第6話 夜明けの君

「ああ……夜が明けて参りますねぇ。結局ネジは全ては見当たらなかったようですが、それでも付き合って下さって有難う御座います。」


……えっ?まだ探すですてぇ?


「冗談でございませう?


そこまで付き合わせたら流石に申し訳がない。

後は明るくなったら直ぐに見つかりますよ。

せめて、今夜出逢った乾杯に、朝日でも拝んで帰りませうか。」


そう僕は微笑み言ったのですが、まだこちら側は暗闇。

彼女の反応はいまいち分からぬのです。


「どうしたのですか?急に黙り込んで。」


僕は彼女にそう聞くと、黙り込んだ理由ではなく、こんな事を聞いてくるのです。


……その喋りは昔からなのですか?


と。

僕は少し考えながら、


「もしかして、落語か江戸っ子か何かでしたか?

だったら奇妙に聞こえたやも知れませんねぇ。

……これはね、昔の職場の同僚の真似です。生粋の江戸っ子でしてねぇ。

「ひ」が「し」になったり、大変なのですよ。

今、書いて欲しいと言われているのが、創作落語でしてねぇ。

友人のよしみで書いてやっていますが、思ったより喋りが独特なものだから、普段から意識しているんですよ。」


僕はこの喋りの成り行きを答える。


……やはり、そうでしたか……。


彼女がそんな風に云ふので、おや……やっぱり詳しい人には敵わないかと、がっかりしながらも、また帰ったら落語でも聴こうと思うのだ。


「嗚呼……綺麗な夜明けだ……。青く美しい。そして空気も澄み渡っている。」


僕は立ち上り、蒼白く染まった空を心地よく迎えた。

下を見れば、真っ赤に輝く朝日は薄く線を引く。


「綺麗ですよ、こちらに来て見ますか?」

と、恐らく後ろにいるであろう、彼女に言った時だった。


……振り向かないでっ!!


後ろから腕ごと強く絞められ、振り向けない。


「もしかして……今更照れていらっしゃるのですか?僕、云いましたでせう?

貴女が口裂け女だろうが、男だろうが気にしないと。」


と、謙遜していらっしゃるのだと、そう言った。


「せめて感謝だけでも……。」

そう言うが、離してくれそうにもないのだ。


……私!まだ貴方のネジ……隠し持っているのですっ!


僕は我が耳を疑いました。

何故あれだけお願いしたのに、この手に戻してくれなかったのだろう?

朝日が昇っていく

無情にも……この一晩の恋は一体なんだったのだろう

きっと僕は何かに騙されていたような

長い夢を見ていたのかも知れない



__男篇終わり__TLUE ENDは女篇___

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僕の頭のネジ、その辺に落ちていませんか?見かけたら届けてくれますか? 黒影紳士@泪澄 黒烏るいすくろう @kurokageshinshi

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