六膳目:七月某日(火)体調不良時のお助けもの


「……ごちそうさま。もう、準備する」




 はぁ……。

 今日の朝食も、ほとんど食べられず。

 はてさて、どうしたものか。




 日々の授業や生徒会活動に加えて、土日の塾や立て続けに行われる模試の数々。

 受験生ならではの忙しさに終われている我が家の寝ぼすけ坊主は、忙殺される日常の中で梅雨のじめじめとした蒸し暑さに体がついていけず、ここ数日、朝の時間はほとんど食べ物を口に運ぶことができなかった。

 給食や夕食は普通の量を食べることが出来ているが、朝はなかなか体が食を受け入れないらしい。

 牛乳やヨーグルト、バナナもテーブルに上げているが、それにも手を伸ばすことはない。

 今日は、お味噌汁を一口、二口くらい喉に通したくらいだった。


 何とか、エネルギーになるものをお腹に入れてほしいところだが、本人からは食べたい物のリクエストが出て来ず、ようやく聞き出せたのは『甘いみかん』くらいだ。

 グレープフルーツのような酸味が強いものは好まないため、糖度高めのものを選ぶ必要があるのだが、この時期にそのような品種は数少ない。

 結局、近所のスーパーで何とか探し出して買ってはみたものの、その『甘いみかん』も半分も食べずに終了してしまったのだった。



 うむむ……。

 どうしたものか。

 何か、何か、本人が好んで食べるものは。

 少しでも食指が動くものはないだろうか。



 あっ。

 そういえば、冷蔵庫に『アレ』があったはず。

 黒く、薄い四角のパリパリとした食感のもの。

 寝ぼすけ坊主が、昔から“おやつ”と称して間食するため、我が家の冷蔵庫には必ず常備している、『アレ』。



 焼き海苔、だ。



 ここ数年はワクチン接種後の副反応以外で熱を出したことはなかったが、そういえば、昔に熱を出した時に好んで食べたがったものは、焼き海苔で作った細巻きだった気がする。



 これであれば、もしかしたら食べてくれるかも。



 焼き海苔の芳ばしい香りに、真っ白な炊きたてご飯を薄く敷く。

 中身に具材は用いず、ふりかけをぱらりとかけるだけのシンプルなもの。

 それを小口切りにして、四つだけ小皿にのせる。

 おかずとお味噌汁も小さめの器にして、あとは牛乳をコップ半分ほど入れたらセット完了だ。


 はたして、今日は食べてくれるだろうか。





「……海苔巻き、だ。だったら食べれるかも」




 ゆっくりゆるりと、いってらっしゃい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る