かせる何かがある。

 そんなことを考えながら、その場から去ろうとした、そのとき。ふと見知った――しかし、思いがけない人物の姿を目にして、私は思わず目をしばたたかせた。

「岩槻くん? どうして――」

 かつて勤めていた会社の後輩、岩槻文がそこにいた。

 延坂に指摘されたこともあって、私は東京にいたとき、彼に簡単なメッセージだけを送っている。用があって今は東京にいて――ただ、またあらためて連絡する、と。

 しかし、どうして今、彼がここにいるのだろう。

 岩槻はどこか険しい表情で、行く手の少し先、道の辻辺りに立っている。

 しばらく会わない間に、少し雰囲気が変わっただろうか。どう声をかけたらいいのだろう。私が迷っているうちに、岩槻の方が先に口を開いた。

「やっぱりあなたは、僕のことを頼ってはくれないんですね」

 彼のただならぬ様子に、私は思わず顔をしかめる。

 どういうことだろう。一緒に働いていたときは、彼のことは周囲のことによく気づく、できた後輩だと思っていたが――私が東京を去るときにも、彼は引っ越しの手伝いを自ら買って出てくれて――後は、延坂の連絡先を聞いたのも彼だった。しかし、それは頼るという感じではなかったかもしれない。どちらかというと気をつかう方の彼に、私はどうにか気をつかわせないようにしていた――

 戸惑いの中、私は頭の片隅でそんな考えを巡らせる。そうして呆然としている私に向かって、彼は嘲笑うかのように、こう言った。

「あんなに、呪いの人形のことを怖がっていたのに」

 人形――本当に呪われていたわけではないが、盗聴器の仕掛けられた、あの西洋人形のことか。しかし、どうして彼がそのことを知っているのだろう。

 千鳥の死体の側に西洋人形があったことを知っているのは、私が知る限り警察と――あとは梓くらいだ。それが千鳥の死に関係していると、私は認めたくなかったし、関連の可能性を誰かに話すことについても慎重だった。呪いの人形への恐れと、そして何より理性によって。

 だから、あの人形は知らない人からすれば、ただの人形だ。それなのに、彼は――

 岩槻はゆっくりとこちらへ近づいて来る。私はどうすればいいかわからずに、その場で立ち尽くしていた。

 そうして手を伸ばせば届くほどのところに、彼が足を踏み入れる、その直前。隣家の門の影から突然、何者かが飛び出した――梓だ。

 彼女は岩槻の右手を振り払うと、肘の辺りを押さえて、その勢いのまま彼の背後へと回った。不意をつかれて驚いたからか、岩槻はされるがままだ。そこからさらに、梓は彼を地面にまで組み伏せる。

 私も岩槻もぎょっとしていたが、梓はあくまでも涼しい顔だ。

「人と言葉を交わすのに、こんな物騒なものを散らつかせるものではない」

 梓はそう言って、岩槻が手にしていた物を道路の端へと投げた。きん、と高い金属音が鳴る。そこにあったのは――小型のナイフ。

 私は大きく目を見開いた。

「駅まで鹿子を迎えに行ったんだがな。君がつけていたようだから、こちらも様子を見させてもらった」

 抵抗する岩槻に向かって、梓はこう問いかけた。

「君は鹿子とは親しい間柄だったのか?」

 岩槻は答えない。ただ、梓の手から逃れようともがいている――が、梓はさして力を入れているようでもないのに、それを振り払うことは難しいらしい。梓は私の方にちらりと視線を向けると――悲しそうな顔で俯いた。

 梓は、こう続ける。

「では、君がドールを彼女の元に届けたのか」

 それを聞いて、岩槻はようやく動きを止めた。振りほどくことは不可能だと諦めたのか。しかし、押さえつける力に抗いながら、鋭い視線で梓のいる方を睨みつけている。

 梓は淡々とこう話した。

「ドールとその他の物と、被害者の遺族の他にそれらを合わせて回収できる者がいるとすれば、鹿子と近しい者――その可能性はあるとは思っていた。しかし、鹿子自身がそれを言及しなかったということは、その人物を信頼しているだろう、とも。だから、そうでなければいいと思っていたよ。でなければ、鹿子が傷つくからな」

 私は、はっとする。

 あれらをまとめて持ち出せた可能性――千鳥の家族以外でそれができる者がいたとしても、その機会は限られるだろう。だとすれば――私があの部屋を引き払うとき、か。確かに、何かと手がいるだろうと言って、彼には引っ越しを手伝ってもらっていた。そのときに――

「もうひとつ。君は鹿子があれを怖がっていたことを知っているようだ。しかし、彼女はそういったことを吹聴する人間ではないだろう。それを知ったのは、被害者と繋がりがあったからではないか。だとすれば」

「ああ。そうだよ。あの女は俺が殺したんだ。今さら、そんなこと取り繕うつもりはないさ」

 岩槻は、梓の追及に対して、あっさりとそう告白した。私はその言葉を、愕然として聞いている。

 押さえつけられたままの岩槻は、どうにか私の方へ視線を向けると、こう話し始めた。

「あなたは知らないでしょうけどね。あの女は勤め先で盗みはする、同居人から金を持ち逃げする、そんなことをずっとくり返していたんですよ。そのうち、あなたからも盗るつもりだったんだ。他人なんて、利用できる金蔓くらいにしか思ってない。うまいこと言って、人を騙して――」

 騙した――千鳥は彼に何をしたのだろう。その怒りを思い出したからか、岩槻は大きく身じろぎした。梓は岩槻が動かないように、あらためて腕に力を込める。

 私の知らなかった、千鳥の本性。他人の家に侵入し、金目の物を持ち出したことで、それはちらりと顔を出していたかもしれない――が、私はそれでも彼女のプライベートに踏み込むことはなかった。

 千鳥の家族が、彼女の死に対して妙に冷淡だったことを思い出す。確かに彼女自身、家のことはしっかりしているのに反して、仕事についてはあまりうまくいっていない印象はあった。

 しかし、それにしたって、裏でそんなことをしていたなんて。それに、この口振りでは岩槻と千鳥は以前からの知り合いというわけでもないだろう。知り合うきっかけがあったとすれば――それは、私が関連しているのではないだろうか。

 私はどうにか、こう呟く。

「それを恨んで、千鳥を殺したの?」

「違いますよ。あなたにわかってもらうためです。あの女は、多くの人に恨まれるような、そんな人だってね」

 岩槻はそう言った。わけがわからず、私は思わず首を傾げる。

 彼はいったい、何を言っているのだろう――

「だって、あなたは死人にしか興味がないから」

 岩槻は私にそう言った。

「あなたはずっと死んだ人間のことばかり追ってましたからね。だから、死ねば興味を持つかと思ったんですよ。同居人が――死んだ女が、どんな人間だったのか」

 私が絶句していると、岩槻はなおもこう言った。

「どうして、そんな驚いた顔をしているんです。ずっとそうだったでしょう? 見ていたから、わかりますよ。あなたは死んだ人にしか興味がなかった。生きている者とは、どこか距離を置いていた。孤独死なんてものを取り上げて、悦に入って。まあ、死人が相手なら、何のしがらみもなしに同情できますからね」

 勝ち誇ったような表情の彼に向かって、私はようやく口を開く。

「私は――私はそんなつもりは……」

 知らず父の面影を追っていたことを思い出す。そして、日記帳を手に入れてからも、それを書いた人物のことをずっと考えていた。そのことを言っているのだろうか。

 死人が相手であれば――確かに楽なのだろう。例えば、同居人がどんな人物だとか、後輩に気をつかわせないようにだとか、気にする必要もない。だから私は、亡くなってしまった者の思いばかりを追っていたのか――

 私が何も答えられずにいると、岩槻を押さえたままの梓が、その腕に力を込めてこう言った。

「やめろ。鹿子のため、鹿子のせいであるかのように言うのは。君が罪を犯したのは君の問題だ」

 梓のその言葉に、岩槻は忌々しげな表情を浮かべる。それに対して、梓は少しだけ同情したような顔でこう言った。

「ただ――君がわざわざドールを持って彼女を追って来たのは……鹿子に振り向いて欲しかったからだろう? だったらもう、こんなことはやめるんだ」

 そのとき、組み伏せられていた岩槻が、唐突に梓を押し退けた。よろける梓の姿を見て、私は思わず悲鳴に近い声で叫ぶ。

「梓!」

 突然のことに梓も驚いた顔をしている。それでも彼女は、岩槻の次の行動を警戒したようだが――岩槻は反撃することもなく、その場から走り去ってしまった。

 梓も追うつもりはないらしく、彼の背中が見えなくなってから、大きく息を吐く。

「私は問題ない。だが、逃がしてしまった。警察が来るまで拘束しておきたかったんだがな……すでに通報してある。すぐに捕まるだろう」

 そう言って、平然とした顔で、梓は私の元まで歩いて来る。しかし、私はそれでも、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。

「大丈夫か? 鹿子」

 心配そうな梓の声。しかし、このときの私は、その声に応えることができないほど――何か自分でもよくわからないものに、打ちのめされていた。



 梓の言葉どおり、岩槻はすぐに捕まった。しかし、その容疑は――意外なことに――彼の母親への暴行だった。

 どうやら、岩槻は私を追う前に、衝動的に自分の母親に対して何らかの暴力を振るったらしい。ただ、母親の命に別条はなく、軽い怪我だけで済んだようだ。

 後になって、岩槻文は淡島千鳥殺害の件でも、あらためて逮捕された。

 彼が犯行に及んだ理由は、金銭トラブル。その根は、どうも彼の母親にあったらしい。息子と二人暮らしで同居していたこの母親は、極度の浪費癖があったようで、岩槻はそのことをずっと悩んでいたのだと言う。

 そうした背景の中で、千鳥には言葉巧みに弱みを聞き出され、それを元に詐欺まがいのことをさせられた――それが殺害の動機だった。彼にしてみれば、どうにか今の生活から抜け出したいという思いだったようだが。

 いつの時点で――そして、何がきっかけで岩槻が千鳥と知り合ったかはわからない。しかし、古いつき合いというわけではないだろうから、私のことがきっかけとなった可能性は十分にあり得るだろう。

 この事件は、規模の割りには世間に大きく取り上げられていた。それというのも、彼の母親がマスコミなどの取材に積極的に応じていたからだ。

 私もよく、岩槻の母親が訴える映像を目にしていた。高い金を払って占い師に助言をもらったのだと吹聴する彼女は、大枚をはたいて買ったらしい数珠を持って、息子に取り憑いた悪いものを祓うのだと主張して憚らない。それはある意味で、岩槻の悩みの根の深さを表しているようでもあった。

 何にせよ――その発言によって、この事件はよりいっそうセンセーショナルに語られることになる。ただ、世間の関心とは違い、私は別のことを気にしていた。なぜなら、岩槻の母親はこうも言っていたからだ。

 家にも何か悪いものがとり憑いている。壁の中を何かが這うような音がするのだ、と。




 私はこの日、あかとき堂を訪れていた。

 カウンターの奥では店主である梓が紅茶を淹れていて、私はやはり売り物の椅子に座っている。そんな日常の光景にどこかほっとしながら、私は彼女が差し出したティーカップを受け取った。

 心地よい沈黙の中、先に口を開いたのは梓だ。

「あれから、どうだ。少しは落ち着いたか?」

 かごめさんの家に行って、そこから帰って来て――一度にいろいろなことがあった。しかし、今はようやく平穏が戻って来ている。

 そのことをしみじみと実感しながら、私は梓に向かってただ頷いた。熱い紅茶を口にしながら。

 それを見て、梓はさらにこう尋ねる。

「では、そうだな――例の家はどんな感じだったんだ? 一応、伊吹からある程度のことは聞いているが」

 私は自分の身に起こったことを整理しながら、梓に伝えるべきことを考えた。さて、何から話せばいいだろうか。

「そうね。まずは――トウビョウを持ち出した人物のことだけど。その人はたぶん……かごめさんの父親だった」

 それを聞いた梓は、そうか、とだけ相槌を打つ。

「それで、かごめさんはやっぱり監視されていて――偶然、それを調べていた人がいて。いろいろと話も聞いた」

 かごめさんの家を離れた後、氷上は彼自身が調査したことを惜しみなく教えてくれた。といっても、あの場で聞いた以上の事実があったわけではないが。

 氷上の父親は何者かに――そこはやはり秘されていたらしいが――雇われて、かごめさんの家を監視していたらしい。トウビョウの憑いた物を拾い、それを引き受ける――そのプロセスがきちんと行われていることを確かめるのが役目だったようだ。その上で、かごめさんの日々の生活について、詳細を報告することもあって――盗聴器はそのための物だろうと思われた。

 それを聞いた梓が、意味深に呟く。

「監視、か」

 何か含みがあるように思えたので、私はその先の言葉を待った。黙り込んだ私に向かって、梓はこう続ける。

「いや。もしかしたら、それ以外にも意味があったかもしれない、と思ってな。トウビョウを引き受けた者が、思いのほかそれをうまく制御できていたのだとして、その理屈がわかっていないのであれば、引き受けさせた方は当然、知りたいと思うだろう」

「それが理由で、かごめさんの生活を探っていたってこと? でも、それなら直接、会いに行けばよかったのに」

 私の不満に、梓は曖昧な答えを返す。

「どうかな。その辺りの心情を推し測れるほど、私はその人物について知らない。だからこそ、確かなことは言えない、が――トウビョウが憑くのは家か血か、というようなことを、以前にも言っていただろう。もしも、制御の均衡が危ういものだったなら、その者も下手なことはできなかったのかもしれない。別に、何かが起こると決まっているわけでもないが」

 直接会うことで、思わぬ災いが起こる可能性があった――ということだろうか。私は思わずうーんと唸ってから、こう返した。

「家はともかく、血って――ようするに、その人自身に憑いてるってこと? でも、私は実際に、あの蛇が家の中を這い回っていた気配を感じてるし、逆に私自身には憑いてる感じはしなかったけど」

 私の主張に、梓は首を横に振る。

「憑きものは、本来目に見えないものだ。鹿子が感じたものは、ただそう現れただけにすぎない。実際には常に側にいて、活動するときだけ気配を感じただけかもしれないからな」

 私は思わず顔をしかめた。人そのものに憑く、ということであれば――あの気味の悪いものが常に私の側にもいた、ということになるのだが。

 私の気がかりなど気にもとめずに、梓は紅茶を飲みながら悠々と言い放つ。

「まあ、伊吹の犬みたいなものだ」

 怪異の理屈はよくわからないので、私には何とも言えない。

 ともあれ、そうなると――災厄を流した人物は、我が身可愛さから自分の娘にも会いに行かなかった、ということになるのだろうか。

 そもそも、かごめさんに引き受けさせたことについては、どう考えていたのだろう。やはり、トウビョウに食われてしまってもいいと――端から犠牲になるものだと考えていたのだろうか。だからこそ、かごめさんも父親のことを見限ったのかもしれないが。

 しかし、それでもかごめさんは、その役目を放棄することはなかった。自分が逃げ出せば、別の誰かが犠牲になると考えたのか。それとも、もはや逃れられないと諦めたのか――

「そう言えば、かごめさんは監視されていたことにも気づいていたみたい」

 私がそう言うと、梓は軽く肩を竦めた。

「盗聴器が仕掛けられたドールにも、すぐに気づいていたようだからな……その辺りは監視者の方が少々お粗末な気もするが――とはいえ、そういったことに慣れた人物でもないのだろう?」

 私はその言葉に頷いた。

 確かに、氷上の話を聞く限り、彼の父親は決して仕事熱心ではなかったのだろう。かごめさんが物を拾う意味だって、わかっていなかったかもしれない。それくらいの認識の方が、雇い主の方には都合がよかったのかもしれないが。

 監視者がどんな人物だったかについては、今のところ氷上から聞いた話が全てだ。そして、氷上自身は監視のことは知っていても、私の父のことは知らなかった。しかし、日記帳を読む限り、氷上の父親は私の父の死について、何らかの事情を知っていた口振りだったが――

 だとすれば、私の父の死は、誰によってもたらされたものなのだろう。

 私はため息をつくように、こう言った。

「それで――私の父はかごめさんの事情を知って、災厄を流す者に何らかの行動を起こそうとしたみたいなの。父はやっぱり殺され――ううん。今さら誰がとか、そんなことはもういいんだけど」

 私の言葉に、梓は淡々とこう返す。

「関係者は皆、亡くなっているわけだし、今となっては真実を求めることは難しいだろうな。その――監視していたという人物とトラブルがあった可能性もあるが、その者は単に雇い主に報告しただけかもしれない。だとすれば――まあ、それでも偶然が重なって、ということも、なくはないと思うが」

 この件については、新たに手に入れた日記帳のどこかに、もっと詳しいことが書かれているのかもしれない。とはいえ、私はそれをあえて求める気はなかった。かごめさんの自責の言葉を思い出すと、むしろ誰のせいでもなければいい、とすら思っている。

 そうでなければ、かごめさんはどれだけのものを負っていたというのだろう。

 私が物思いに沈んでいると、梓はこんなことを言い出した。

「その――トウビョウを持ち出して名士となった人物のことなんだが、実は祖母が知っていたようなんだ」

「どういうこと?」

 私は思わず問い返す。梓は言葉を選びながらも、こう続けた。

「まあ、知っていた、といっても人伝に聞いただけらしいが……祖母は知り合いからよく――主にアンティークのことで――相談を受けていてな。生きているうちにできるだけ高く美術品を売りたい、と言っている者がいるのだと、話が回ってきたらしい。それがくだんの人物というわけだ。会社も譲ったので、残りの財産も寄付などして手放したい、と。どうも――余生を質素に暮らす心づもりだったようだ」

 その話は、私が抱いていたかごめさんの父親のイメージとはかけ離れていた。

 かごめさんを犠牲にしようとしていた側面と、全ての財を売り払い静かに暮らそうとしていた側面。これは、どちらが本当の姿なのだろう。あるいは、どちらも単に、違う側面でしかないのだろうか。それとも――

 梓はそこでため息をつく。

「しかし、それらを全て整理する前に、その人物は亡くなってしまったようでな。全てをキレイにしたなら、やらなければならないことがある、と言っていたらしいんだが。早くに対応できなかったことが悔やまれる、と。それで祖母もよく覚えていた」

「それって――」

 やらなければならないことがある。もしかして――かごめさんのことだろうか、と考えるのは、都合がよすぎるだろうか。

 そんな私の思いを察したのか、梓は軽く苦笑する。

「それこそ年を取ると丸くなる、なんて話はよくあるが。わからないさ。亡くなった人の本心など、誰にも」

 確かに、それはよく聞く話ではあるのだろう。それが、かごめさんの父親に当て嵌めるかどうかはわからないが。

 とはいえ、仮にそうだとしても――

「それなら、トウビョウはどうなるの? 下手したら、そうして売った美術品にも憑いてたり……?」

 ばらばらと散っていった無数の蛇のことを思い出す。おそらくあれが、養い切れないほど増える、ということなのだろう。あの中の小さな一匹でも、どこかにまぎれ込んでいて、知らないうちに増えて――という光景を想像してしまい、私は勝手にぞっとする。

 しかし、梓は全く気にしていない様子で、こう言った。

「まあ、その辺りは隼瀬家が調査するだろう。ただでさえ、例の骨董屋敷からも何かしら持ち出されているかもしれない、という話があるんだろう?」

 千鳥の件とは別に、あの家にはおもしろ半分で侵入する者がいて――その上、中の物が持ち去られることもあり、近所の人たちが困っているのだと、氷上は言っていた。それが本当なら、それらも全て伊吹が――というか、隼瀬家の人たちが調べるのだろうか。

「大変ね」

 何だか他人ごとのように言ってしまったが、実際のところ、この件について私ができることはもうない。鷹の根付もすでに伊吹に返している。そんな風に言うより他ないだろう。

 私の反応に、梓は肩を竦めている。

「まあ、あの家のことなら心配するな。あれは好きでやってるんだ。動物のことなら、あの家に任せておけばいい。動物以外だと、少し頼りないところもあるがな……」

 頼りない――そうなのだろうか。そう言えば、かごめさんの家でも、刀の話であれだけ盛り上がっていたというのに、あのあと起こるようなことについて、伊吹は何も言わなかった。一応、違和感は抱いていたようだが。やはり、無機物の怪異は対象外なのだろうか。

 そんなことを考えていた私に、梓はこう声をかける。

「しかし、今回のことでは、鹿子の方こそ大変だったんじゃないか? その――トウビョウと、直に対峙したんだろう?」

 梓のその言葉をきっかけに、私はあのときの光景をまざまざと思い出した。しかし、それこそ何から話せばいいのかわからない。

 とはいえ、梓は伊吹から少しは事情を聞いているようだし――そう考えて、私は思いつくままにこう言った。

「信じてもらえるかわからないんだけど、刀がひとりでに抜けて、こっちに飛んで来て――それで退治してくれたの」

「ああ。くちなわ太刀か?」

 と、梓はあっさりと返す。くちなわ太刀。また聞いたこともない言葉を。

 梓はこう続ける。

「盗人が刀を奪おうとすると、自ら鞘を抜け出し、蛇と化して追っていく、という話がある」

「蛇にはなってないんだけど……」

 私は戸惑いながらも、そう口を挟んだ。確かに、蛇を退治してはいるのだが。

 梓はふむと頷いた。

「まあ、刀とは持ち主の危機には勝手に鞘から抜け出て飛んで来る物だ。奇談のたぐいではよくある」

 奇談のたぐいではよくあったとしても、現実でそんなことがよくあるはずもない――とはいえ、私はそれを実際に見てしまったのだから、これに関しては、うさんくさいとも言えないだろう。

 私はそのときのことを思い出しながら、こう呟いた。

「持ち主の危機ってことは――やっぱり、あれはかごめさんだったのかな……」

 鱗に覆われていた上に半身は蛇の姿だったが、その容姿は老婆だった。トウビョウが化けただけなのか。それとも――

「鹿子はそれをどう思ったんだ?」

 梓にそう問いかけられて、私はしばらく考えた末に――こう答える。

「悲しいけれど、ぬいぐるみに反応したのは、ちゃんと父のことを覚えていてくれたのかなって」

「なら、それでいい」

 梓はそんな風に肯定した。しかし、私はそう簡単には割り切れない。

 かごめさんはトウビョウを封じようとしていたはず。しかし、それが失敗したことによって――例えば魂のようなものが囚われてしまい、それであの姿になったのだとすれば――やはり悲しい気もした。せめて、刀がトウビョウを退治したことで、少しは救われているといいのだが。

 黙り込んだ私に向かって、梓はさらにこう話す。

「伊吹なんかは、そのものではない、とでも言うんだろうが。どうしても知りたければ、その辺りの理屈は伊吹に聞いてくれ。私ではうまく説明できないからな」

 そんなことを言いながら、梓は空になったティーカップに、おかわりの紅茶を注いだ。

「とにかく――その刀は怪異でありながら、害を為す怪異を切った、と。だとすれば、彼女にとって、それは味方になってくれる怪異だったのかもしれない。今回のことも、忠義のために主を介錯した、とも考えられるな」

「忠義、ね」

 私は無意識のうちに、そう呟いた。たとえ怪異であっても、かごめさんに味方がいたのなら、少しはよかったと思えるだろうか。

 梓は何かを思い出すように、宙に視線をさ迷わせている。

「日記にあったのは、吉道という名だったか――私は刀剣には詳しくないが、もしかしたら刀の名にあるのかもしれない」

「刀に名前なんてあるの」

 私は思わずそう問いかける。

 彼女の言うとおり、確かに日記帳にはかごめさんの協力者と思われる名があった。それがまさか――刀のことだったと言うのか。

 梓は苦笑しながら、こう続ける。

「この場合は刀鍛冶――つまり作った者の名だ。刀はなかご――つかに収まる部分に、刀を打った者の名を刻むことがある。固有の名を持たない刀は、基本的にこの名で呼ばれている」

 私はなるほど、と納得した。それなら、人の名前と勘違いしても、仕方がないかもしれない。

 私は記憶の中から、刀があった光景を呼び起こした。そのときふと、あの儀式めいた跡のことを思い出す。

「そういえば、かごめさんはトウビョウを封じようとしていたみたいで、そこに刀と一緒に豆があった気がするんだけど、これにも意味がある?」

 盛り塩とかではなく、なぜ豆なのかと疑問に思っていた。梓はさらりとこう答える。

「炒り豆だろう。豆は魔を滅する物だ。節分でも豆を投げるだろう? 芽が出ないように、炒ったものを使うんだ」

 言われてみれば、節分の鬼退治は何の疑問もなく豆だった。あれは一応、豆そのものに意味があったのか。

 怪異など遠い世界の話だと思っていたが、それは案外、身近にあるものなのかもしれない。そんなことを少しだけ感慨深く思いながら、私は頷いた。

「節分、ね。日本人形は端午の節句だったし――そう言えば、これも意味があるのかな。あれだけ執拗に壊されてたみたいだけど」

「何だそれは」

 梓は怪訝な顔をしている。

 私はかごめさんの家に行ったときのことを思い返した。仏間のインパクトで忘れかけていたが、最初に入った茶の間に置かれていた、あれは確か――

「あざやかな赤い着物の女性の人形で。でも、こう……片手で兜を持っていて」

「待て。兜を持った、日本人形?」

 梓が、はっとしたように私のことを見返す。そして、こう言った。

八重垣姫やえがきひめ

「やえ……」

 私は最後の日記帳に書かれていた言葉を思い出す。


 ――人の身で全ての厄を背負おうなどと、なんて愚かなのだと、やえさんには言われました。


 思えば――やえさんは常に彼女の側にいた。彼女の日常を知ることができる場所に。ずっと見守っていられる位置に。

 だとすれば、やはり――

 梓は難しい顔をしながらも、こう話し始める。

「八重垣姫、か。上杉うえすぎ謙信けんしんの娘である八重垣姫が、武田家との争いの種である秘蔵の兜を持ち出し、許嫁の武田たけだ勝頼かつよりの危機を救って、結ばれる――と、まあ、だいたいこんな話だな」

 それを聞いて、私は大きくため息をついた。

「全然、知らないんだけど……悪かったわね。歴史に疎くて」

 それを聞いた梓は、少し呆れたような表情を浮かべている。

「歴史、というか――八重垣姫のことなら、これは架空の人物だ。浄瑠璃や歌舞伎の演目『本朝廿四孝ほんちょうにじゅうしこう』だな」

 私は思わず顔をしかめた。

「架空の人物? でも上杉謙信と武田勝頼って――まあ、いいか。とにかく、その兜を持った日本人形は、八重垣姫って名前なのね? でも――そんなことって、ある?」

 私は思わずそう問いかけたが、梓はただ軽く肩を竦めるだけだ。

「まあ、それだけで何が断定できるわけでもないが」

 梓はあくまでも冷静に、そう返した。

 確かに――日本人形の名前と日記帳に書かれている名前が似ているからといって、それがどうというわけではない。それでも、もしそうだとしたら――このことは、まだ読んでいない日記帳のどこかに詳しいことが書かれているかもしれない。

 私がそんなことを考えていると、梓はいつもの調子でこう話し始めた。

「何にせよ、八重垣姫の人形なら、それはおやま人形だろう。役者や浮世絵、舞踊などをモデルに作られる、華やかな姿をした、いわゆる衣装人形だ。それを日本人形と呼んでしまっては、ベベドールを西洋人形と呼ぶようなものだな」

 それを聞いて、私は彼女から西洋人形の――いや、アンティークドールの説明を受けたことを思い出す。

 あのときのように、梓は淡々とこう続けた。

「おやま人形は、江戸時代の人形使い小山おやま次郎じろう三郎さぶろうにちなんで、おやま人形と呼ばれるようになった、と言われている。この名が、歌舞伎の女形おやまの語源ともされているな」

 私は思わず唸り声を上げた。

「歌舞伎、ね。私がそのことを知っていたなら――少なくともあの日本人形を見た時点で、そのことに気づいていたかもしれないのに……」

 気づいていれば――どうしただろう。どうにかあれを持ち出すことを考えただろうか。

 刀と同じように、あの人形もまた、かごめさんにとっては味方だったかもしれない。だからこそ、壊されていたのではないだろうか。八重垣姫が封じる方法をかごめさんに教えたのだとすれば、当然、トウビョウには忌まわしい存在だっただろうから。

 そう思うと、急にあの人形の無残な姿が哀れに思えてくる。

 しかし、梓は私のそんな感傷などものともせず、きっぱりと首を横に振った。

「どうかな。先入観というものはあるものだ。仮にそれを知っていたとして、すぐに結びついたかどうかはあやしいだろう。ただ――知識はあって困るものではない。何が幻想で、何が現実か。何が架空で、何が歴史か。わからないことを、わかるようにするために学ぶんだ。そうでなければ、専門家に頼る。私は大抵そうしている」

 梓はそう言うと、ふと周囲を見回した。私もつられて、店内に視線を向ける。

 狭い室内には、所狭しとさまざまなアンティークが並べられていた。西洋の物が多いようにも思えるが――よく見ると、日本の物か、中国か――あるいは、出所のわからない物もいくつかある。

「アンティークは多岐の分野に渡る。とても全てを私ひとりで抱え込むことはできない。私だって、ひとりの知識で何もかもわかるとは思っていないさ」

 私は今までのことを思い返す。石の専門家に動物の専門家に、あとは何だったか――情報屋か。ひとつとて、アンティークに関係しそうな専門家はいなかった気がするが――まあ、専門家には違いない。

 それに、私もまた――ここに来て梓に話を聞かなければ、何も知らないままだっただろう。あのとき、この店を訪れなければ、私は今も途方に暮れていたに違いない。

 ぼんやりとそんなことを思っていると、梓がこう言い出した。

「だからこそ、今回は祖母の人脈を頼るか――その人形と刀を回収しよう。うちで取り扱うのは難しいが、しかるべきところへ行けるように取り計らう」

 私は目を見開いて、梓のことを見返した。

 あの家に取り残された人形と刀。唯一、かごめさんに寄り添ってくれた存在。たとえ人ではなくとも、あのままにしておくのは忍びない。

 私は大きく頷いた。

「ありがとう。そうしてくれると、私も嬉しい。人形も刀も、かごめさんの味方だったなら――これからも大事にされていて欲しいから」

 梓は黙って頷き返した。

 これでようやく、全てのことが丸く収まったようだ。現実には――あの蛇の生き残りなど――まだまだ解決していないことはある。それでも、私が求めていた答えは得られただろう。

 それにしても、まさかかごめさんの協力者が人ではなかった――かもしれない――なんて。怪異でありながら、人に寄り添ってくれる怪異。梓にとってはこれも、物は物、なのだろうか。それとも。いや、それでも――

 私がそれを尋ねる前に、梓はこんなことを言い出した。

「それにしても人形、か。そういえば、そうした衣装人形もまた、災厄の身代わりとして、嫁ぐ際の婚礼道具のひとつでもあったな」

「身代わり。人の災厄を――引き受ける?」

 私は人形を怖い物だと思っていた。人ではない、人によく似た物。でも、それは人の災厄を引き受けてくれるからなのか。だとすれば――無意味に怖がっていたことが、急に申し訳なく思えてくる。

 私がそんなことを考えていると、梓はこう続けた。

「人形には、そういう願いも込められている、ということだ。それもまた、文化だな。文化というものは遺品なんだ。誰かが残したものだ。形はなくなっても、受け継がれていく」




 私は母の住まいにいた。

 火事の後、仮に住まわせてもらうようになってから、もうけっこう経つ。そろそろ自分の身の振り方について、決めなければならない時期だろう。そんなことを思いつつ、私は今日も無為な時を過ごしていた。

 昼前の穏やかな時間。リビングには私ひとり。椅子に座りながら、起き抜けのぼうっとした頭で意味もなくテレビを眺めていた。

 春の暖かな風が吹くたびに、カーテンがゆっくりと揺れる。テレビに映っているのは小川が流れているどこかの長閑な風景で、子どもたちが楽しそうに小さな紙人形を川面に浮かべていた。

「流し雛」

 私は無意識にそう呟く。

 今日はひな祭りの日だっただろうか。そもそも、今は三月ではなかったような――だとすれば、旧暦のひな祭りだろうか。

 それにしても、また人形だ。しかも、厄を流すための物。やはり、人形は厄を背負う存在なのだろうか。

 しかし、ひな祭りと言えば、豪華な雛人形もあって――この文化には、いったいどんな変遷があったのだろう。その辺りのことは、梓に聞けばわかるかもしれない。

 そんなことを、私はぼんやりと考える。

「文化、か」

 背負いきれない厄を流す――それはきっと、悪いことではないのだろう。そうすることは、無事でいて欲しいという願いでもある。それでも――

 流された先で、その厄を引き受けている人はいないのだろうか。流せずに抱え込んでいる人は――いないのだろうか。

 おそらく、そんなことは考えない方が楽なのだろう。全部負わせるか。あるいは、全部引き受けるか。その方が、楽に思えることもある――かごめさんがそうだったように。

 しかし、ひとりが全部を負う必要があるだろうか。全部を引き受けさせて、いいのだろうか。

 本当は誰だって、厄を負いたくはないのだと思う。

 それでも、誰かが負わなければならないし、誰かが引き受けなければならない。そんなことだってある。だからこそ、流されるままではいけないのだろう。

 私は端末を手に取ると、そこにあったメッセージにもう一度目を通してから――それを引き受けた。




 ドアベルの音と共に店に入ると、いらっしゃい、という店主の声に迎えられた。

 さまざまなアンティークの間を縫って、私は奥のカウンターへと向かう。梓はそこで、からくり仕掛けの何か――たまごのような物をためつすがめつしていた。

 ちらりと視線を向けた梓に向かって、カウンターの前に立った私はこう告げる。

「東京に行くことにした。行く、というか、戻る、というか」

 その言葉を聞いて、梓は持っていた物をカウンターに置くと、無言で次の言葉を待った。

 私は続けてこう話す。

「以前に勤めていた会社に戻ることになって。やり残した仕事があるから。まあ、ひとり抜けてしまったこともあるし――そうでなくても辞める人がいて、おまけにバイトまでいなくなるらしくて。全然、人が足りないんだって」

 私のことをじっと見つめながら、梓はこう問いかけた。

「そうか。しかし、それは――鹿子が大変なんじゃないか?」

 私は苦笑しつつも、頷いた。

「そうね。でも、私は自分ひとりで引き受けるつもりはないし――かといって、誰かひとりに負わせるつもりもないから」

「なら、大丈夫だろう」

 彼女はすぐにそう返した。

 私はあらためてこう尋ねる。

「また、ここに来てもいい? 私はいいお客ではないかもしれないけど」

 私がこの店に持ち込んだのは、災厄の詰まった箱だった。盗聴器の仕込まれた西洋人形に、呪われた指輪の片割れ。店の中を荒らした鷹の根付に、それから――

 とにかく、私はここにトラブルばかり持ち込んで、それでも梓はちゃんとそれに向き合ってくれた。

 私の言葉に、梓は呆れたように肩を竦める。

「何を言っているんだ。いつでも遊びに来い。残念ながら、この店は大抵暇しているからな」

 私は軽く笑ったが、それでも彼女は、いつもの澄ましたような表情だ。

 それを見て、私は大きく息を吐く。

「ありがとう。それじゃあ……」

 名残惜しく思いながらも、私がそう切り出すと、梓はああと軽く応じた。それに頷いてから、私は彼女に背を向け――何度も通い、もはや見慣れた店内に目を向けながら、扉の方へと進んで行く。

 店の奥から、聞こえてくる声。

「またのご来店を」

 店主のそんな言葉を背に、私は店を出る。扉を閉めるとき、澄んだ音を立ててドアベルが鳴った。

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厄災流し 速水涙子 @hayami_ruiko

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