第5話

 宿に、今夜の夕食のオーダーとスキーウェアへの着替えをと申し出ると、部屋に案内された。


 ダウンジャケットの客用だそうだ。

 ゆったり着替えると、久しぶりに雪の上にストックを突いた。

 この奥まったスキー場は、そんなに広いわけではない。

 ボードも許可されたそうだが、今は見当たらない。

 上品で静かな、大人のスキー場だ。

 もっとも、今日はスキー客もまばらだ。


 何度かの足慣らしの後、強くターンした。

 雪が舞い上がる。

 晴れた空に、まき散らされた光たちが、ゆっくりと落ちて、再びゲレンデに戻る。

 僕も光の粒になれたら、彼女のいる星座を探す旅に飛び立てるのだろうか?


 夕食は、フランス料理だ。

 スキー宿の食事としては、僕が知る限り最高級だ。

 平日の食堂は、疎らだ。

 カップルと家族連れの、ふた組。

 そして、ひとり客の僕。

 部屋が空いているのに、納得する。

 しかし、ホテルの人は、何故ダウンジャケットの事を知っているのか?


 美味しい食事だった。

 心の穴までは、埋められなかったが、僕は満足して部屋に戻った。


 

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