Lesson17. 高橋くんは泣き虫
いまあのときを振り返ってみて分かる。高橋くんがどうしてあのひとを選んだのか、いま分かったように思う。高橋くんはたぶん、お母さんを好きで、お母さんを亡くしたことは彼の人生にそれなりの影を遺していて、間違いなく彼の女性観は影響を受けたはずだった。それで、高橋くんがいろんな女の子と寝ていただとか、そこにお母さんの代わりを求めていただとか、そう考えるのは短絡的すぎるとは思うのだけれど、そんな一面もきっとあったと思う。
あのプレハブの倉庫で少女漫画を読んでいたとき、高橋くんは声もたてず泣いたことがあり、ぎょっとした。「やべ、どっち拭こう」とか取り繕ってたけど、笑えなかった。青年誌で連載されていたらしいそれは少女のすれた性生活を描いたもので、裸のデッサンがいやらしく、僕は単なるエロ漫画として読んでいたから、高橋くんがなにを感じたのか分からない。けれどあの表紙が日焼けした少女漫画は、きっとお母さんの持ち物だったってことは分かってた。
お母さんと少女漫画と女遊びをむすぶエロティックな思慕がいまの高橋くんを形づくったとして、それにはまらなかったのがあのひとではなかったか。けっしてお母さんの代わりにならないのがあのひとだった。そこに高橋くんの言う「誰よりもうまくやってくれるのがあいつだ」という愛する理由が紐付いているように思って、いびつかもしれないけれど、あの泣き虫には幸せになってほしい。
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