箸休め(その参):我が家の献立クイズ

「あ~、腹減った。今日の夕飯、何?」

「な~んでしょーか? ヒントは、豚肉とごぼうが見えました。あと、ご飯は炊かないって言ってたから、ご飯ものじゃないと思うな〜。っていうか、答えは毎度の如く聞いてないから、帰ってからじゃないとわかんないけど」

「じゃあ、やっぱ麺じゃね?」

「でも、この具材だと何のメニューになる? パスタ、ではないよねぇ……。やっぱり、豚汁じゃないかな?」

「でも、ご飯は炊かないんだろ? 豚汁だけってことはないと思うし、うーん……。思いつかねーなぁ。その見えた材料のヒント、ホントにあってんの?」



 塾帰りの迎えの車中の会話。

 ここしばらく、我が家の寝ぼすけ坊主との話題は、我が家の献立クイズで盛り上がっている。

 普段は仕事で忙しい連れ合いだが、休日の朝食と夕食は、可能な限り担当してくれている。

 独身時代は料理をほとんどしたことがないと言っていたのに、一緒に住むようになってからは作る面白さに目覚めたのか、積極的に料理作りを担当するようになり、今や多種多様なメニューにチャレンジしてはスマホにパシャリと記録するまでになっていた。


 そんな中で、連れ合いが担当してくれる休日の夜は、時折こうした献立クイズが出されるようになったのだ。

 自分も答えを知らないまま塾の迎えに行くので、正解は帰ってきてからのお楽しみ。

 玄関に入る前の、あの台所からふわりと流れてくる美味しい匂いが献立クイズの正解を導き出してくれるのだ。


 ちなみに、上記の会話をした日は、『肉うどん(ごぼう入り)』が正解だった。

 普段連れ合いが作るメニューの中で、ごぼうを使うことなどほとんどない。

 唯一、ごぼうを使ったメニューが出されたのは豚汁だけだったので、その思考から抜け出せなかったのだ。

 最近はなかなか献立クイズを当てることができず、連敗が続いている。悔しい。


 なお、これまでの寝ぼすけ坊主の的中率はかなり高い。

 上記の会話をした日は当てられなかったが、他の日の的中率は八割を超えているほど、限られたヒントの中でズバッと当ててくるのだ。

 ヒントが『シーフードミックスを使っていた』という情報だけで、『今日の夕飯はちゃんぽんだろ?』と言い当てた我が子の嗅覚は物凄いと思っている。



 さて。

 今日もそろそろ、我が家の寝ぼすけ坊主を迎えに行かねば。

 今日のメニューは何だろう。


 ご飯を炊いておいてほしいとリクエストがあったので、ご飯ものには間違いない。今日は『二つの献立で迷っている』と言っていた。

 塾の迎えに行く前に、ちらりと台所を覗き見る。

 コンロには圧力鍋がシュシュッと甲高い湯気を立て、まな板には玉ねぎの薄皮が置かれている。今から切った玉ねぎをフライパンで焼くようだ。



 ……この時期に圧力鍋? 何だ?


 連れ合いが圧力鍋を出すメニューといえば、ビーフシチューぐらいしか思いつかない。

 だが、これまでの経験上、ビーフシチューはクリスマスなど特別なイベントの時か、よほど安い牛肉のブロック肉が手に入らない限りは作らないはず。

 しかも、肉の塊を柔らかくほぐすためにフォークで何度も刺す下ごしらえ、通称『必殺☆フォーク千回刺し攻撃』も確認できなかった。

 しかし、まな板のそばには何らかの肉のパックが二つほど重ねられている。

 冷蔵庫の隣の収納棚には、最近ハマっている石窯パンとレトルトカレーの余り物が置かれていた。


 牛肉? 豚肉? 鶏肉?

 ご飯を炊いたのに、パン??

 何で、レトルトカレーが???


 

 買ってきた食材を見すぎるとクイズにならないため、覗き見はこれくらいにしておこうと思うが、今見た情報だけでは今日の夕飯の献立はまったく検討もつかない。

 連れ合いは朝から町内の草刈りや車の点検などで忙しかったから、夜のメニューはそれほど凝ったものは作らないはず。


 はてさて。

 今日のメニューは、何なのだろうか。


 

 とりあえず、考えるのはここまで。

 あとは、今見たヒントをもとに、帰りの車中で我が家の献立クイズ王に閃いてもらおう。

 どんなメニューが出てくるのか、お腹をぐるると鳴らしながら。



『ゆっくり、ホッコリ。いただきます』




 




 *正解は、『鶏手羽元のスープカレー』でした☆


(連れ合い談)レトルトカレーの半端な残りを使い切りたかったらしい。石窯パンは、ご飯以外で食べたい場合の保険だったとのこと。

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