言い訳 side松村

最近、挨拶をした日から隣の女子が良く話かけて来るようになった。

目があったら、手を振ってくるし挨拶は毎日してくる。


_周りの目を気にしてメールで話すのはやめたらしい。


話しかけてくると言っても、田中や須月に何かされたとか、そういう話では無い。ペットの猫が可愛すぎるという話をしたり、俺に関しての質問を聞いてきたりする。

中学以降あまり人と会話する事がなかった俺には懐かしい感覚だった。


蜂山ミチカはどうやら、俺以外の人と話さなくなったらしい。自分の席を離れる事も少なくなった。もちろんそれを不快に思う人物は出てくる訳で。





彼女が「お手洗い行ってこよ」と席を外し、教室から出ると藤田が俺の方にやってくる。



「お前よぉ!調子乗ってんじゃねえの?」



バン!と机を叩き、こちらを睨んでくる。

お前はそのセリフが好きだな。



前までは、無視していると“面白くねーな“と言いながら去っていくのだが今日は中々どいてくれない。それどころか、ペットボトルを勢いよく俺の頭にかけてきた。


…麦茶だ。最悪じゃねーか。



「何するんだよ」



「はッ、お前の汚い菌を洗い流してやってんだよ!この教室がお前で汚されねぇ様に綺麗にしてやったぞ感謝しろよな」



新品だっただろう麦茶の中身を全て俺にかけ終わったのか、藤田はそれをぺしゃりと握り潰す。もし俺に菌があったとしても麦茶なんかで流れないと思うがな。



委員長は「この鼻水が止まらないのは貴方のせいでしたか」と言い、俺の机にティッシュをポイと投げる。汚いな、こっちの方が菌にまみれているだろ。




…しかし、いつもと違うのは藤田だけでは無い。

彼らに周りが乗ってこない。それどころか、二人を非難し始めた。






「ねえ、藤田。やめなよ、正直引くんだけど」


「委員長もさこんないじめみたいな事やめるべきじゃないの?」


「良く考えたんだけど、松村お前らに何もしてないのにこういうのすんのどうかと思う」






おや、どうやら遂に可笑しいと気づき始めた人が出始めてきたようだ。

俺から見れば、お前らも完全な加害者だけど、こういう事をしてくれるのは助かるな。あの四人組が味方を無くし、行動しづらくなるのは好都合だ。




「は?お前らも見ただろ?LINEよぉ」


「見たけど、蜂山さんLINEの事とか何も知らないって言ってたよ」


素早く、一人の女子が反論する。


「それは、言いたく無いんでしょう!ほら虐められてたなんて人に言いづらいですし」






「_じゃあ、それ委員長が晒すの可笑しくないか?」


先ほどから不快そうな、険しい表情で此方を見ていたサッカーが得意そうな男子、静谷から、突っ込まれる。



「あ…、っと、でも!……蜂山さんのためになるかなって思いまして!松村君が学校に来なくなれば彼女も安心して暮らせると」



あっと、なんて言葉に詰まった委員長は、すぐさま言い訳を思いついたのか、ハキハキと喋り出す。


彼の言い訳は俺に学校に来てほしくなかったという事が露骨にわかってしまうという回答だった。






「…なら蜂山さんがあんな楽しそうな顔で松村君と会話する訳なくない?」



静谷の腕に腕を絡ませながら、女が言う。

確かに、周りから見れば奇怪なものだっただろう。虐められたと言っている女子がいじめっ子のやつと話しているなど。



「なぁ、松村お前は本当に蜂山をいじめたのか」


さっきまで委員長を向いていた彼は此方を向きそう言う。

もちろん虐めていないし、話した事も無かった。





「虐めてなんかない」





「ほらな」


「…ッッ」



「__でもよぉ!!脅されて嫌々話してるだけかもしれねーだろ!!」



頭に血管をうかばせながら藤田が怒鳴る。

まだ俺に脅されてる話を使うのか。もう流石に通用しないだろ。


「だから、脅されてたらあんな笑顔でる訳ないでしょ?ミチカちゃんってさ、結構嘘とかつけないタイプなわけ、」



藤田は周りから呆れた目で見られる。

俺と立場が逆転だな、藤田。



「……うぜえんだよ!!!」



反論が何もうかばなかったのか、藤田は俺の方に拳を向けてくる。周りがきゃー!と黄色い声をあげた。_殴られる、というその寸前の所で大きい声で彼女が叫ぶ。



「何してるの?!」




_拳が目の前でぴたりと止まる。




「蜂山」




藤田が振り向き、蜂山ミチカの方を向く。



「今、もしかして殴ろうとしてたの?!…ありえない」



走って彼女は俺の方に近づいて来て、藤田を睨む。

自我を取り戻したのか慌てて、拳を直すがもう遅かった。クラスのほとんどが藤田を非難している。





「これは、…あいつの顔に虫がついてたか__」



「はぁ、また嘘つくつもりなの?」



静谷がそういうと、チャイムがなる。




皆、それぞれ不満そうに席に戻っていく。藤田なんかは今にも机を蹴り出しそうな程イラついていた。



「松村君、ごめんね。私が戻るの遅かったから、ってどうしてそんな濡れてるの?!」


そう言い、彼女は俺に大きめのハンカチを渡してくる。

花柄でHの文字が描かれたハンカチだ。




「使ってもいいのか?麦茶くさくなるぞ、」




「良いよ。私も松村君に何回もハンカチ借りたからそのお返し!風邪とか引いちゃったら大変だし」


「助かる」


俺は彼女から貰ったハンカチで髪や身体を拭く。もう、服とか濡れているのは体操服に後で着替えるしかない。


「え、うぇ…何このティッシュ」


彼女は不快そうに俺の机を見た。


「…委員長の菌付きだ。触れない方が良い」




「えぇ委員長が投げて来たの?」





「…ああ」



「そっか、やだね…後でちりとり持ってきてゴミ箱にいれよ。………」



汚いから俺は一応床の方に捨てさせてもらった。俺の席は1番掃除ロッカーに近いので授業が終われば、彼女のいう通り、ちりとりを使ってゴミ箱に捨てよう。



…ところで、お手洗いにいく前とは比べ物にならないほど、彼女の顔は辛そうで、萎れた花の様に見えるのは俺の気のせいだろうか。







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