謝罪をする須月ちゃんと、デコピン

「だから、だ」


松村君が最後にこそっと、そう言う。

要するに、松村君は昨日背後から藤田の時のように襲われかけたけれど、立場が逆転して委員長を脅した。そして、脅された委員長が、“田中はお前をもう一度入院させたがってる“そう言った。


「…田中ちゃんってさ、私に毒物飲ませたよね。逮捕されるべきじゃない?」


「そうだな。だが、まだ警戒した方がいいな。それに、あいつは人を使って色々してくる。」


「そう、だね……」


田中ちゃんが松村君に被害を与える前に、私が何かしたい。絶対に病院送りになんてさせない。

でも私には大した行動力もなければ、力も無い。…何を、するべきだろう。



「…そういえば、あいつが蜂山さんに食べさせようとしたクッキーあるだろ。前に俺が預かったの覚えてるか?あれ、まだ残ってるんだ。もしかしたら使えるかもしれない。近い日、警察に一緒に行こう」




_一緒に!!これも一緒に行ってくれるんだ。



確かに前、これは預かっておいていいかみたいな事言ってたかも。いやぁ、預かってもらって良かった。ワタシだったらすぐ捨てちゃうかも知れない。



「それに、毒を盛られた後って髪を調べる事で、本当に盛られたのかとか、何が盛られたのかとかわかるらしい。それを頼っても良いかもな。」


「え、そんなのあるの。」


「ああ、最近知った。」



ふーん、最近の技術ってのは便利だね。私の髪の毛で、田中が逮捕されて、松村君を助けることができるなら髪なんかむしり取ってでも渡せるかも。流石に、ハゲは勘弁してほしいけど。


「じゃあ、今日の放課後空いてる?」


「空いている。」


「良かった。じゃあ、5時に公園集合しよ。」


「もう、警察に行くのか」


「何事も早い方がいいでしょ!」


若干びっくりしている顔で、松村君は言う。


確かにちょっと急に自信出てきて言っちゃったけど、もっとまった方が良かったかも知れない。…まあ、いっか。行動する前に潰せっておばあちゃん言ってたし。





____こそこそ話をしていると、一人の友達がぬ、と私たちの前に立つ。





「_須月ちゃん」


「おはよ、ミチカ」







昨日DMで、今日は学校に行くと言って居たから楽しみにしていた。今まで不登校になっていたことと、冤罪をかけたことで、私以外に話かけられる人はいないようだった。もちろん、須月ちゃんは悪い事をしたと思う。私は休んでいたから、どんな事を彼女がしたのか分からないけど。



しょうがない事、と思う反面可哀想だという気持ちもある。…やっぱり田中と委員長は許せない!




「、松村“君“…。


___本当にごめんなぁ、うち、ずっと謝りたくて。罵倒して、脅して晒しもんにして。ほとんどいじめと変わりないことをうちはしたんや。多分、謝って解決できることやないと思う。だから、うちを退学にしてもらってもかまわへんし、警察に通報してもええ。…そして、御免なさい。」




階段で追いかけっこした時と同じ、切羽詰まった顔で須月ちゃんは震えた。俯いて、肩を窄めるようにして。不登校になっていた期間、謝罪の言葉とか考えていたのかなというレベルで須月ちゃんの口からいろんな言葉が早く出てくる。そして、最後にペタ、とお辞儀をした。



須月ちゃんが登校してきたことに驚くクラスメートは、もっとおどろいていた。というか、許すか許さないか、迷っているように見えた。いや、決めるのは君たちじゃ無いからね?!




松村君は、いつもと変わらない真顔で須月ちゃんの謝罪を聞いていた。



「…許すよ。警察にも連絡しないし、退学にするつもりは無い。___ただ、一発殴っても良いか」



殴る、その単語でた時、クラスの皆はひゅ、と息をのむ。ちょっとそれは…なんて呟くやつも居た。

と、止めるべきだろうか…?須月ちゃんは心配だし、松村君はこれからが心配になる。うん、もしすごい勢いで殴りそうになっていたら、止めよう!!私は、すぐ対応できるよう準備をした。



「…!」



須月ちゃんは、目をぎゅと瞑り、覚悟を決めた顔で、松村君のパンチを待っていた。


 




く、くる…!!



__緊張感のすごい静かなクラスで、


ぺち、という音がなる。








「え?」




須月ちゃんは、ポカンと口を開けて目を開けた。多分、私含めて皆“え?“となっていると思う。松村君の中の殴るは、“デコピン“だったことに驚きが隠せない。




松村君は、狐のような指の形をして、軽く弾くように須月ちゃんのおでこに食らわせた。それだけ聞くといたそうではあるけど、須月ちゃんは全く痛がってないようだった。



「も、もっと殴っても足りやんぐらいなんやで?!」


須月ちゃんが慌てる。きっと、殴るのを期待してすごく力んでいたはずだ。それなのに、きたのはデコピンという奇妙な出来事に焦ったようだった。



「俺にそんな趣味はないからな。これぐらいで良い」



松村君はふん、と鼻息を鳴らし机にうつ伏せた。



「そ、そんな」


「……もっとやって欲しいってわけじゃないんだろ?」


「そりゃあ、そうなんやけど…松村君はそれでええんか?」



「ああ」



「…ほんま、優しいなぁ。…うちの話聞いてくれて、ありがとう。」



また、丁寧にお辞儀して須月ちゃんは席に戻った。クラスの人達も、須月ちゃんを見る目が変わったのか、殴られなかったことにひどく安心してた。無事にすんでよ、良かった…!!


「…」



声には出さないけれど、松村君は“うん“と言うかのように頷いた。



____




昼休憩中、私は須月ちゃんと屋上で昼ごはんを食べていた。久しぶりに学校で人とご飯を食べたかも!




「…もっと、こう、色々言われることは覚悟しとったけど」


「やさしかったでしょ?」


「うん、うちはあんな人をいじめてたんかと考えると、申し訳なくてたまらへん。」




須月ちゃんは、箸を止めて言った。



「松村君は、許す人と許さない人の区別を作ってるのかもね。先生とかわかんないけど精神ボコボコにしてたし」



「そ、そうなんか…!」



そうなんだよね。先生は1番最初に脅しとか、されたらしいし。あんなに性格変わっちゃったし。



「松村は強いんやな!……ほんで、ミチカは松村のこと、__好きなんか?」


私が、大きなおにぎりをあーん、と食べかけていた時須月ちゃんはオドオドしながら言った。


「?!」



手の力が抜けてぽろ、とおにぎりが床に落ちる。



「え、え、え、!??!なに?!いきなり??」





ど、どうして急にそんな恋愛の話を?!そしてどうして松村くんのことを聞くの?!?!

私は、理解できなくて、顔が赤くなる。



「いや、ミチカが松村と話してる時、めっちゃたのしそうやったから。あの顔、久しぶりに見たなぁ、と思って」


「あの顔って何!!」



動揺して私は、謎に怒っているかのように聞いてしまう。だって、だって急にそんなこと言われて動揺しないわけがない。そしてどう返したらいいか分かんない!!実は、私自身松村君の事をそう思っているか知らない。松村君みたいなタイプと関わるのは初めてだから。









「____片思いしてる時の顔?」


「な、な、何それ…?!わたしそんな顔してる?!?!」


「うん…幼馴染の目は騙せやんで」



図星か、と言う顔で須月ちゃんはニヤついてくる。

やめてよ!!



というか、私、マジで松村君の事好きだったのかな?!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る