四 BM力場酔い止め飴専門店「日ノ入亭」

 硝子がらすばちしょう児童じどうがエスカレーターで二ばん出口でぐちした瞬間しゅんかん。まだ、しずみかけていない太陽たいようまぶしかった。

 えきビルないはもちろん。駅まえからつづくメインストリートには、いくつもの青銀せいぎんちくかんするアイテムの専門せんもんてんひしめきっている。

 おなみなみばしせん沿えん線の小学校がっこうは、みどりいし小と水色みずいろ石小。この二校の児童も、同じ車両しゃりょうっていた。かれは、五角ごかく市場いちば内の専門店へながれていく。

 わたしたち硝子鉢小は、パツサアジユどおり四丁目ちょうめ夕日ゆうひのステンドグラスがみこまれたとびらかう。


 例年れいねん、すれちがども同士どうしゆずいのこころいている。

 でも、無知むちな子どもが大声おおごえげている。


「ガラ小のお菓子かしだいあいわらず二百おうだって!!!」


 むかし通貨つうか単位たんいが「えん」だったらしいけれど、あたらしいぞく日本にほん国家こっかになってからは「桜」になった。

 ほかの小学校ものきなみ、同じ二百桜。

 それを馬鹿ばかにするのは、「お菓子代は五百桜」のところ。Vブイ小の子だとわかりっている。

ちいさい菓子十えるんじゃ無い?」

 駄菓子を馬鹿にする、深紅しんく制服せいふくおんなの子たちは、顔面がんめん絆創膏ばんそうこうもガーゼもてていない。それにくらべて、あかれんが小学校ぐんのサテライト校せいは、生傷なまきずえない状態じょうたい

喉飴のどあめぶんは?」

「喉飴じゃ無くて、Blureブルー Mercuryマーキュリー力場りきばあめ予算よさんがいだって、いた」

「なるほどね。

 貧乏びんぼうくさっ」

 V小の女子じょしにんいりていものをしようとしていた子たちの買い物かごを、わざとっぱる。

 そんなことをされたら、買い物かごからはなしてしまい、酔い止め飴が入ったかごをゆかとしてしまう。


 黄緑きみどり透明とうめい暖簾のれん飴」コーナー前でも、深紅の制服を着た子が店主てんしゅめている。

 9ナインB《ビー》M《エム》粒子りゅうしってはなまりになっていたわたしも、この酔い止め飴をめていた。一年前までは。

 でも、いま原因げんいん物質ぶっしつの9BM粒子は自宅じたく周辺しゅうへん減少げんしょうして、過敏かびんしょう改善かいぜんされて来た。

 もちろん、赤の王子おうじさまからさずかった赤きのおかげで、自動じどうてき回復かいふくしてしまう身体からだになってしまった。

 あじは喉飴のようでもあるし、鼻までスッキリ。

 鼻のかみすぎでボーッとするあたまも、飴一つでめる。


 ネッサちゃんもみせに入れず、店前でうでんでイライラしている。

 ノアンちゃんはあきらめて、早々そうそうかえろうとしている。

 ほかの子も帰ろうか、あらしるのをつか、なやんでいる。

「何で、わざわざ、V小の子が遠出とおでして、こっちの一般いっぱん市民しみん領域りょういき侵入しんにゅうして来てるのよ~」

下界げかいきたな空気くうきいききでしょ。

 あんな浮世うきよばなれした区域くいき内で生活せいかつしてたら、鼻息まで真っ赤なんじゃない?

 わたし、帰ろうかな」

 鼻水が真っ赤だと、鼻血はなぢになっちゃう。

 鼻息なんて。ノアンちゃん、うまくった。


「どうする?どうする?

 やめとく?」

「キュウはそれでいかもしれないけれど、べつのお店は品揃しなぞろえがね~」

「そうね。ここがマストでベストなのよね。わたし、ネッサと、もうすこし待ってみようかな」


 コツコツコツ。

 真っ赤なピッカピカのくつが店のそとまであるいて来た。

「まあ、セイレーン原典げんてん様。

 そら貴方あなたさまめぐりますように」

 真っ赤な帆立ほたてりんのネッサちゃんに対して、仰々ぎょうぎょうしいお辞儀じぎをしてみせるV小の女子。ネームプレートには、「V小学校だい学年がくねんDディーぐみ山々やまやま 七七なななななな」。

 店前でさわぎをうかがっていた、同じ深紅の制服の集団しゅうだんから、クスクスわらいがこる。

 でも、とうとう店の従業員じゅうぎょういんうごき出した。

「アンタたち、行儀ぎょうぎわるい子だね!

 店から出て行きな!

 店の商品しょうひんさわるんじゃない!」

「「「ちょっと、なんですか?」」」

 おもい当たるふしが無く、「戸惑とまどったきゃく」をえんじている迷惑めいわく行為こういの女子たち三人組が店主に抵抗ていこうする。

「V小には事前じぜん連絡れんらくしたはずだよ。

 V小児童は先週せんしゅう貸切かしきりにしてやっただろ。

 今日は終日しゅうじつ、赤れんが小学校群の子たちの貸切だよ。

 V小に連絡したら、すぐアンタ等の先生せんせいが来てくれる」

 みち巡回じゅんかいしていたV小職員が人だかりにづいて、トラブルを起こしていた児童にけ寄る。

もうわけありません。

 どうも、セイレーン原典にちょっかいを出す計画けいかくてていたようです。

 お店の物、何かこわれていませんか?」

こわす前にい出せてよかったよ。

 こういうことする学校さんは、酔い止め飴をれないよ!」

 従業員と学校の先生が話していても。ナナナナナナという子が騒ぐのをめない。

差別さべつ反対はんたい!」

「そう言ってるけど、アンタ等赤れんが小のともだち、一人でもいるかい?」

「セイレーン原典様よ!」

ってるかい?」

「ほら、野蛮やばんかおつきに!

 ぎたなかんじ!」

 ナナナナナナが、様子を伺っていた赤れんが小学校群の児童の最前さいぜんれつにいたネッサちゃんを指差ゆびさした。

 これには、V小の先生もわたしのかお横目よこめつつ、あたまかかえた。あっ、先生はわたしのこと、知ってるんだ。まあ、守破離しゅはりちゃんのかよっている学校の先生だもんね。もう一人の原典の情報じょうほう把握はあくしてても、不思議では無い。

残念ざんねんね。ウチはセイレーン原典じゃ無いわよ。

 お友だちなのに、顔も知らないの?

 うーそーつーきー、じーごーくーへーおーちーろー」

 程度ていどひく相手あいてをとことん、いじくる。

 意地悪いじわるでも、いやがらせでも無いだろうけれど。そんな「文句もんく」は買われちゃうだろうに。


自分じぶんたちが真っさきに差別したいから、ほかの差別が気に入らないのかい。

 馬鹿だね。

 こうやって、いざこざを起すような人間様がおおいV小は。

 ムーンライト原典はどうしたんだい?V小の子だろうが。

 ムーンライト原典をイジメられないからって、イジメるターゲットをみつくろうたびか。ご苦労くろうさま」

 そこへ、従業員さんはひと呼吸こきゅうおいて、ニヤリとしてみせた。


「あいにく、引きわたす児童はいない。

 治安ちあん維持いじきょく通報つうほうしたよ」


 店主がV小の先生にそうげた。

「来たな。

 おーい、これが防犯ぼうはんカメラの映像えいぞうだ。

 治安問題もんだい行動こうどうきこまれて、迷惑してるんだ。

 とっとと、解散かいさんうながしてくれ」

 治安維持局がパツサアジユ通り四丁目の東西とうざいから、二部隊ぶたいずつはしってやって来る。

 治安維持部隊四隊とも、鎮圧ちんあつじゅうを持って武装ぶそうしている。たしか、オーガニックな激辛げきから催涙さいるいだん発射はっしゃ出来るはず。子どもに向かって発射した場合、失明しつめいやショックせい発作ほっさを起こす可能性かのうせいたかい。

 でも、使つかうだろうな。

 ネッサちゃんとノアンちゃんとわたしたちは、日の入亭従業員さんにき着いて、店のなかかくまってもらう。


「治安維持局に小学生が拘束こうそくされるの、はじめて見た。店長てんちょうも、V小の子のおやこわくないのかね」

 あんなに怒鳴どなっていた従業員さんも、不安ふあんがっている。

 次々V小の制服を着た子だけ拘束こうそくされていくのをながめて、ちょっと仕返しかえしにはやり過ぎていると思ったんだろう。

「アイツ等のブレザーのポケットに、あおこなのボトル入ってた。

 店内でまきらそうとしてたー」

 ……店内で、試食ししょくようの酔い止め飴をコロコロくちの中でころがしている、余裕よゆうなタンサくんがボトルのおおきさを両手りょうて再現さいげんする。ブレザーにかくせる程度には、小さかった。

 でも、そんな粉をまかれたら、9BM粒子の散布さんぷだと勘違かんちがいして、店の中がメチャクチャになる。

 もちろん、一つだけのせま出入でいり口に人流じんりゅう集中しゅうちゅうして、将棋しょうぎだおしになるのは容易ようい想像そうぞうがつく。

 下手したら、圧死あっし事故じこが起きていたかもしれない。


 ノアンはタンサ君のちょっとオーバーな推測すいそく納得なっとくがいかないみたい。

 そうだよね。V小はそこまで、馬鹿じゃない。

「そこまでする?」

八年木はちねんぎさん。そこまでする理由りゆうがあるとかんがえられるよ」とじゅく途中とちゅうよそおったごう君が飄々ひょうひょうと店内に入って来た。

「エウロパの中でも、より安全あんぜんでサクサク竹をれるポイントがあることは知ってるよね?

 V小の教師きょうし事前じぜんに、担当たんとう児童にたいして、しつこく指導しどうする。

 例年、地形ちけいみをはずして迷子まいごになる、勉強べんきょうしか出来ない運動うんどう音痴おんち方向ほうこう音痴がいるから。

 でなければ、硝子鉢小をたたくなんて、意味いみ

 こちらの陣営じんえいをビビらせて、先陣せんじんって、場所ばしょりにはげみたい。

 とくに、こんねん竹狩たけかり遠足えんそくでは、V小在籍ざいせきのムーンライト原典対硝子鉢小在籍のセイレーン原典の一騎いっきちを組んでいる。

 デスマッチ宣言せんげんをされた」

「……デスマッチ?」

 そんなデスマッチ宣言なんて。過去かこ一年間をおもかえしても、思い当たらない。

死闘しとうにはならない。

 あくまでも、表向おもてむきの口上こうじょう

 実際じっさいは、多勢たぜ対多勢。

 スタミナが無いV小児童がつには、場外じょうがいせん効果こうかてき

 五郷君は店外を指差ゆびさす。


 バンッ!!!


 一発、催涙弾がはなたれた。

 うめく、深紅の制服の子どもたち。

「まあ、ゴーゴーの言うとおりなのはわかったよ。

 あの唐辛子とうがらしパウダーにやられちゃった子たちは竹狩遠足の参加さんか絶望ぜつぼう的。

 明日あしたは例年通り。

 足のはやい男子だんしたちは大人おとなしい運動音痴なんて、ばしてでも全速ぜんそく前進ぜんしんだもんね~」

 ネッサちゃんも従業員さんにすすめられた飴を舐め始める。

「僕はゴーゴーでは無く、五郷。

 まあ、最低さいていでも。明後日あさって午後ごごまでは、治安維持局の成年せいねん緊急きんきゅう監護かんごしょ留置りゅうちだろうね」

「リューチ?」

 五郷君の言葉についていけなくなったタンサ君がくびをかしげている。

かれるってこと」

「トメオカレル?」

「……」

 五郷君はタンサ君に説明せつめいするのを諦めた。口に試食の飴をしこんで、だまってしまった。

「えーっとね。

 こわ~いおじさんに、子ども用のおりじこめらるか。あるいは、もっと怖~いおねえさんがやって来て、まどの無い部屋へやに押しこむ。

 トイレも食事しょくじも、るのも。全部ぜんぶその場所ばしょってことじゃない?」

 ノアンちゃんがわりに説明してあげてた。

「マジ?

 でも、VIRGOヴィルゴ職員しょくいんの子どもだろ?親が迎えに来るんじゃない?」

おく世界せかい政府せいふがやってる、続世界秘密ひみつ機関きかんVIRGO。

 続日本にほんこくの治安維持局。

 竹取たけとり週間しゅうかんに起こった子どもの非行ひこう問題は、治安維持局がVIRGOに遠慮えんりょしたせい。

 今後こんごは、VIRGOにむ子の非行は野放のばなしにはされない。

 ったく。

 アンタ等、を離したら、こういうことになるんだからー!!!!」

 ダン、ダン、ダン、ダン。

 かえで先生が店の中に入って来て、タンサ君の前で地団太じだんだむ。

 でも、先生の目は催涙弾の影響えいきょうけていない。

「催涙弾が発射されたけど、すぐに吸引きゅういん装置そうちで、余分よぶん爆散ばくさんした催涙成分せいぶんっちゃったみたい」

 外で仁王におうちしていた店主がステンドグラスの扉をなおす。

営業えいぎょう再開さいかいします!どうぞ!

 いらっしゃいませ!」


 楓先生は店内をブラブラしているわたしを引き止めた。

窓塚まどづかさん」

「はい、楓先生」

「あれもこれも、VIRGOでくらしてるムーンライト原典様が権威けんいうしないつつあるから。それはわかっているわよね?

 下町したまちのセイレーン原典様の一極いっきょく集中になることも」

「……」

 わたしは先生から目をらして、大好だいすきなあじをやっと見つける。

 ううん。

 いつも、この場所ばしょ陳列ちんれつされている。

 去年きょねんも、一昨年おととしも、この場所だった。

 店のおく

 水色にキラキラひかる飴が三十粒も入ったふくろ




とう先輩せんぱいきだった味、よね?」




 嗚呼ああ

 さすがわたしの先生。

 一か月も一緒いっしょ勉強べんきょうしていただけなのに。

 もう、わたしがわたしである情報じょうほうを、にぎっている。

 わたしはいつものように、こういうこまった大人には何も返答へんとうしないように心がけている。

 彼等はわたしにどうにかしてしい訳では無いもの。

 店の中は、あまったるいにおいはしない。カチカチに乾燥かんそうして、びなくなった飴が一個包装ほうそうになって、袋めされて、山積やまづみにされて。

 それで、それで。

 売れのこっている。

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