秘密基地のコウちゃん

 これは夢の話じゃなくて、本当の話。大人になったかいりさんの話です。


 前のエピソードに登場した佑二くんとサヨナラをしたことをきっかけに、新しい部屋にお引越し。心機一転でございます!


 すごくすごく気に入って、一目惚れをした新築物件!大家さんのご自宅を改装されてつくられたお部屋なので、3階部分に2部屋しか貸し部屋がないというものでした。

 大家さんは第二のお父さんですっていうくらい優しくて、朝遅刻しそうになると車で送るよ!なんて言ってくれる。本当に住み心地もお人柄にも恵まれた環境でした。


 もう少しお部屋のことを話すと、メゾネット式の憧れのお部屋で、2階部分は男性でも普通に立っていられるくらい屋根までの高さがありました。屋根裏部分がそのまま部屋になっている秘密基地みたいな感じで、鉄筋むき出しのちょっと変わった感じのお気に入りのお部屋でした。


 ある日のこと…。


 カサカサっ。ガリガリ。


 変な音が聞こえます。ベッドの脇に備えられているエアコンの方から聞こえてくるのです。まるで壁を爪でひっかくような…。


 しばらくするとエアコンと壁の隙間からひょっこり黒い物体が顔を出します。豚の様な鼻、ネズミみたいな耳。そいつが爪をエアコンの上に乗せ、キョロキョロ部屋を見渡しているのです。


 かいりさんと同じ目線で…。


「えっ?」


 かいりさん…、それ以上言葉がでません。人は恐怖を感じた時、声が出ないモノなのかもしれません。息を飲む。まさにその通りのことが起きました。


 そいつは、よっこらしょ。って感じでエアコンの上に鎮座します。そして何と!1階の方へむかってジャーーーーーンプっ。


「えっ?嘘でしょ?」


 そいつ…壁に激突して階段に落ち、そしてまた頑張って飛ぶ。そしてむき出しの鉄筋に激突して、はりの上に落ちる…。


「これ…こ、こ、コウモリ?」


 かいりさん慌てて1階に下りて、窓を全開にします。自力で出て行って欲しいから。夕方になって電気をつけていたのも消して外へ誘導を試みます。


「ほら、窓はこっち。でってください!」


 かいりさん祈るように見守ります。がしかし…奴はまったくもって窓を認識しません。そしてかいりさん目掛けてダイブしてくる始末。


「ひっ。」


 かいりさん、とうとう部屋の中で傘をさします。こっちくんな!って祈りながら…。


 どのくらい時間がたったでしょうか…。いっこうに部屋を出て行ってくれる気配はありません。


 ヒラヒラ~、ドスンっ。パタン。ガリガリ。


 かいりさん、しびれを切らしご近所の交番に駆け込むことにしました。だって自分では捕まえられないから…。


「すみません…。部屋にコウモリが飛んでいて…助けていただけませんか?」

「えっ?コウモリ?」

「はい。コウモリです。」

「いやぁ~コウモリは害獣じゃないしね。それに、女性の部屋に行くというのも…ゴニョゴニョ。」

「そんなの、私が来てください!ってお願いしてるのに?お願いしますっ。」


 お巡りさん、最初はまったく信じてくれません。で、なんとかお巡りさんを説得して、部屋に来てもらうことに成功。でもね、そのお巡りさん…こん棒を持って部屋にやってきたのです。


「それで…コウモリでていきますかね?」

「やってみましょう。」


 とっても前向きなお巡りさん。さぁこれからがお巡りさんとコウモリの戦いです!


 お巡りさん、ちょっと大きい方だったので小回りが苦手そうです。コウモリの方が数段素早い!あぁ~どうしよう。って思っていたら、奴が逆襲かのようにお巡りさん目掛けて突進!


 キキキキーーーキーっ。


「やった!お巡りさんすごいっ!」


 何と、お巡りさん。素手でコウモリを掴んだのです!すごいっ。すごい!


「これ、どうしますか?」


 満足顔のお巡りさん。かいりさんの方にキーキー泣いているコウモリを見せつけます。


「えっ?どうするって?」

「この部屋のものなので、無断でどうにかできないのですよ。」


 分かります。言ってることはわかるんです。でも、もともと私のモノではないし、飼っているわけでもないのです。しかも奴はとっても苦しそうに鳴いてます。


「こ、殺さないでください。」

「はい。では…?」

「逃がしてください。そこから!」


 かいりさん、必死で訴えます。お巡りさん無事ベランダから奴を逃がしてくれました。サヨナラ。コウモリさん。


「きっと鞄か何かにくっついて部屋に入ってきちゃったんだと思いますよ。部屋に入るときは気を付けてくださいね。」


 まぢか…。コウモリってくっついてくるのか?なんてかいりさん思ってますが、お巡りさんにしっかり感謝をお伝えしてお帰りいただきました。


 それから…毎年初夏になると、カサカサっ。ガリガリ。と壁の向こう側から音がするのです。そして1~2週間後…、同じようにエアコンの後ろから奴は現れます。


 かいりさんも慣れたもので、電気を消して窓を全開し、傘をさして奴が飛び立つのをひたすら待ちます。もうお巡りさんを呼ばなくても自分で解決できるようになりました。


 奴の名前は、コウちゃん。


 新しい部屋に引っ越ししても、しばらくの間はコウちゃんがついてきたのではないかと、ビクビクしていましたが…そんなこともなく今は平和でございます。


 みなさまも夕方、ヒラヒラと飛ぶ蝶の様な鳥のような物体に出会ったら、お気を付けくださいね。お部屋についてきちゃうかもしれませんよ(笑)。



END


※最近、夕方の散歩道でみかけたことをきっかけに、思い出したちょっと昔のでき事です。夢じゃないけど~…。かいりさんのネーミングセンスもグダグダでしょ?笑っていただけましたら幸いです。

※あ、もちろん!引っ越すときには大家さんに、エアコンと壁の間を塞いだ方がいいかもです!ってお伝えさせていただきました!

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