呼び出してきた彼女、怖すぎ。

「体調…は、どう?もう、完全に治ったんだよね?」


田中はいつも、もごっと喋るから分かりずらいなとは思っていた。だけど、今日はもっと酷いように見える。


何故だろう、三日の内に私が復活するのがそれほどありえない事だったのだろーか。


「うん、治ったよ。お陰でね」


「そっか…あ、渡すね。これを本当は渡したかったの」


本当は、かぁ。

その言葉が何を意味するのかは分からない、けど明らかに怪しい事は渡したいモノを見なくても分かる。


田中はバックをゴソゴソと探り、一つの可愛く包装された手のひらサイズのモノを出す。茶色の円盤状のお菓子が入っていた。あれは多分、クッキーかな。




以前の私ならウハウハしてこの場を楽しんでいただろう。でも、素直に楽しめないのは仕方が無いことだよね。田中がお菓子をくれた事なんて今まで一度もないんだから。



「ありがとう」


彼女はこっちまで近づいてきて、私の手の上にポトと置く。触れた感じ、クッキーや袋は冷たくてしっかり保冷されていた事が分かる。



冷静に…冷静に…

怖くても顔に出しちゃダメなんだから…!


「すごく、頑張って作ったんだよ…」


「へぇ〜嬉しいな。でもどうして贈ろうとしてくれたの?」


田中はすごくの部分を力みすぎたのか強調して言う。圧をかけるのが上手だよねぇ、本当君は。私は貰ったクッキーをこっそりポケットに入れる。家に帰ったら捨てるつもり。



ポケットの中に入れ終わると今度は、スマホのアプリを起動する。



「いつも…お世話になってるから、ホワイトデーとしてあげたかったの」


どこか幼く感じる発音で、もじもじと体を動かす。


…本当に思ってる?そっか…じゃあ、バレンタインではどうして私にだけくれなかったの?別に絶対欲しいと思ってた訳じゃない、けどずっと仲良いと思ってたから少し寂しかった。

でも、そこまで私は嫉妬深くないし愚直に言ったりしない。


「お返ししてくれたんだね。楽しみだから帰ったら味わって食べるね」


あまりにこの微妙な壁のある空気に耐えられないから、早く帰りたかった。



じゃあね、そう去ろうとした時、






彼女が後ろからガシっ!と私の腕を掴む。

しかも、絶対離さないという意思が感じられる程、その掴む力は強かった。




_ああ!怖過ぎるって!!!




ずっと冷静な顔でいたつもりだけど、今は少し仮面が崩れる。

恐怖というより不快感がすごい。


「今…食べてよ。感想が欲しいの!」


俯き、震えていう彼女は誰がみても恐ろしいと言えるほど。

ヤンデレに付き纏われる人はこんな気持ちなのかな?!?!





「無理かな、今はお腹いっぱいだからさ!」





今食べられる訳がないでしょ!!

もう内心は本当にガクガクで、小鹿レベルで心臓が振動してる。

すると田中は私のポケットから袋を取り出す。いつの間に!!やばい油断した。


「食べさせてあげるね…ぇ?!」


「今はっ本当にいらないから!!」


初めて女の子にここまできもいと思った。

彼女は口を使ってうまくリボンを取り外し、袋を持っている指と違う指でクッキーを持つ。

もう私に一つでも食べさせることができたら、後は必要ないのだろう。クッキーを一枚掴めば、袋を床に落とす。


段々クッキーが私に近づき、口スレスレまで近づいてきた。

正直終わったーーと思ったが、その時掃除ロッカーが勢いよくバタンッと開く。



開けた時の反動で扉がギイイイ…と心地の悪い音を立てて閉まりかけると同時に、中から人が現れる。


そうだ彼がいてくれたんだった。



それに興味を示すよう、田中は後を向く。


「何…???」



「_おい、お前何を食べさせようとした」



松村君は田中の方まで近づき、彼女のクッキーを持っている方の手を掴む。



「ヒッ、松…?!」



田中はクッキーを落とし、私を掴む方の手が緩んだ。

今がチャンスだと思い、彼女の手から抜け出すことができた。田中はビクりと怯えた、そりゃ掃除ロッカーから人が出てくるなんて思わないし自分の勝ち確と思ったでしょうね。


残念。



「う、うわぁ!!!」



そう言って田中は必死で走って逃げていく。



私は抜け出すのに必死だったから、松村君の表情とかみていないけど、多分田中が逃げ出すぐらいだから…ねぇ?



「大丈夫だったか」


「こ、怖かった…!!」


私は力が抜けたようにへな、と地面に座り込む。

大丈夫だけど大丈夫じゃないよ松村君〜〜!!



「そうか…大丈夫そうだな」


「む」


ひでーよ松村君。

今のは−2ぐらいの冷たさ。



「落としていったこれ預かってもいいか、後スマホのボイスメモは送っておいてくれ」


彼はクッキーとその袋を拾っていう。


「いいよ。あ、ボイスメモ収録したまんまだ。」


そう私はもしものことがあった時ように収録しておいたのだ!!

松村君からの助言でね!しっかりもしもの事が起こったので松村君にLINEで送らなきゃいけない。あ、いつ交換したかって?今日私から無理やりに交換しました。



私は収録ボタンを止めて、松村君のLINEに共有する。




「センキュ」




ふー、やっと心臓が落ち着いてきた。


「一個、協力して欲しいことがあるんだが良いか?先生を先に潰したい」



「うん、良いよ〜」


って、先生を潰すの?!?!良いよって流れのまま言っちゃたけど。

なんで…もしや先生まで松村君の事疑ってるとか?



「作戦は今日の夜、LINEで送る」









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