【一章】 続世界群秘密機関VIRGO

一 トーラス偽典量産終了

 ぞく世界せかいぐん秘密ひみつ機関きかんVIRGOヴィルゴ

 明日あすから一斉いっせいおこなわれる続国立こくりつ学校がっこう行事ぎょうじ竹取たけとり週間しゅうかん」の監視かんし活動かつどう大忙おおいそがし。

 続国立教育きょういく機関のうち、高等こうとう教育機関をのぞく、しょ等・ちゅう等教育機関がはん強制きょうせい参加さんか対象たいしょう

 続国立高等学校では、「はらさい」。

 続国立中学校では、「竹林ちくりん強歩きょうほ大会たいかい」。

 続国立しょう学校では、「竹狩たけかり遠足えんそく」。

 どもたちがなない程度ていど青銀せいぎんちくい、「世界せかい市民しみん義務ぎむ」を自覚じかくするために例年れいねんおこなわれる。

 過剰かじょう責任せきにんかんじてしまう子もいれば、この竹取週間にぎて、青銀竹をあまわるガキもいる。

 わたしなんかも、悪ガキだった。大人おとなになったいまではその「悪ガキ思考しこう」のツケを払わされている。

 つよくもいのに英雄えいゆう主義しゅぎにどんどん傾倒けいとうしてしまって、大人になった。だから、あやしげな続世界群秘密機関VIRGOだい六課ろっか情報じょうほう統制とうせい課)で十八日連勤れんきん中で、いえかえらずに仮眠かみんしつ夜勤やきん奴等やつら気配けはいびながらるしか無い。


 ダダダダダダダダ。

 足音あしおとててあるくというより、はしって来る音。なにかあったのは確実かくじつだけれど、がる余力よりょく無し。

 部下ぶか藤佐とうさ 心眼しんがんひろむくんあわてて、仮眠室にびこんで来た。

「トーラスてん量産りょうさん終了しゅうりょうです!」

「……あー……ううん、ちがう、違う、おやすみー」

瞳宮とうみやさん、寝ぼけてないで起きてください!

 五分に、緊急きんきゅう会議かいぎです!」


 わたし、瞳宮とうみや 研磨けんま大也だいやが続国立中学二年生のころ

 つまりは、もう十年まえはなし

 帆立ほたてりんなんて、続世界機密きみつ情報おおりの人類じんるい最終さいしゅう戦争せんそう兵器へいきだった。続世界政府せいふえらんだ英雄しかつことがゆるされなかったのに。

 今では、続世界市民の特区とっく居住きょじゅうしゃあたまうえには帆立輪がかせない。市民には、たい青銀竹自動じどう駆除くじょ兵器の武装ぶそう義務ぎむせられている。

 まさか、こんなに長引ながびく最終戦争だとはだれ想定そうていしていなかった。

 それは、十六年前に発見はっけんされたとされる「あか」とその保有ほゆう者たちを見誤みあやまったから。


 正体しょうたい不明ふめいの「あか王子おうじ名乗なのる何かが青銀竹を一掃いっそう出来る特別とくべつな武器「赤き」を人類じんるいえらばれた子どもたち三名にさずけた。

 英雄たちは赤の王子のうとおりに、青銀竹を駆除しつづけた。

 大人おとなたちは、エアリーズ・トーラス・ジェミニの三名の頭にった「赤き輪」をあずかり、研究けんきゅうした。

 表向おもてむきには、もっとも、可能性かのうせいあふれていたトーラスをげん典として永久えいきゅう保管ほかんすることを決定けってい

 実際じっさいは、量産りょうさん研究中にエアリーズ原典とジェミニ原典は修復しゅうふく不可能ふかのうなほど損壊そんかいした。

 唯一ゆいいつ量産のための原版げんばんづくりに成功せいこうしたトーラス原典も、研究と実験じっけんすでにボロボロだったらしい。

 原版のコピーが上手うまくいかなかった成果せいか尻拭しりぬぐいは量産がたの帆立輪を載せている続世界市民にしつけられている。

 続世界群の機密情報にれるようになって、原版すらコピーだとったときは、そりゃあ劣化れっかするじゃんと、わたしも項垂うなだれた。


 青銀竹問題もんだい長期ちょうきには、もう一つ原因げんいんがある。青銀竹の侵略しんりゃくスピードがメチャクチャはやかったからだ。

 少数しょうすう精鋭せいえいの英雄たちでは、あっというに、ぜん世界にひろまった、この「悪夢あくむ」を駆除しくすことが出来なかった。

 戦争という言葉ことばも、戦闘せんとうという言葉も不適切ふてきせつになりつつある。

 国籍こくせき不明、正体しょうたい不明のてきは。

 人でも宇宙人うちゅうじんでも、世界人でも無い。

 侵略しんりゃくせいがある植物しょくぶつだった。

 我々われわれ続世界群は、市民にたいして、あくまでも「駆除活動かつどう」だと広報こうほう活動をおこなっている。


 だからこそ、藤佐君がもたらしただい一報いっぽうを、すぐにしんじることが出来なかった。

 トーラス偽典量産終了ということは、トーラス偽典の利用りよう価値かちいちじるしく低下ていかしたか皆無かいむになったかのどちらか。

 それはつまり、あらたな原典、赤き輪の戴冠たいかん意味いみする。

 十六年ぶりに、「赤の王子」が我々人類の前に姿すがたあらわすなんて、ありえない。

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