Lesson21. 野間は僕と映画に行きたい。
甘井ちゃんがときどき電話をくれて、受験の情報を交換しあったり、京都の大学生活に夢を膨らませたりした。僕と甘井ちゃんが受ける大学は、どっちも京都の左京区というところにある。同棲の話はさすがに出なかったけれど、近くに住めたらいいね、とか、そのぐらいあいまいな将来の話がしあわせだった。
『新立さん、野間っちと映画いくんでしょ?』
あるときの電話でそう尋ねられた。野間と甘井ちゃんは仲が良いわけで、知っていてもなんの不思議もない。というかやましいことがあるわけではないので、隠すのがおかしいぐらいだ。大事な試験の一週間前に遊ぶというのだけ後ろめたく、僕から直接は話していなかったけれど。
「うん、いくよ」
へんに気をつかわせないようさりげない調子を作って言った。
『楽しんできてね』
甘井ちゃんの口調は僕よりよっぽどさりげなく、いやに嬉しそうでもあった。
いつもより長い電話となった。甘井ちゃんが熱心に映画のストーリーを話してくれた。そんなに好きなら野間と行けばよかったのに、と伝えると、甘井ちゃんは、やっぱりあっけらかんと言った。
『野間っちは、新立さんと行きたいんだよ』
彼女が教えてくれたストーリーのどこにもそんな要素はなかったので、よくわからない。いわゆる純愛の映画らしいけれど、僕と野間とはぜんぜんそういうんじゃないので。というのを説明するのはむずかしい、というか、甘井ちゃんも当たり前にわかってるんじゃないのか。そのやりとりを最後に、電話を切った。次の日が映画の予定だったので、さっさと風呂に入り、受験が近くなっていそがしいノルマの三回目をこなし、すっきりしたあと、はやめに寝た。なんかちがう気がして、その日は甘井ちゃんも野間もネタにしなかった。
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