トイレどこですか~?

 長い長い会議が終わり、休憩時間がやってきました。みんなそそくさトイレに行ったり、コーヒーを買いに行ったりタバコを吸いに会議室を脱出します。


「トイレ…どこでしょうね?」

「そうですね。どこでしょうね?」


 会議室にいた知らない男性2名と、知らない女性1名…。会議室から出てキョロキョロ。もちろん私もキョロキョロ。

 初めてのビルの中で場所も分からないので、先ずはトイレの標識を探してみます。


「あそこに矢印がありますね。行ってみましょう。」


 知らない男性がトイレのマークと矢印を見つけてくれたので、私たちはその男性の後をついて行くことになりました。


「矢印、こっちですね。」

「こんな所を通るのですかね…?」


 私を含め4人の大人が一列に並んで矢印に従って歩きます。

 

 矢印は、ビルの中庭(光を取り込むために設けられた人工的な中庭)を通るように指示されています。私たちはその中庭を通り石畳の上を歩きます。


 正面にはガラス張りの会議室。中が丸見えで知らない大人たちが密会しているようです。


「政治家さんたちですかね~?こんなところで密会? っていうか…こんなところ通っていいんですかね?」

「でもトイレの矢印はここを通れって言ってるのだから、いいんじゃないんですか?」


 先頭を歩いている男性が私にそう答えます。ここは素直に従うのが吉。


 中庭を抜けると、先ほどの政治家集団の会議室の入り口に出ます。そこにはいかにも!というガタイのいい黒いスーツを着た男性と、めちゃくちゃ細いひょろっとした男性が扉の前で仁王立ちしています。二人とも室内だというのに黒いサングラスをしています(笑)


「怪しまれませんかね~?」


 小心者の私は、悪い事をしていないのにドキドキしています。見てはいけない物をみたような、そんな気分だったから。呼び止められて尋問されて…なんて怖い事を想像しています。


「お前たち、何をしているんだ?」


 あ~…。やっぱり声をかけられちゃいました。かなり怪しい男に怪しまれる…。なんともシュールです。


「あ、いえ…。私たちトイレを探していて。」

「そうか。ここはトイレではない。」


 どう見たって会議室の入り口にしか見えないので、この黒スーツのおじさんは頭が筋肉でできてるんじゃないか?と…私は思っています。


「知ってます。(きっぱり)」


 ごっつい方の黒スーツが指をさします。そこにはトイレの標識がデカデカと飾られていて、男性・女性二つのマークが並んでいます。これをなぜ見落としていたのかは謎でした。


「あ、ありがとうございます。」


 そのマークのあるところまで行ってみると…。なんとそこはレストランのキッチン。そしてそこでは今まさに料理を作っているところだったのです。


 中国人のコックさんが、ピザを焼いています。


 肝心のトイレは?というと、ピザを作っているテーブルの奥に扉が。扉が見えるというだけで、扉を開けることができないのです。でも一緒にいた男性がその扉を強引に押し開けます。


 すると…、レンガ造りの壁に人が一人通れるかどうかの穴が開いているのがみえました。男性はピザのテーブルを台にしてその穴の中に消えて行きます。そして私と行動を共にしていた女性もその穴に…。


 そのテーブルでは、さきほどのコックさんが何事もなかったかのように、ピザにトッピングをしているのです。


「早く、あなたも行くよろしい。トイレはこの先ね。」

「え、えぇ…。」


 コックさんはカタコトの日本語で私を促します。どう頑張ったって、テーブルに脚を乗せなければ穴に届かない。食べ物を扱うテーブルを台にしていいのか!?と真剣に悩みます。

 

 でも…今トイレにいかなければ、次の休み時間はいつになるかわかりません。私はごめんなさい。と思いつつ穴に身体を滑り込ませます。


 腹ばいで穴を進むと、ビルの外に出ることができました。でも高層ビルのちょっとした足場しかないところで、肝心のトイレはさらに遠く下の方にあります。


「ちょ、ちょっとこれって…。」


 青い空、白い雲。下は海…。

 右手が岩肌がつづいていて、波が押し寄せています。その陸地側に男子トイレが。そして左手の海の沖合あたりの飛び出た岩の上に女子トイレが…。


 どうやってたどり着けばいいのかまったくわかりません。なので、振り向いて部屋の人に声をかけてみます。


「下に降りるにはどうすれば…?」

「左側に足場あるね。そこおりるよろしい。」


 さっきのコックさんが、穴から顔を出し教えてくれます。赤い錆びたような梯子はしごのようなものが下へ下へのびています。


「行くしかないか…。」


 私は何とか海面に降り立ちます。女子トイレには泳いで行かなければならないようなので、意を決して海にもぐりました。泳ぎは得意だからね。


 で、でも…海の流れが速く、陸側に流されていきます。


「なんで?どうして?前にすすまないの?」


 気づくと泳ぐこともできないくらい浅瀬に到着。まいったな~と考えていると…外人の女性が白のビギニ姿で海辺をぱちゃぱちゃ水遊びをしているではありませんか!


「あははははは~♪」


 私は考えます。海・私は濡れている。

 トイレにたどり着かなくても、海という自然のトイレがある!ここでもいいんじゃないか…なんて悪魔が囁きます。


「いや…。この海はすごく奇麗だし…。しれっと用をたすなんてことはできないはず。」


「あははははは~♪」


 先ほどは女性が1名だったのに、今は3名でビーチバレーなんてものを始めています。人の気も知らないで…。


「戻ろ。」


 私は急に冷静になり来た道を戻ります。そして先ほどの穴の前にたどり着きました。どうやらキッチン側の扉が閉まっていて、穴の先が真っ暗です。


「ちょっと~~~。開けてくださーい。戻ります~!」

「何?トイレいかないのか?」


 さっきの中国人コックさんが扉をあけてくれました。もう…こんな不便なところにトイレ作るなんて、このビルの設計者は何を考えているんだーーー!と思いながら穴に頭を突っ込みます。


「あれ? 狭い…。」


 私は頭と左肩を何とか穴に突っ込みます。でもぜったい両肩を穴に突っ込むことはできないくらい穴が小さくなっています。


「ちょっと~コックさーん。ひっぱって~」

「今無理ね。忙しい。」

「いやぁ~~~。穴が、穴が~~~~っ。」


* * *


 そこで目が覚めた かいりさん…。左腕をベッドど枕の間に差し込んで、うつ伏せに寝ていたようです。そして私の身体の上には相方さんの左半分が乗っかってる…。苦しい訳だ。


 そんなことより私は確認しなければならないことがあります。水の中にいて…自然のトイレとまで脳みそが認識していた…と言うことは!?

 と思いましたが…何事もなく無事でございました。良かった…。

 

 本当に良かった(/ω\)。


 飲みすぎ注意と…、寝る前に必ずトイレに行くことを心に誓った かいりさんなのでした。



END


お食事中の方がいらっしゃいましたら…ごめんなさい。


*次回は小学1年生に戻って、恥ずかしい「食神」のお話を。続きはNext storyで☆

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