三 赤の王子様

 青銀せいぎんちくきずついたひとを助けたり、建物たてもの道路どうろはしを直してくれたりする十五じゅうごきょく。その人たちが六人全員ぜんいん、わたしにろうとする家族かぞくれて、わたしの部屋へやからってしまう。

 みるみるうちに、朝日あさひびた青銀竹があおくギラギラかがやいて天上てんじょうそらうつし出す。

 最上階さいじょうかいの天井のうえにあるはずの、屋根やね。それがもう、青銀竹がやぶってしまった。

 串刺くしざ状態じょうたいのわたしは六階の部屋へやのベッドの上から、どこまでもびていく青銀竹とともに天上へとれていかれる。


 あかひかりが三つあった。

 どれも人がなかれないほどちいさな、無人むじん飛行体ひこうたい。でも、BMビーエム力場りきばないべるのは十五夜局のドローンだけのはず。くに組織そしきのロゴも見当みあたらない。

 途端とたんに。

 そと空気くうきにおいをかんじた。

 それと共に、血生臭ちなまぐささにおそわれる。

 そして、手足てあしがブルブルふるえだす。まだ、きていたいと、さけわり。防衛ぼうえい本能ほんのう


 素早すばや点滅てんめつしている、くちいドローン一体からこちらにかってはなしかけてくるこえこえはじめる。

 <はじめまして、にそうなきみ

 君は君自身じしんがいつの時代じだいでも、どこの国でも、だれかのどもでもおなじような存在そんざいだとおもって生きて来ただろう。

 生きのこることはしあわせでも幸せでも無い。

 そのたりまえ日常にちじょう獲得かくとくしたれの中の一体だ。

 ここで、白馬はくばった王子おうじさますくわなくちゃ、君は当たり前のように死んでいく>

 おしゃべりドローンをかばうように飛んでいった二体は、伸びに伸びる青銀竹に衝突しょうとつして爆発ばくはつした。

 ポツンと残るドローンは話しかけながら、わたしからどんどんはなれていこうとする。

 <おわかれの時間じかんだ。

 たすけをもとめるおんなの子がおひめ様になれるのに、君は助けを求めなかった。

 王子様にえらばれるだけの存在でなければならない、なんてまよったんだろうね。

 君は王子様に救われる人生じんせいを選ぶことが出来なかった。

 君は助けを叫ばなかった。

 どうかやすらかにねむってくれ>


「……おしゃべりドローン」


 わたしはめるわけでもなく、わらっていた。

 まさか、最期さいごに人と話すのでは無くて、ドローンとしゃべるなんて思わなかった。

 <馬鹿ばかにするな!

 ぼくあかの王子の使者ししゃなんだぞ。

 君は王子様と共に生きくことが出来きない。

 存在価値かちの無い舞台ぶたい背景はいけいは舞台からきずりろす。

 ……王子、勝手かってなことをしないで!

 赤きは使者がさずけるんだから!

 この女の子は馬鹿で、使つかえない!>

 おしゃべりドローンがわたしの悪口わるくちを言い始めた。でも、わたしに向かってではないらしい。

 べつの誰かに向かって、おしゃべりドローンが話しかけている。


 あまったるくも無い。

 柑橘系かんきつけいでも無い。

 おとうさんの整髪料せいはつりょうでも無い。

 でも、くささともちがう。

 不思議ふしぎにおいがただよって来る。

「君は救済きゅうさいの幸せと、のろいの不幸せを背負せおって、生きる。

 これは儀式ぎしき

 赤き輪の戴冠たいかんしきだ。

 君がかぶかんむりにはひかりあつまり、かげがつきまとう」


 いろとりどりの赤。

 モザイクのような、タイルのような、不思議な幾何学きかがく模様もよう連続れんぞくする仮面かめん

 そこにははな、口のためのあなは無い。幾何学模様がかさなりっていて、その隙間すきまからしろいきれる。

 赤いころもをまとった人間のくつも赤。

 その足元あしもとにはなにも無い。

 この人、空中くうちゅういている。もちろん、身体からだのどこも、わたしのように、青銀竹につらぬかれていない。


つづ世界せかいの始まりに生きる人類じんるい

 我等われらでたし姫君プリンセス栄光えいこうあれ。

 ぞく世界、万歳ばんざい

 続世界、万歳」


 赤の王子様によって、赤い輪があたまの上にせられた。

 その瞬間しゅんかん、おなかさっていた六本の青銀竹は消滅しょうめつした。

 地上の空のささええを一気いっきうしった瀕死ひんし状態のわたしは地上へとちて行った。

 いえの六・五・四・三階は竹をったように、たてっ二つにけている。

 二階はいくつものブロックにかれている。とにかく伸びていた六本以外の青銀竹もあった空間くうかんだけはなんとなくわかる。

 藤佐とうささんの家からさらに、我が家まで青銀竹の群生地ぐんせいちひろがって来ている。

 だからだろう。

 けの一階には、ザワザワとかぜも無いのに揺れているたくさんの

 みどり色の葉っぱが一枚も無い、まるで青いうみのような笹藪ささやぶもれた。

 お父さんとおかあさんと、おにいちゃんと、わたしがんでいた家は元通もとどおりにはならないまま、くずれかかっている。いきおいがよわまっていない青銀竹はまた伸び始めるはずだ。

 わたしはいつのにかふさがったお腹まわりをさすりながら、笹藪の中からち上がった。

 あたりを見回みまわしたけれど、笹藪以外何も無かった。

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