信じてくれないクラスメートに、呆れる。

松村君と遊んだ日は眠れなかった。

つまり、寝不足で、昨日は丸一日中寝ていたと思う。


寝過ぎて、体がだるい。



「おはよ〜」


「おはよミチカ!!!あんた松村の隣の席とか嫌やろ?!遠ざけといたで!!」


…よ、余計な事しちゃって…もう!今度こそほんとにバーカって言ってもいい?良いかな?


「そういうの止めて欲しいんだけど。私ほんとに虐められてないし松村君の隣で嫌だった事なんて一度も無いし、虐められたこととかないから!」


この子、須月くるみはフレンドリーで誰でも簡単に信じてしまうような危うい子である。

私もそういう所に惹かれた一人だった。だから彼女が何をしても好きで居ようとした。でもここまで私の言葉を信じてくれないのなら、もう良い。彼女はそんな性格だからきっと自分がしていることは悪な事だと気づいていないんだろうな。私を松村君から守るために、正義のために良い事をしようと奮闘しているんだろう。立場が変われば見方も変わるとはきっとこういう事なんだろうな。



私は確かに松村君から遠ざけられた机と椅子を、ヨイショと持ち運び彼の隣へ戻す。

皆は不安がって、私の様子を無言で見ている。やだなこの空気。…でもさっきので私の言葉を…、いや松村君を信じてくれる人が増えてくれたかな!




「ミチカ…ごめん、うちあんたの為を思って、」



「蜂山ぁ、無理してそこの席座ん無くてもいーんだぞ?」



「そうですよ、貴女は私の隣の方が嬉しいでしょう」



「ミチカちゃん…まさか松村に虐められてるの?」







「…ばーか」







言ってしまえ。

躊躇なく、ある日の冷たい松村君のように。



「?今、なんて言ったんや?」



絶対聞こえたでしょ。こんなシーンとした教室の中で聞こえない訳がないもん。



「さぁ、何て言ったと思う?」


「…ばかってうちらの事?聞き間違い?そ、そんな事言ってないやんな」


「あってる。…くるみ、もう良いよ。私は貴女がなにをしたいのか分かんない。委員長も、このクラスみんなおかしいよ、私は、本当に何もされてないってのに」



なんか言っているうちにに泣きそうになってきた。

別に自分が辛かった事なんてなかったけれど、苦しい。

この数日間まともに人と会話してなかった、誰も私と話をしようとか聞こうとかしてくれなかった。誰にも吐けないし吐いたところで無駄な感情が込み上げてくる。



須木は胸に矢が刺さったような、信じられないと言いたい顔をしていた。

その顔はこっちがしたいぐらいなんだけど。

今だって1対30の図ができてるぐらい。


「ミ、チカ、言えない事とかあるんやろ?…ほらLINEで言ってくれたやん」



「LINE?なんの事」


何故ここでLINEが出てくるか全く分からない。

まず、私貴女とLINEなんか二ヶ月ぐらいしてなくない?




「……どうしちゃったの」




藤田が周囲のクラスメートと珍しくひそひそと話し始めた。

内容が聞こえる。




“ハ、遂におかしくなったか?“


“止めなさいよ.色々あるの“






…私はこんな奴らと友達だったの?




今まで、彼らとどんな気持ちで接してきていたのかこの時すっぽりと抜け落ちるように忘れてしまった。今だけは松村君のような壁が欲しい、誰にも壊せない高く頑丈な壁が。

あー、待ってほんとに涙が出てきた。惨めすぎる。








「_蜂山さん、おはよう」





横から、静かで有り得ない程優しい声で彼から挨拶をされる。

見たことがない柔らかな微笑みを浮かべ、手を振りながら。




「_…、松村君…うん、おはよ」




そう返事するとチャイムがなる。良いタイミングでいつもなってくれてありがとう正直助かるよチャイム。




_私は涙を袖で拭き取り、椅子に座る。

ただ声をかけられただけなのに、少し救われた気がしたのはなんでだろ。




いや、どうして彼は私に声をかけようとしてくれたんだろ。

面倒くさがりの松村君は、そんな事しないタイプかと思っていたけれど。

実は凄く優しかったりするのかな?



「さっきはありがとね」



「おう_」




松村君は頬杖をついて私と真逆の方、つまり窓を眺めていた。

でも、見えてるよ!松村君、ちょっと顔笑ってるでしょ。



ふふ、そういうの可愛すぎてツンツンしたくなるから止めてほしい。





_____







「ミチカちゃんの事心配しに行ったらなんか怒られたんだけど」


トイレの鏡の前で化粧直しをしている三人組の内のが呟く。

彼女らはミチカや松村のクラスメートである。


「え、私思いっきり否定された。笑える」


笑える、と言っても本当には笑えない話だと実は気づいている。



「なんかさぁー最近変わったよね、うちらに対して冷たくなったってゆーか」



「それな」



「知ってる?蜂山さん前松村君とデートしてたらしいよ」



「ガチやったら、やばくね?虐められてるとか嘘説ある?」



「あるかもね」



三人は黙った。

嘘だとすれば、自分たちはただ人をいじめていただけのクズになってしまう。

…これが嘘でないことを祈るばかりである。





___




「蜂山さんいじめられてないらしい」




違うクラスメートの男子がザワザワとし出した。



「俺は元から怪しいと思ってたんだよな」



「それな?松村なんかが蜂山さんを虐めれる訳がない」



「先生なら真実知ってんじゃね?」



理科の先生ことミチカの担任がこのクラスに授業準備しにやってきていた。当然自分に話が投げられ、動揺していたがそれが松村に関する話題だと知ると汗が流れ出した。



「あ、ああ!蜂山が言ってくれたからな。虐められてなどい、いないと!」



「…じゃあ、やばいじゃん。藤田とかの証拠絶対偽もんじゃん!」



揶揄うように一人が良い、周りも賛同する。

今は冗談だと思っている人数が過半数だが、みんな心の何処かで、あの四人組の事を怪しんでいた。



担任は思い出してしまったのか、手が震えていた。








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