二 課長級緊急会議

 ぞく世界せかいれき三一ねんがつにち午前ごぜんぷん

 藤佐とうさくんとわたしはだいよう仮眠かみんしつから会議かいぎ室へといそぐ。

 さきはわかるけれど、五分でなんてとてもじゃ無いけれど、移動いどう出来できない。


 VIRGOヴィルゴは、なガラスりの円形えんけいビルディング。とにかく巨大きょだい

 真上まうえから見下みおろせば、ドーナッツがただろうけれど。

 地下ちかかいから地上ちじょう六十階のたかさ。中庭なかにわない区画くかくがい区画の二そうあつみがある。巨大きょだいなバームクーヘンにも見えなくはない。ただし、真っ赤ぎるまどガラスは、食欲しょくよく減退げんたいさせるような、いろにも見え過ぎてしまう。

 中庭には、十階ごとに、連絡れんらく通路つうろもうけられている。便利べんりそうだけれど、運動うんどうになる。

「赤の王子おうじ」を感知かんちしたのなら、もっと大騒おおさわぎしてもよいはずだけれど、ビル内はしずまりかえっている。

 すれちがうVIRGO職員しょくいんは、くろ制服せいふくか、はい色の制服のどちらかを着用している。附属ふぞく研究けんきゅうじょ職員以外いがいみんな、黒の制服を着用ちゃくようしている。

 だれとも挨拶あいさつ雑談ざつだんわさない、おかしな緊張感きんちょうかん

 平和へいわボケしていた、直近ちょっきんの一年間。わたしはVIRGOのビルと職員用住宅じゅうたくのあるVIRGO敷地しきち内しか出歩であるいていない。VIRGOの商業しょうぎょう区画では、なんでもはいりやすい。わざわざ、一般いっぱん市民しみんらす区へ必要ひつようかった。

 職員には、おやがいる。職員用住宅にむ以外は、VIRGO敷地外のり上げ住宅に住んでいる。

 自分じぶんの子の安否あんぴ確認かくにんませているんだろう。でも、いまは午前五時過ぎ。子どもの多くは、ゆめなか

 もしかしたら、自分の子どもが「赤の」をさずかったかもしれない。そんな期待きたい不安ふあんかかえているのかもしれない。

 でも、だからといって、夜勤やきん終了しゅうりょうまでは自由じゆううごけない。はたらくしからすことは出来ない。

 結婚けっこんもせず、子どももいないわたしにはその感情かんじょうらぎはさっすることは出来ても、共感きょうかんすることは出来ない。


 五十一階内区画のだい会議室。

「第六課、瞳宮とうみや 研磨けんま大也だいやです」

 ドアがひらかれて、となりにいた藤佐君がキョロキョロして、円卓えんたくしているメンツのかお瞬時しゅんじ把握はあくする。

参謀さんぼうの第一課。

 都市とし防衛ぼうえいの第二課。

 戦略せんりゃく行動こうどうの第三課。

 内務ないむ・外務の総合的そうごうてき何でもさんポジションの第四課。

 後方こうほう支援しえんの第五課。

 情報じょうほう統制とうせいの第六課。

 通信つうしんの第七課。

 附属研究所の職員まで、そろってますね」

 円卓には、藤佐君のうとおり、各課かくか代表者だいひょうしゃ課長かちょうがそろっている。円卓とはべつ長机ながづくえには、灰ずくめの制服の研究職員が四名ならんでいる。研究職員はあくまでも、アドバイザーとして下位かい配置はいちしている。

 それにしても、アルファ研。ベータ研。ガンマ研。エプシロン研。彼等かれら鬼気ききせまる顔をしている。


 入室にゅうしつするでいた藤佐君をさえぎるのは、第四課の苦瀬くぜ君。

「藤佐、御前おまえ食堂しょくどうめしでもってろよ」

「苦瀬さん。おれ平気へいきです」

「御前は瞳宮にあまえて、『しん原典げんてん』をなまで見たいだけだろ。会議の邪魔じゃまだ。

 俺が御前にたのんだのは『瞳宮をたたこして、会議室にれて来い』だけだ」

 各課長がわたしたちではなく、わたしを見つめている。

 苦瀬君はわたしに目配めくばせをして、会議室のドアを外側そとがわからじてしまった。

 一人きりでドアをったままだったわたしは指示しじつ。出来れば、着席ちゃくせきせずに第六課の白家しろや パンチョ課長のうしろにひかえていたい。

 けれども、円卓の席から立ち上がった一人はパンチョ課長では無かった。

「瞳宮さん、いている席にすわってちょうだい」とまとめやくの第四課の原福はらふく 未来みらい彼方かなた課長は、わたしに、もっとも座りづらい席に座るよう指示を出す。

 第七課と第一課のあいだ空席くうせき

 目のまえのプレートには、「第八課」とある。

「新しい第八課を設けるんですか?」

「新たな原典の可能性かのうせいがある、赤き輪を昨夜さくや発見はっけんした。

 瞳宮さん、座りなさい」

 緊張きんちょうしつつ、さからえない雰囲気ふんいき見守みまもられながら、着席ちゃくせきする。

 円卓の中心部ちゅうしんぶの上には天井てんじょうからるされた画面がめん

 すぐに会議室内の照明しょうめいとされ、VIRGOの望遠ぼうえん監視かんしドローンが撮影さつえいしていた動画どうがながされる。

 青銀せいぎんちくにおなかつらぬかれた少女しょうじょあたまには、あるはずの帆立ほたてりんが無かった。キラキラと赤いかがやきが画面下へ落ちて行っている。このひかり全損ぜんそんした帆立輪の破片はへんなのだろう。

 そして、赤い光が人型ひとがたのようなかたちをして、少女の頭にれる。

 すると、少女の頭に真っ赤な光り輝く輪があらわれた。

 わたしは今、「赤の王子おうじ」によるプリンセスの戴冠式たいかんしきを見ている。そして、何度なんども、何度も、その戴冠場面がかえながされる。

 加減かげんなところで、原福第四課課長がげて、会議室の照明をつけるようサインを出す。

「第八課は、ナビーゲーターとして、赤き輪を授かった子どもをみちび案内あんないやく

 戴冠の儀式はわり、赤の王子は消失しょうしつ

 プリンセスは現在、VIRGOに搬送はんそうされて、精密せいみつ検査けんさけているから。いそがなくても良いの。

 瞳宮さんの朝食ちょうしょく時間じかんくらいは確保かくほしているわよ」

 はやめの朝食をって、保護ほごされたプリンセスと接触せっしょくしなければならない。

「第八課以外のほかの課は一日延期えんきされた竹取たけとり週間しゅうかんそなえましょうね」

 原福第四課課長は簡単かんたん説明せつめい以外はしないつもりで、あっというに課長級の会議をえてしまった。

「苦瀬を貴方あなたの部下につけるわ。彼を上手うまあつかいなさいね」と、第四課の課長に苦瀬君という「り」をつくってしまった。

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