第4話

 三角屋根のホテルは、人気のスキー宿。

 ひとり客なんて、このハイシーズンに受けてくれるだろうか?

 連絡をしてみると、あっさり受けてくれた。

 

 スキー人気は、そこまで落ち込んでいるのだろうか?


 職場の有給休暇の許可もあっさり出た。

 普段は、人の権利の行使を渋る上司が、何も言わず届けを受け取った。

 上司の体調を心配したほどだ。


 そこまで順調に進んだ、ダウンジャケットの旅も、さすがに高速道路の雪が、無くなるとまではいかなかった。

 道路の端にふんわり積もった雪。

 中央に近づくと、タイヤに踏み固められている。

 ガブリ、ガブリとスタッドレスタイヤが雪を噛む。

 ゴトゴトとクルマが振動する。

 そして、たどり着いた。

 深夜のひとりぼっちのパーキング。

 ガサゴソ、ガサゴソ。

 毛布とダウンジャケットが擦れ合う音が、冷気と静けさの侵入から僕を守る。


 毛布の感触が、遠い記憶を呼んだのか、彼女の夢を久しぶりにみた。

 彼女の姿。

 それは、幸せの手触りだった。


 しかし…。

 

 突然の入院。

 突然の手術

 間に合わない治療。

 早く退院して、あのスキー場に行くのだと言って僕を困らせた彼女。

 夢には、結末もついてくる。

 星座の旅に出かけた彼女。


 記憶とは、毛布を濡らすものと知る…。

 僕は、滲んだ星空を後にした。


 そのスキー場は、かなり奥まった所にあった。








 

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