思い出した私、走る

「あっ!今何時?!」




そういえば、今日は母親から歯医者だから早く帰ってきてって言われていたのを思い出した。もう少し、話したかったけれど、今歯医者三回も延期してもらってる状態だから行かなきゃ怒られてしまう。




「今?四時前だ」



私が時計を見えにくい位置にいるのに、松村君が気付いてくれたのか、時計を見て彼は言う。


ってやばい!!5時半から歯医者!!早く帰らなくちゃ間に合わないねこれ!!


「…何かあるのか?」


慌てている私を見て松村君がくすりと微笑む。



「は、歯医者があるのを忘れてた!!」


「それは急がなくてはいけないな。もう話したい事は無いし、」


「うん、ごめんね!!松村君、バイバイ!」










私はバッグを持っている手と、反対の手を松村君に対して振りながら、教室を出る。



…いやぁ、松村君と関わっていろんな事があったなぁ。私への気持ち悪い視線も減ったし、須月ちゃんとの仲も前より深まった気がするし、藤田が学校を去って、不登校だった子は段々と登校するようになった。冤罪事件が起きた時は、ほんとどうしようと思ったけど、松村君がいてくれてよかった。私がもし冤罪かけられたらあんなに動けないよ。



なんだかんだ松村君の隣に私は一ヶ月間ぐらい居て、彼への認識も全く変わった。

今日話した時、松村君が凄く格好良く見えた。彼の黒髪に触れてみたいとまで思った。




…あー好きなんだなぁ。




_すまだ水族館に行く時、思い、伝えてみようかな。








私は無我夢中で廊下を走った。だから濡れている所があるのに気づかず、そのまま転けてしまった。

ちょっと浮かれすぎた。はず!!誰もみてないよね?!


私は起きあがろうとしたけれど、足を挫いたみたいで、上手く起きあがれない。…誰か、助けを求めよう…。



「イタタ…」




バッグから、スマホを取り出し松村君に“ごめん助けて!ちょっと廊下来てくれない?“と送る。ジクジクと痛む足を抑えながら、2分ぐらい待ってみると後ろから大丈夫?と声をかけられた。



_来てくれたんだ。



私は安心して振り向いた。






〜〜






蜂山ミチカが去った後、俺はせっせと荷物をバッグに詰める。次の月曜はテストがあったな、なんて考えながら教科書を手に取る。




…あの慌てている彼女は可愛かったな。

今まで、沢山の彼女の表情を見てきたが今急に愛おしく感じた。



心なしか、あの時の俺の顔がニヤついていたような気がする。…恋心に気づいてしまえば、人間というのはこんな恥ずかしいセリフも考える事が出来るんだなと感心する。




静かな教室の中だからか、沢山思い出がフラッシュバックしてくる。

蜂山ミチカに初めて出会った時は、利用してやろうと思った。しかし、彼女と過ごしていくうちに、俺の一軍にいる完璧美少女な彼女への嫌な偏見は薄れていった。




先生の時だって、理由を聞かずに察して協力してくれた。藤田の時は、泣くほど心配していた。遊んだ時は、多分、久しぶりに楽しい?と感じた。須月の時だって、彼女は諦めなかった。



悪い思い出もあるだろう。




しかし今は幸福な思い出しか出てこない。



俺は、いつから彼女に惚れ込んでいたのだろう。

バッグに、荷物を詰め終わり一息をつくとブブ、とスマホが振動する。そういえば、ポッケに入れていたんだったと、取り出そうとした。






___カタ、と物音がなる。



不審な物音だな。自然的には絶対起きない音だ。

しかも、大分近くから聞こえるのに教室には何も変化がない。



俺は、スマホを見ようとしていた手を止めて、体の動きも止める。





静寂な教室の中足音が聞こえた。






その音が四回程鳴った後、人の姿がドアの後から出てくる。







「やっほぉ……、松村、君?」





そこに現れたのは、



田中だった。












 

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