第29話:エピローグ:僕のラノベ研究会は全てがある!

 あの出版社のあいさつの後、僕の2冊目の出版が決まった。「愛衣」のハチャメチャな挨拶も、パフォーマンスも編集部の人には受け入れられたらしい。心が広すぎるだろ、編集部。


 冷静になって気づいたことがある。


 なぜ、マイナーな僕のkindle本が出版社の目に留まったのか⁉ 僕は営業なんてしていない。


 その答えは、ある日の部活の中で判明した。


「九十九くん、編集の担当者の人と会ったんでしょう? どうだった?」


 なにげない時に西村綾香先生が僕に訊ねた。


「うーん、初めて出版社の人と会ったから緊張しました。会った時とか天神の喫茶店に……ん? そう言えば、なんで東京の出版社の人が福岡に出張?」


 自分で言って、気付いた。変だな……。福岡にも出版社がない訳じゃない。でも、猫猫出版は東京の出版社で、福岡に支店や支社はないのだ。


「んー…それはねぇ……」


 なぜここで、西村綾香先生が顔を赤らめる?


「それは、出版社の大和さんが西村先生の旦那さんだからだ」


 姉嵜先輩が銀髪ポニーテールで言った。突然出て来たことはもう誰もツッコまない。


それどころか、以前のステレオタイプの生徒会長キャラも少しだけイメチェンしたことについても誰も何も言わない。学校では、「愛衣」の様な天真爛漫キャラと「生徒会長キャラ」の様な真面目一辺倒キャラの中間のキャラを作っていた。周囲に与える影響を最小限にして、徐々に慣らしていく作戦かもしれない。


 それよりも、西村先生の旦那さん……旦那さん⁉


「驚いたみたいだな、九十九くん。そして、その大和さんは私の兄だ」


「へー、大和さんは姉嵜先輩のお兄さん……ええっ!?」


「うーん、みごとなノリツッコミだな」


「だって、名前が違うじゃないですか!」


「ん? 名刺はもらったんだよな? 兄の名前は姉嵜あねさき大和やまとだ」


「え⁉」


 僕は、大和さんからもらった名刺を財布に入れていた。これまで名刺をもらったことがなかったので、どこでどう保管していいのか分からず、編集長などの名刺と共に財布に入れていた。


 慌ててカバンから財布を取り出し、確認してみる。



『姉嵜大和』



 ほ、ホントだ。


「『姉嵜』という名字がどこか女性を連想させるので、兄はこの苗字があまり好きじゃないんだ。友達や会社の人には下の名前で「大和」と呼んでくれと言っていたようだ」


 そう言えば、初めて会った喫茶店でそのままのことを言われた記憶がある。


「じゃ、じゃあ……先生は、東京と福岡の遠距離結婚……?」


「いえ、基本テレワークだから、あの人は福岡に住んでるわよ? 月に何回か東京には行ってるけど」


「そ、そうなんですね……」


 こんなところにこんな人間関係が……。だから、西村綾香先生は出版業界に詳しかったのか。そう言えば、姉嵜先輩も。


「あれ? じゃあ、西村先生の名前は⁉」


「私はこれまで学校内で『西村』で来たから、混乱しないようにこのまま『西村』で行くことにしたの。夫婦別姓はまだだけど、学校が認めたら別に校内では『西村先生』でも問題ないのよ?」


 そうだったのか……。


 西村綾香先生は大和さんの奥さんだったのか……。


 そう言えば、西村綾香先生と姉嵜先輩がやけに仲が良いと思ったことがあったんだ。言ってよ!


 □□□


 僕の生活は色々変わっていった。


 大和さんは、姉嵜先輩の兄。つまり、姉嵜先輩は裏で色々応援してくれていたのだろう。


 そのことを聞くと、「私がちょっと言ったくらいで書籍化にはならないから、あの本が出版されたのは九十九くんの実力だよ」と、姉嵜先輩は言ってくれていた。


 そのチャンスさえないのが普通だから、僕は恵まれていたのだと思う。


 そして、助手はあのツイッターアカウントで僕の本をすごく応援してくれていた。しかもその後、「愛衣」は「AMI」の別名だということにしてくれたのだ。


 元々、AIを使ったのだけど、そこに僕の好きな絵柄の「AMI」のイラストを大量に食わせて、描かせたのがあの小説の表紙絵なのだ。


「AMI」の絵っぽいと言われてしまえばそうだろう。AIに「AMI」のイラストを大量に学習させて描かせたものが、それなのだから。


 本来、AIイラストで問題となりそうなのは、元絵を描いた人の著作権問題だと思う。でも、この場合、元となったイラストの絵師が「いい」と言ってくれているのだから何の問題もない。しかも、AIイラストだったことは伏せているのでツイッターなどでも炎上することはなかった。


 助手に言われたこともある。


「昔の約束では、書籍化の時は先輩が小説を書いて、私がイラストを描くって約束しました。でも、知らない間にkindle出版をして、知らない間にAIにイラストを描かせて……。最初は別の誰かに描かせたと思って本気で落ち込みました。先輩を殺して、私は気分転換しないと、と思った程です」


 その場合は「先輩を殺して、私も死ぬ」……じゃ、ないんだ。


 僕の2冊目の本は1冊目以上の大ヒットだった。高校生作家というのが話題になったし、これまで商業的なオファーを一切受けていなかった人気絵師「AMI」が表紙絵とイラストを描いたことが話題になった。


 さらに、サイン会などの各イベントでは、その世界観そのまんまの「愛衣」こと、姉嵜先輩が会場を盛り上げてくれたのだ。


 そのビジュアルからマスコミにも取り上げられ、本が注目され売れに売れたのだ。


 学校においてもそれは影響した。「ラノベ研究【会】」は「ラノベ研究【部】」に昇格し、文芸部を飲みこんで、部員20名以上の大所帯の部になった。ちなみに、部長は姉嵜先輩。


 部になったことで、部室も手に入った。本を買うための部費ももらえるようになった。姉嵜先輩が、銀髪ロングのアニメ声で話しかけてくれ、半眼ジト目、無表情の助手が呆れた表情を向けてくる。


 部になったことで、西村綾香先生は部室にちょくちょく来ることになった。


 僕の……いや、僕達のラノベ研究部には、僕の好きな物が全部あった。


 そして、僕の本は助手と姉嵜先輩のアドバイスもあって、起承転結、可愛いヒロイン、そして、そのヒロインが主人公を好きな理由も全部があった。


 僕は、これまで憶えた全てを使って3冊目、4冊目とヒットを飛ばし続けるのだが、それはまた別のお話だ。


 <END>

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架空のAI絵師が授賞式で僕の目の前に現れた! 猫カレーฅ^•ω•^ฅ @nekocurry

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