思い出した私、鳥肌が止まらない


「…」


「…」


薄暗く、居心地の悪い空気が流れる。

藤田も、ずっと俯きながらスキャンをしたり、レジを打ったりしていた。もっとコンビニバイト初めの頃は遅かったり、緊張が顔に出たりするもんだと思ってたけど意外に器用なのかスムーズに進んでいる。…なんか頑張ってるんだろうな、って感じがする。


「…な、なぁ蜂山の事虐めてないって、あの時言ってたろ?それってマジなのか…?」


彼はレジを打つ手が止まり、俯いたまま、一筋の汗を垂らしながら言う。

…ん?藤田って、もしや…い、いやまさかね!



「…どういう事だ、お前が虐めてたって流したわけじゃないのか」


「?学校では確かに言いふらしたが…その前に委員長から電話きてよ、グループLINEみろって…それで、」


「それで?」


「そ、それで委員長が、松村の事こ、孤立させて不登校にさせようみたいな事言ってて、俺その話に乗っちまって」



「……」


私達3人しかいないコンビニで会話が始まる。


今までの藤田の威勢は消え、弱く今にも泣きそうな声で話している。ほんとに逮捕されてから何があったんだって思う。あんなに沸点がよく分からない暴力的なやつだったのに。吃りながら話す彼を見つめ、ゆっくりと松村君は頷く。顎に手を置いている事から、何か考えながら聞いているんだろう。_そりゃ、考えるよね、藤田もクラスメートと同じ騙されて信じた側だったんだから。



「その、ごめん…!!松村、許されない事を…俺はしちまった、お前は示談とかやってくれたのに…俺は肩とか骨折させたり、言葉で色々言ったり」


松村君にお釣りを渡しながら、悔しそうに言う。多分、松村君に対して悔しいのではなく、過去の自分に対して悔しいという感情を抱いているのだろう。

ほんとだよ!退学になるぐらいめちゃくちゃやばい事してたからね。



「…肩も治ったようなもんだし、示談金払ってくれるんだろ」


「あ、ああ…!勿論だ!」


「…ならとりあえずは良い。それより、委員長との事についてもっと教えてくれ」



二人とも、許す許さないの話をするのでは無く次の事について話していた。

もう過ぎた事は良いって精神なのかな…、モヤってするけれど松村君がそれで良いなら私は何も言えない。



「良い…か、…分かった、今から休憩とるから待っててくれ」


「ああ」



松村君は桃味のグミをとり、コンビニを出る。

それに合わせて私も、何も買わずにコンビニを出た。だってあんな状態の藤田から、からあげなんて買える訳がない…!!



コンビニ前にある鉄の腰掛けに、二人で並んで座った。ここで藤田を待つつもりなのかな。


_ところで、ずっと気になってた事があったんだった。



「ねぇ、LINEって何?ずっと皆言ってるけどさ」


「…そうか、まだ教えてなかったか」


「うん?」


グミを幸せそうに、頬張る松村君は色々教えてくれた。

“私がLINEで松村君から被害を受けた事を話した事“それを“委員長らが言いふらした事“え、待ってそんなの知らないんだけど!!



「こわ!!新しいグループ作ってやったって事?」


「…いや、それは無いはずだ。俺が見たLINEのやつのは過去の履歴が少しだけ、写っていた」


「…てことは」


「蜂山さん、ロックはパスワード4文字でやってたり、書くやつだったりしないよな」


「4文字デス…」


「…休む前誰かに預けたか?」


「えっ、どうだったかな。あ、そういえばさ…田中に預けた…気がする…」



前田中と遊んでトイレ行く時、私大荷物だったから預けたんだよね。スマホの入ったカバンごと。…つまり、田中ちゃんは私のスマホのロックを特定して解除してLINEで皆に送ったって事?き、気持ちわる!!鳥肌がブワワ、と出た。



「でもでも、私の方にはそんなの送った記録ないよ?ほら」



私は信じたくないあまり、松村君に私の方のグループLINEの画面を見せる。

松村君は、じ、と私を見ていった。


「蜂山さん、LINEには個人でメッセを削除できる機能があるんだ」


「え、え、…や、やだぁぁ…」


その話を聞いた時、すごく不安になった。…確かにあるわ、送信削除とは違う、自分の画面からだけ消せる機能が。はぁ、もー田中許さん!!パスワード18文字ぐらいにしてやるんだから!!



_だんだん鳥肌が消え、怒りの感情が湧いてきた。



「まぁ多分もう触ってくる事はないだろうが…パスワードは変えた方が良いな」


「だね…18文字ぐらいにするよ…」


「それは覚えられないんじゃないか?……あ、蜂山さん、あげるよ」



心の中は怒ってるけれど、体は顔面を手で隠し落ち込んでいるようなポーズを取っているからか、心配してくれたようだった。


「食べていいの?」


私が顔を上げ言うと、松村君は桃のグミの袋をこちらに向けてこく、と頷いた。

…ふーん、優しいところもあるんだね。







「_やっぱ、美味しい、」





グミを一つ取り口に入れると、ふふ、と笑みがこぼれた。

やっぱり好きだなこの味。






「ッ、それは、良かった…」






松村君は自身の口を手で隠していた。






なんだろ、急に口押さえ出して…吐きそうなのかな?

え、そんなに私の顔がキモかった?と不安になる。やばい、なんか急に恥ずかしくて死にたい!!



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